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ファブ・ブータン・チャレンジの経済効果 [ブータン]

ファブ・ブータン・チャレンジのイノベーションには高い費用対効果が期待できる
Fab Bhutan Challenge innovations expected to yield high return on investment
Karma Samten Wangda記者、BBS、2023年7月27日(木)
http://www.bbs.bt/news/?p=189565
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【ほとんど抄訳【抄訳(www.DeepL.com/Translator(無料版)翻訳を筆者編集)】】
第19回世界ファブラボ会議・シンポジウム「FAB23」が明日閉幕する。ドルック・ホールディングス(DHI)が主催したこのイベントには、世界中から何百人もの発明家、アーティスト、研究者、起業家、クリエーターがブータンに集結した。しかし、FAB23では「ファブ・ブータン・チャレンジ」も開催され、5つのチームがブータンが直面するさまざまな課題の解決策のデザインに取り組んだ。経済学者による費用便益分析によれば、チャレンジを通じて得られたデザインへの投資は、投資額の12倍という高いリターンをもたらすという。

7月16日から21日にかけて開催されたファブ・ブータン・チャレンジでは、5つのチームがブータンが直面するさまざまな問題の解決策を見つけることに取り組んだ。これらの課題は、モンスーンに強い農業の促進、清潔な飲料水の提供、人間と野生動物の衝突の防止、伝統的な手工芸品の支援、特別な支援を必要とする生徒の教育アクセスの改善を目的としていた。

このチャレンジで5つのチームが提案したソリューションは、大きな可能性を示している。そのソリューションとは、農業の生産性を向上させるための自然空調温室、清潔な飲料水のための水流モニター、人間と野生動物の衝突を減らすための強化電気柵、織物生産を向上させるための標準化された織機デザイン、特別支援教育のための革新的な自助具などである。

アジア開発銀行のエコノミスト、ミラン・トーマスは、ファブ・ブータン・チャレンジをつぶさに観察し、最近、ファブ・ブータン・チャレンジによるイノベーションの経済収益について分析を行った。

経済効果は、便益と実施コストの両方を考慮した費用便益分析によって評価された。彼の分析によると、10年後、ファブ・ブータン・チャレンジのデザインは、実際に実施されるイノベーションの数にもよるが、投資コストの5倍から12倍の経済的リターンをもたらす可能性があるという。

さらに、このチャレンジで開発されたイノベーションは、意図したターゲット以外にもその範囲を広げる可能性があるという。

この分析では、ファブ・ブータン・チャレンジのイノベーションが、2034年までに高所得国になるというブータンの願望に道を開く可能性があると提案している。

既にファブ・ブータン・チャレンジは結果が出ていて、我がファブラボCSTがホストした「地域のアルミ缶廃棄物を活用して、障害児の自助具の部品として活用する(Aluminum Waste, Gracefully Braced)」が見事People’s Choice Awardを受賞した。記事が紹介しているような自助具のプロトタイプ展示だけでなく、オープンソースで現地複製が可能な点字プリンターも試作し、さらに将来的にはSENスクールの先生や生徒が、障害を持つクラスメートの自助具を自身でデザインできるよう、自助具デザインを学校のSTEAM教育に5年かけて統合していく政策提言まで行って、教育大臣はじめ教育行政関係者の注目を集めた。


ADBはスーパーファブラボと組んで、オープンソースのデータを使って全国のSENスクールで3Dプリント自助具の普及を行おうとしていたらしいが(今月、ティンプーに出張していてたまたま偶然耳にした)、ファブラボCSTが「チャレンジ」を通じてここまでの提案をしてきたため、教育省はファブラボCSTに興味を示すようになり、ブータンのファブ関係者は「ファブラボCST」を無視できなくなってきている。

報道の中で登場するミラン・トーマス氏というのは、ADBのブータン現地常駐代表らしいが、ファブ・ブータン・チャレンジを「つぶさに」と言えるほど見ていた形跡はないし、FAB23カンファレンス会場においてもADBの存在感があったとは正直思えない。でも、氏が報道の中で述べている費用対効果については、僕もチャレンジに関わった当事者の1人として同じ感覚は持っている。これ、通常の資金援助や技術協力と比べても、費用対効果がかなり高い気がする。

FAB23会場で頻繁に耳にしたファブの考え方は、「グローバルにつながり、ローカルに作る(Globally Connected, Locally Productive)」というもので、全世界から300人以上のファバー(ものづくり愛好家)が集まって来て、うち40人はファブ・ブータン・チャレンジに参加して、ブータン側カウンターパートと一緒に、5日間の課題解決プロトタイピングに取り組んだ。うちの場合はこれに張り付いたのがCSTの学生で、ここでの交流が今後の彼らのプロジェクト製作でも相談相手として期待できるだろう。

今まではJICAの技術協力プロジェクトの派遣専門家を通じての交流がもっぱらだったのが、こうして多くのファバーとの接点ができたことで、JICAのプロジェクトは今年12月に終わってしまうけれど、それに代わってこうしたグローバルなつながりと資金のフローがJICAのプロジェクト終了後を下支え―――というか、事業を継承していってくれるような気がする。

さらに言えば、今年のチャレンジで優勝したことで、来年8月にメキシコで開催されるFAB24において、今後1年間の取組み状況の報告責任が発生した。昨年10月のFAB17(於インドネシア・バリ)におけるファブ・アイランド・チャレンジの今年のフォローアップ状況を見ていると、これは1回ぽっきりのイベントではなく、来年以降も実施・発展が期待されるプログラムらしい。時間的な制約もあって、今年は突貫工事で拙速にチャレンジテーマを決めたが、もう少しじっくり検討できたら、今後は他のコミュニティの課題についても、解決策のプロトタイピングが行われるだろう。

ただ、今回は5日間という期間限定だったので、5日間で試作品が完成させられるプロトタイピングしか実際には行われなかった。これも、社会実装にはさらなるイテレーション(反復)が続けられる必要があるだろうし、プロトタイピングの対象から落ちてしまったアイデアを、長期的に拾ってプロトタイピングにつなげていく仕組みも必要だと思う。(だから、ミラン・トーマス氏の費用対効果の試算には、「5倍~12倍」という開きがあるのだろうと予想される。)

普段、CSTの学生のプロトタイピングのプロセスを見ているから、ちゃんとコミュニティのステークホルダーと接触し、そこでのインタビューを経てアイデア出しに至るプロセスをちゃんと踏んだ今回のファブ・ブータン・チャレンジは、CSTの学生に対しても、「利用してもらえるプロダクトの試作とはこういうものだ」というケースを提示してくれていたと思う。学生にとっては大いに勉強になったことだろう。

そして、こういう「グローバルにつながる」というきっかけが既に作られた以上、そのつながりの何本かは、今後も維持発展がなされるだろう。そうなってくると、契約期間の間だけの期間限定で一過性のつながりしかない伝統的な技術協力は弱い。案件があろうがなかろうが、特定の専門家が、本邦からないしは短期の現地派遣を通じて、長期にわたって関係を維持できるような仕掛けを考えていかないと、日本の開発協力関係者が、「グローバルにつながる」輪の中にはなかなか入れず、置いてきぼりを喰う可能性も相当高いと危惧する。

【追記】

このBBSの報道は27日(木)に報じられたが、29日(土)にクエンセルへの寄稿として、同氏とDHIのナムギャル・ゲルツェンさんのコラムが掲載された。こちらの方まで詳述する余裕はないが、関連情報源として追加掲載しておく。

"FAB23 demonstrated how investing in innovation is critical for Bhutan’s economic aspirations"
https://kuenselonline.com/fab23-demonstrated-how-investing-in-innovation-is-critical-for-bhutans-economic-aspirations/
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