再読『チーム』 [読書日記]
箱根駅伝の出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツといわれる駅伝で、いわば“敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何のために襷をつなぐのか。東京~箱根間往復217.9kmの勝負の行方は――選手たちの葛藤と激走を描ききったスポーツ小説の金字塔。【MT市立図書館】
池井戸潤の新作『俺たちの箱根駅伝』を読んだ後、デジャブ感が強かったので、同じく学連選抜チームの激闘を扱った堂場瞬一『チーム』を再読することにした。なお、本作品は2011年1月に一度読んでいる。学連選抜を主題としてとり上げる作品は『チーム』で1つの形が作られてしまったので、池井戸氏の最新作を知った時も、ちょっと二番煎じかなという危惧はしたし、どこで『チーム』との差別化を図るのかで頭をひねったのかも見どころではあった気がする。
『俺たちの箱根駅伝』をご紹介した際、「この波乱が起きるには、①学連チーム監督の采配と選手との適合性、②荒れた気象条件、③学連チームのチームとしての一体感の醸成、④他の有力校の抱える不安要素―――等々の要素が重ならないと難しい」と書いた。
『チーム』の方は、4位どころか優勝争いを描いているので、『俺たちの箱根駅伝』以上にハードルが高いが、『チーム』にも同じ要素はあったように思う。山上りや山下りのコースに適性がある選手が予選会敗退チームにいるかどうかはやはり大きな要素だろう。いずれの話でも、ブレーキになる区間もある。それはストーリー展開上必要不可欠な波乱だと言える。
そうすると、それを挽回するための「大砲」役が必要になるし、ブレーキ区間で主人公チームを置き去りにしていった上位校も、差があまり広がらないようにするための仕掛けもいる。池井戸作品ではそれが「雪」と異常低温だった。堂場作品でも、初日は低温が使われていたが、逆に2日目の暖かさが波乱要素に加えられ、上位チームの選手の「脱水」と、主人公チームの選手の「古傷の緩和」にもつながった。
あとは、堂場作品では、学連選抜の主将の浦君を主人公に据えつつ、時折監督や学連選抜の他のメンバーの視点を入れて一人称で描くという手法が取られているが、一貫して学連選抜チームの関係者を主軸としたストーリー展開となっていた。池井戸作品はというと、監督はあまり主人公としては重きを置かれておらず(退任した前監督の目線は重視されていたが)、また番組制作サイドの目線が新たに加えられていた。
いずれにしても、順位変動を波乱要素にして、後半勝負の展開を作れば、ストーリーとしての面白さは確保できるというテンプレが確立された気がする。有能なランナーを10人以上揃えないといけない箱根は、学連選抜チームには有利な面も不利な面もあると思うが、今後も学連選抜のようなチームの一体感醸成に課題を残すようなテーマで小説が書かれるとしたら、テンプレ化した上述のストーリー展開をいったん捨てて、往路だけに選手を絞り込んで、ハイスピードな展開の中で優勝を遂げるストーリーにしたら面白いかもしれない。復路はいっそのこと捨てちゃってもいいので、「優勝」だけは確実に取るというストーリー展開は、まだ未開拓の領域として残っている。
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