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再読『2040年の新世界』 [仕事の小ネタ]

2040年の新世界: 3Dプリンタの衝撃

2040年の新世界: 3Dプリンタの衝撃

  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
プラットフォームとしての3Dプリンタの衝撃。この機械、人類の敵か、味方か? フリー革命、メイカームーブメントの先に何がある? ビジネスと雇用はどう変わる?ものづくりの常識は一変。限界を超えて広がる可能性を描く。
【蔵書】
発刊直後に衝動買いして、前回、本書を読んだのが2015年8月。その後、何かの役に立つだろうと思ってブータンに持って来て、JICAの事務所の図書資料室に寄贈してあった。それを引っ張り出してきて、今回は再読。

前回と今回の読み込みの前提条件として大きく違うのは、前回は3Dプリンターのことは耳学問としては知っていて、現物を見たことも何度かあったが、今では僕は3Dプリンターを所有していて、しかも印刷するためのデータも自分で加工したりゼロから作ったりすることができるようになっている点だ。6年もかかっているけれど、自分も随分進歩したと思う。

その間に、3Dプリンターのトラブルシューティングも何度か経験したし、フィラメントのタイプの違いや、印刷失敗を回避する方策も、試行錯誤する中で自分なりの方法論を見つけられるところまでは来た。モデリングのスキルも、最初は有料の研修に出たり独習書を購入したりと投資もしたが、そこから先は自分自身が人に説明したり教えたりする状況を作り、その準備の過程で、ネットで調べたり動画のチュートリアルを見たりして、自分でスキルアップを図っていった部分が大きい。

ちょっと前までホワイトカラーをやってた奴が、よくぞここまでモードチェンジできたものだ。

で、そういう状態にまで自分を持ってきた今、この本を改めて読み直してみると、前回は想像の域でしか理解できていなかった記述が、サクサクと頭に入ってくる感覚を味わった。それだけ理解のための素地が出来上がってきたということだろうか。読んでいてとても嬉しかった。

前回読んだ時に随分と付箋を貼っていたのだが、そうした箇所を今見直してみると、3Dプリンターを日常的に使用していない、第三者の客観的な視点から3Dプリンターを眺めていたのだなと改めて気付かされた。

それに比べて今回は、自分が当事者になっているからか、前回はそれほど響かずスルーしてしまった箇所が、よりリアリティを持って共感できると感じて、さらに数カ所新たに付箋を貼った。

例えば、3Dプリンターは一品もののカスタマイズ生産に適しているため、障害者の障害のレベルに合わせた自助具を製作するのにはすごく向いている。だから、当地(ブータン)での3Dプリンターの普及を考えた時に、障害者というのは早くから頭の中にはあって、今一緒に活動を進めている。

で、ここまでは既に僕も進めていたことなのだが、本書を読むと、ああ、「犬」というのはどういう姿をした生き物なのか、視覚障害を持った子どもに触って体感してもらうには、3D印刷物は有用なのだと気付かされた。この箇所を読んでいたちょうそさなか、僕は教育省の特別教育課で視覚障害を持ったスタッフの方とお話しする機会があったが、「動物の模型も作れるのか」と訊かれた。なるほどと思った。

また、ここの国では「STEM教育」といえば「プログラミング教育」とほぼ同義なので、3Dプリンターを学校教育で活用するという段階にはまだ至っていない。STEM教育のカリキュラムの開発を手掛けている部署がそれで良しとしていて、STEM教育で他のスキルを伸ばすことには思いが至っていないと感じる。でも、本書の学校教育に関する章を読みながら、実際に身の回りで起きている問題に対して、解決策を考える場合、3Dのデザインや印刷ができたらいいのだろうなとやはり考えた。

政府のカリキュラムとしては決まってしまっていることなので、違いを示す機会としては、夏休みや冬休みの課外学習でそのような場を提供していくことなのだろう。

3つめは、3Dプリンターが招く「無分別なものづくり」により、大量のごみが発生する可能性に関する指摘であった。これは僕自身が印刷失敗を繰り返すことや、ただでも印刷後に除去するラフトやサポート材があるために、3Dプリンターを普及させればさせるほど、廃棄物管理の在り方についても考える必要があると漠然と思っていたけれど、本書のこの記述を読んで、核心をズバッと突かれた気がした。

4つめは「オープンソースのハードウェア」。そもそも前回読み始める時の動機として「オープンソース」というのがあった筈なのに、前回の読書日記ではあまりその点に触れていない。でも、今は、供与機材のパーツをオープンソース化せよと前回記事でも論じているくらい、オープンソースについては思うところもある。これも、自分の理解が6年間のうちに随分と深まったのかと感じたポイントだった。

やや蛇足だが、今回の再読で、今の僕にとって最も有用だと感じたのは、次の数章だった。
 第9章 教室の中の工場:新しい学びの扉が開く
 第11章 グリーンでクリーンなものづくり
 第12章 所有権、安全性、法律のニューフロンティア

最後に、本書第13章で、「アールグレイ症候群」なる言葉が出てくる。『スター・トレック』のレプリケーターが、紅茶のアールグレイを注文するためだけに劇中登場するのをもじって、3Dプリンティングにも、まだ未開拓の新たなデザインの余地が残っているのに、我々の想像力が過去の経験に囚われ続けていて、型破りな発想が出てきにくいと指摘している。

そこで使われているのが、筆者が大学でのデザイン課題で、できるだけ『とんでもない見かけ』の鉛筆立てを作るよう学生に課題を出したところ、比較的おとなしい、常識的なデザインしか出てこなかったというエピソードだ。

僕はこれに近い経験を当地の学生と接していてしたことがあり、それをもって「ブータンの学生は上から教えられること、正解を与えられることに慣れていて、自由で斬新な発想がなかなか生まれてきにくい」と結論付けたことがあるが、筆者の体験した米国の大学でのエピソードを鑑みると、この問題はもっと世界的に共通した、根の深い問題なのかもしれないとも感じた。

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