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辞めるのにも理由がある [ブータン]

2月23日から再開された首都のロックダウンも、この記事を書いている時点(2月28日)ですでに6日目を迎えている。さすがに今回はゾーン規制もゾーン内移動に制限されていて、気晴らしにウォーキングもできない。狭いゾーンの中には野犬多発地帯もあって、安心して歩けない。また、移動可能時間も1日2時間30分に限定されている。息苦しさは前回以上だ。

そんな中でも気分転換の意味もあって、いつもよりもオンラインのセミナーの傍聴を多めにしている。

2月26日(土)、日本ブータン研究所が主催した「第149回ブータン勉強会(2021年度第9回ブータン連続セミナー)」というのを聴いてみた。

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任地にも入れず、首都での仕事は自分で作らないといけない立場に置かれているが、この勉強会は毎回週末に行われていて、しかもオンラインだし、自分の関心領域外だとしても、後学のためには出席したいと常に思っていた。でも、その自分が作った仕事で土曜日が終日つぶれることが多く、これまでのセミナーは時間の都合でどうしても出られなかった。

しかし、今回はロックダウンのお陰で聴講できた。「映像作品を通してブータンの諸相を学ぶ⑨―『ベスト・オブ・ドキュメント』「アジア・モナーキー 君主制の過去と未来 ブータン編」(2012年)―」というテーマで、英BBCが制作した番組の日本語編集版を見た後、お茶の水大学の平山雄大先生による解説付きだった。

ご参考までに、NHK制作の日本語編集版のBBCオリジナルのYouTubeは以下の通りだ。後で見よう。


この映像作品の視聴もそうだが、初代国王のお父さんのジグミ・ナムゲルから、三代国王の統治下に至るまでの様々な出来事に関する平山先生の解説もあって、文字情報だけではなかなか理解しづらい歴史の話を、映像作品を見ることでよりよく理解できた気がする。

元々特定の時代がオタクレベルに好きだった日本史やちょっとだけかじったインド近現代史ならともかく、ブータンの歴史の話になると研究者の見識を拝聴するだけになってしまう。気の利いた質問やコメントができればよかったが、他の方のチャットでの書き込みも活発だったし、僕は静かにしていた。

1つだけ気になったのは、「国会議員も任期途中で留学のために議員辞職してしまう」というケースに触れられたくだりである。話の前後関係からは、昔の国会議員にはオーラがあったが、民主化以後選挙で選ばれた国会議員は存在感が軽いというニュアンスが伝わってきた。昔の国会議員と接したことがないので、このニュアンスについては否定も肯定もしないが、最近の国会議員のケースとして言及された議員辞職については、ちょっと別の見方もあるかなと思ったので、ひと言だけ述べておきたい。

これは2016年8月に報じられた、当時野党だったDPTの議員が、米国ハーバード大学ケネディスクール留学を理由に議員辞職を党首に申し入れ、野党党首がこれを認めたという報道だった。当時自分がブログでこの報道について何か書いていたか調べてみたけれど、その記録はなく、ただ当時のクエンセルの報道で見かけて、国会議員の職は米国留学よりも軽いのかと思った記憶だけはある。

その時の僕の印象は、ブータン勉強会での平山先生のコメントとまったく同じだった。また、今でもこの議員の方のお名前が出ると、ブータンの人であっても、「議員の責務を途中で投げ出した人」という、ちょっと否定的なニュアンス込みで語られることが度々ある。

ただ、その後、僕はどういうわけかその元議員の方と東京でお目にかかる機会があり、夕食をご一緒した。また、首都ロックダウンが長引いているおかげで、その方とご家族について、参与観察を行っているような状態に今は置かれている。近くで見ているからちょっと同情的になるところもあるのだが、それを割り引いて、考えてみたいこともある。

それは、民主化後政権与党を担った後、2回目、3回目の国政選挙で野党に留まっているDPTの、次世代リーダー育成に向けた投資だったのではないかという見方である。もちろん、戻ってきたこの方が2023年の次の国政選挙にDPTから出られるのかどうかはわからない。でも、ケネディスクールでこの方が築いてこられた学友とのグローバルなネットワークや、教授陣とのコネクションは、いつか何かの形でこの国にとっては役立てられるのではないかと期待したい気持ちもある。

1日1冊ペースで本を読んでおられる読書家でもある。同じく読書をやってる僕でも3日で1冊というのがせいぜいで、しかもその中に時々小説やコミック、雑誌を入れて水増しすらしている。アカデミックジャーナルや欧米のビジネス書、専門書等を読みこなしておられる方とは雲泥の差がある。当然日常の話題の中でもそうした知見がふんだんに盛り込まれるので、僕自身の勉強不足を恥じることになる。「日本はどうか」と訊かれるので、日本の政策制度構築の経験を自分でも知ってないといけない。

最近の国会議員とはあまり付き合いがないので、傍から見ている印象論に過ぎないが、トブゲイ前首相のPDPにしても、ロテ・ツェリン首相のDNTにしても、政党を選挙で第一党に押し上げるのに貢献したリーダーというのは党内のわりと限られた人々で、あとの議員はちょっと前まで公務員や教員をしてましたという人が多い気がする。政党人事のヒエラルキーの中で過ごしていると、取りあえずの任期はまっとうできるかもしれないが、10年後、20年後を見越した次世代リーダーの育成がなかなかできないし、そういう野心や向上心を持って自己研鑽に励むこともできない。先ずは選挙区の有権者の声を訊き、それに応えないといけないのだ。

勉強会で平山先生も仰っていたが、今の政権の任期は5年で、5年で結果を出さないといけないので、長期的なリーダー育成とか自己研鑽とかはなかなか考えづらいところがあるように僕にも見える。

この国があえて将来の政治的リーダーに投資をしたのだと考えることはできないだろうか。その方が今後どのようなリーダーシップを見せられるのか、もうちょっと長い目で見守りたいと僕は思う。

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