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再読『国土計画を考える』 [持続可能な開発]

国土計画を考える―開発路線のゆくえ (中公新書)

国土計画を考える―開発路線のゆくえ (中公新書)

  • 作者: 本間 義人
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1999/02
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
列島改造、田園都市構想など時々のコンセプトを掲げて国土を開発してきた「全国総合開発計画」は日本の現在の豊かさの原動力となった。反面、中央主導、公共投資重視によって環境破壊、東京一極集中をもたらし、地価高騰、政官財界の癒着を生み出したのも国土計画であった。しかし98年に策定された新計画にこの反省は生かされていない。地方分権と行財政改革が迫られている現在にふさわしい国土計画とはどのようなものであるべきか。
【キンドル】
このところ度々話題にしている3月14日(月)の講義、1週間の余裕残しで読上げ原稿を先に作り、7日(月)からは講義資料のスライド作成に入った。「余裕残し」といってもそれほど余裕があるわけではない。スライドを作りはじめてみて、これからが情報武装・理論武装の正念場だと気を引き締めている。

その情報武装の一環で、日本の地域開発政策の経験を復習しておこうと思い、5年半ぶりに再読することにしたのが本書である。1962年策定の「全国総合開発計画」(一全総)から、1998年策定の「21世紀の国土のグランドデザイン」(五全総)に至るまでの国土計画の歴史と教訓、そしてその反省と教訓を次の全総策定に生かせず、東京一極集中と地方にある廃墟リゾート施設、地価高騰とバブル崩壊、県知事の中央陳情、予算ぶんどり合戦等を生み続けてきた日本の半世紀近い失敗の経験を、わりとコンパクトに整理してくれているいい文献だ。

また、自分の講義プランとの関係で言えば、①全総と各県の県総合開発計画の連動性(特に「定住圏構想」を謳った1977年の「三全総」と80年代の「テクノポリス構想」が県の施策に与えた影響)、②僕たちが学生時代に途上国開発の文脈で語っていた「内発的発展論」と日本の地域開発政策との関連性、さらに、③自分の講義の最後のまとめで使おうとしていた「地域における交流と学習のデザイン」というのが、全総の経験と教訓の中からも導き出せるのか、という3つの点から確認できたのが収穫といえる。

前回紹介した際、相当な箇所の引用をブログ上でやっていたので、そちらも参照していただければと思うが、上記で示した再読にあたっての問題意識から、新たに下線を引いた箇所について、少しばかり追加で引用させていただければと思う。

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開発が大規模に進められた結果、東京一極集中、全国的に際立つ過密・過疎、荒廃する一方の国土が、日常の光景になってしまった。こうした現在の国土構造をつくりだしたのも国土計画である。

開発至上主義でさまざまなひずみをもたらした過去の教訓

国土計画もまた「分権」されなければならない

地域が(国の)上位計画に頼ることなく自らの計画を立てること

全国総合開発計画制定の根拠法となっている国土総合開発法(一九五〇年)の第一条で「国土の自然的条件を考慮して、経済、社会、文化等に関する施策の総合的見地から、国土を総合的に利用し、開発し、及び保全し、並びに産業立地の適正化を図り、あわせて社会福祉の向上に資することを目的」とした計画とされている。

国土計画を頂点に、その下位に諸長期計画と地域開発計画があるピラミッド型の体系

国土計画には本来フィジカルでない分野も含まれている(中略)それがもっぱらフィジカルな面、つまり物的計画(社会資本整備のための公共事業)にのみ目が向けられてきた

これは経済計画そのものを志向した国土計画

一九八七年六月に閣議決定された第四次全国総合開発計画(四全総)は、中曽根康弘内閣が掲げた国際化、情報化、ハイテク化を全国に貫こうという考え方を国土空間にどう表現するかに苦心が払われ、多極分散型の開発を志向した国土計画である。

一全総では全国に新産業都市と工業整備特別地域をばらまいた。二全総では大規模工業基地を、三全総ではテクノポリスを、四全総ではリゾート地域をといった具合に、国土計画という親ガメにつねに子ガメである全国計画をともなわせる原型を作った

国土計画が目指した過密・過疎の解消どころか、逆に人口の三大都市圏への、なかでも東京圏への集中を加速しただけだった

都市づくりの視点が欠けていたからではないだろうか

【三全総】
三全総の特色が、二全総の後始末をするために策定された、二全総とは異なる発想にもとづいた国土計画である

【定住圏構想】
田園都市国家構想(大平正芳内閣)「都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力をもたらし、両者の活発で安定した交流を促し、地域社会と世界を結ぶ、自由で、平和な、開かれた社会、そうした国づくりを目指す」

三全総は開発戦略として定住圏構想を掲げ、全国土にわたって人間居住のための総合的環境整備を図ろうとした(中略)だが、開発戦略はともかく、三全総がその計画実現に依存したのも、結局は従来と変わりない公共事業と工業先導型の開発でしかなかった

地域社会の活力が生かされるように、自然環境・生活環境・生産環境の調和のとれた居住環境を整備し、魅力ある地方都市づくりを通じて、若年層を中心に人口の地方での定住を促進しようというもの

定住圏とは、都市・農山漁村を一体とした山地・平野部・海の広がりを持つ圏域で、地域開発の基礎的な圏域であると同時に流域圏・通勤通学圏・広域生活圏としての生活の基本的圏域である

定住圏は国がつくるものではない、主体となるのはあくまでも地方自治体である

岐阜県大垣(大垣)

そもそも三全総は、地方における定住圏を確立するにあたっては、まず「総合的環境の整備」が必要であると指摘し、住民の快適で健康的な社会生活の場として、周辺の農山漁村地域住民の生活と生産・流通の中心として、定住圏を中心となる地方都市の総合的環境を整備すると、目標を掲げていた。

これは圏域での定住を図るには住民の暮らし、健康、文化等の居住環境の整備を、住民のニーズに対応して総合的に進めることが重点的におこなわれなければならないということである。(中略)しかし実際に進められた中心的事業は(中略)巨大土木事業であり、工場誘致事業でしかなかったのである。

【テクノポリス構想】
工業化路線は息をひそめながらしぶとく生きつづけ、三全総期間中にテクノポリスとして息を吹き返すことになる

テクノポリス構想は、相も変わらず美辞麗句で「地域の文化・伝統と豊かな自然に先端技術産業の活力を導入し、『産』(先端技術産業群)、『学』(学術研究機関、試験研究機関)、『住』(潤いのある快適な生活環境)が調和した『まちづくり』を実現することにより産業構造の知識集約化と高付加価値化の目標(創造的技術立国)と二十一世紀へ向けての地域開発の目標(定住圏構想)とを同時に達成しようとする戦略である」とされ、八〇年三月に公表されるや、各地域でその指定を受けようとするテクノフィーバーと称されるブームが起こった。(中略)なんと四〇近い地域が名乗りをあげ、同省(通産省)はそのなかから八一年六月、まず一九ヵ所をテクノポリス基本構想策定地域に選定した。

この構想は、「産・学・住」が一体となったポリス(都市)づくりのはずである。しかし、八二年に出された通産省の『テクノポリス構想について』という文書によると、(中略)それは先端技術産業の立地拠点の整備計画そのものでしかない。すなわち(中略)従来の地域開発計画の多くがそれで失敗した、企業立地誘致型の開発計画そのものなのである。

企業が地域を見捨てたのちも活力を残存しうるような、生活優先の視点に立った「ポリス」づくりが必要

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こうして急いで再読しながら、改めて思ったことがある。

1つは、3月14日の講義は「日本の地方開発の経験」といったようなテーマで、僕自身が今当地で関わっている仕事とも絡めてしゃべっていいということになっているため、話が全総からは少し外れている。全総の中でも、特に三全総の定住圏構想やテクノポリス構想は、直接ではないけれども関連するが、ポイントは地方自治体と地方住民というところにあり、そこに暮らす人々が主体となった地域づくりということになっていく。

ただ、一方で国に目を移した場合、全総で繰り返された中央主導の計画策定がうまくいかない、地方の視点の欠如は、それはそれで日本の経験として、語られてもいいのではないかという気がする。僕も依頼された連続講義の主催者も、「日本研究」で今後同じようなシリーズを組む機会があるのなら、全総の経験というので講義を1本立てられたら、それはそれで途上国のテクノクラート向け講義としては有用であるように思う。

2つめは、ブータンでJICAが支援して2019年に出来上がっている「ブータン版全総(CNDP2030)」についてで、これはすでに出来上がっていてブータン政府に納品もされている。ブータンの国土計画、産業配置やインフラ整備のグランドデザインたる長期計画と見られているが、策定から3年近くが経過し、その策定に関わった人々が部署から離れて、語られることすら少なくなってきた。


公共投資の将来計画にも関わるものなので、計画書そのものが公開されたら様々な思惑が絡み、中には土地の買い占めに走るようなケースも出てくることが予想されるため(それも日本の全総の経験)、現在公表がされていない。で、人も変わり、公表もされていない計画が、忘れ去れるリスクは高いと思うし、日本の経験にもある「地域住民」の視点や地方自治体の主体性など、求めるべくもない。

さらに、CNDP2030の推進根拠となる法整備もされているのかわからない。本書を読み直してみて、その上でCNDP2030を眺めてみると、推進するための課題がいくつかあるように感じられる。

日本の全総の経験を踏まえ、CNDP2030の推進における現状の課題とは何なのか、ちょっと整理してみてもいいのかもしれない。
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