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『サンセット・サンライズ』 [読書日記]

サンセット・サンライズ

サンセット・サンライズ

  • 作者: 楡周平
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/01/25
  • メディア: Kindle版
内容紹介
在宅勤務なら「お試し移住」してみよっかな?
選んだ場所は魅惑の“楽園”だった!
築9年、3LDK、家具家電付き――なのに家賃8万円!?大手電気機器メーカー「シンバル」に勤務する西尾晋作は、海釣りが大好き。コロナ禍でテレワークが当たり前になったことを機に、海に近い田舎に移住を考え始めると、宮城県に家具家電付きの神物件を発見する。家賃の安さに惹かれ、「お試し移住」を始め、夢のような山海の幸に大満足。地域民とのいざこざを経験し、晋作はこの楽園で、ある新事業を思いつく――。
【コミセン図書室】
一時帰国して早々、いつもお世話になっている近所のコミュニティセンターの図書室を訪れた。通い始めてからもう20年近くになるが、未だに利用者カードを使った手作業での管理が行われている。自分が通算で何冊の本を借りたのか、調べることも難しい。

公立図書館がいずれもオンライン化が進んで、利用者への利便性が高まる中で、コミセンの手作り感はいささか時代遅れの感はある。でも、市内に支所がいくつもあるわけではなく、ここ単独での運営である。目的の1つはコミセンの利用者を増やすことにあるのだろうから、この運営体制でも十分なのだろう。

それに、公立図書館だと新刊本は順番待ちになることが多い。それがコミセンなら、運が良ければすぐに借りられる。帰国早々コミセン図書室に立ち寄ったのは、そんな期待感があったからだ。

ただ、残念ながら狙っていた本にはなかなか出会えなかった。読書メーターの「読みたい本」リストに挙げていた本のうち、かろうじてコミセンで見つけられたのはたったの1冊。それだけ借りれば良かったのだが、なんか物足りない。そこで追加したのが楡周平作品。

わりと多作の作家だが、あまりハードボイルド系の作品にはお世話になっておらず、『介護退職』『プラチナタウン』など、会社勤めしていた主人公が何かのきっかけに親の介護や故郷の地域おこしといった問題に、企業人の目線から取り組むという、この作家としては異例の作品の方に時々触手を伸ばすぐらいのことしかしてこなかった。読まなければ読まないで済ますこともできる、それくらいの位置付けなのだが、東京を離れてのリモートワークは作品の主題としては流行のようだし、これも読んでみることにした。

なんとなくエンディングが最初から読めてしまったのだが、そういう予定調和的なエンディングを期待して読んでいたところもあったので、それ自体は減点要素にはならない。読み物だと割り切って、肩の力を抜いて読むなら、いい娯楽作品だと思う。

そういう課題解決のアプローチもあるよねと気付かせてもらえる作品だった。でも、企業による課題解決は地方に増加する空き家をすべてカバーできるものではないため、そこには不公平感も存在する。その部分は曖昧な形で終わらせている点には注意は必要だろう。

それと、本当によくわからないのは、こういう、完全地方移住を伴うようなリモートワークが本当に可能なのかという点だった。会社の同僚とのオンライン飲み会のシーンは作品中度々出てくるのだが、普段の仕事がどのように行われているのかがほとんど描かれていない。趣味の釣りやクッキングのシーンはあってもいいし、オンライン飲み会や社長との打合せ、役場との打合せのシーンもあってもいい。でも、月曜から金曜まで平日の日中に拘束されている本来業務の中身があまりはっきり描かれていないので、本当にこんなことが可能なのかという点に、わかりにくさは多少感じた。

たぶんそうなっていくのだろう。単に研修の講師を務めるだけなら、オンラインでも十分できるというのは、プンツォリンからティンプーの学校の先生向けに教員研修をホストした経験からもわかる。自分の生活拠点が日本に移っても、求められればこういう講習は続けられるかもしれない。感覚としてなんとなくわかっていることなのだが、それが田舎への完全移籍を行っても続けられるのかどうか、まだまだ僕には確信が持てずにいる。

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