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『2030年アパレルの未来』 [シルク・コットン]

2030年アパレルの未来: 日本企業が半分になる日

2030年アパレルの未来: 日本企業が半分になる日

  • 作者: 福田 稔
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2019/06/21
  • メディア: 単行本
内容紹介
【売れています!発売40日で3刷決定!大反響!】
関係者待望の1冊!業界トップコンサルタント、初の著書がついに刊行!2030年のアパレル業界の未来を徹底解説!これから10年でいったい何が起こるのか?生き残る企業、消える仕事は?アパレルの最新動向・業界の課題・処方箋、すべてがこの1冊に凝縮!

アパレル・ファッション業界の現状と課題、今後の展望を俯瞰した本。2017年に日経BPから『誰がアパレルを殺すのか』が出た頃からこのタイプの本は増えていったが、その後、総合法令出版、日本経済新聞出版と来て、そして東洋経済新報社からも本書が出た。著者はいずれも違うけれど、だいたい描かれていることの趣旨は共通しており、これから間違いなくシュリンクして2030年には7兆円を割り込む可能性もある国内アパレル市場だけをターゲットにしていては埒が開かない、インバウンドの特需と越境ECの拡大を通じ、外国市場にも目を向けようというようなことが書かれている。

本書で再三強調されているのは、グローバルで見ればアパレルは成長産業で、2022年まで市場は年平均5%の成長余力があり、市場規模は約195兆円に達するということである。世界では、テクノロジーをうまく活用したアパレルのスタートアップ企業が急成長を遂げている。その多くが設立から15年以内の若い企業であり、テクノロジーを起点にした独自のビジネスモデルを打ち立てている。越境ECが今後も増えて当たり前になってくる中で、ガラパゴス化した国内市場だけ見ていてはダメだという。

こういう展開の仕方なので、当然、テクノロジー関係の記述が多い。多分、その多さは、先日ご紹介した尾原蓉子『Fashion Business 創造する未来』並みで、後出しじゃんけん的にそういうビジネスケースを多く紹介しているので、実際デジタルテクノロジー、例えば3D印刷技術がアパレル業界でどう活用されているのかは、実は本書の方が詳しく書かれている。

業界トップコンサルタントが書いたいい本だ―――と言いたいところだが、ちょっとだけ苦言を呈することにする。

第1に、なぜタイトルに「2030年」を入れたのかがわからない。僕らが「2030年」と言ったら、SDGsの目標達成年を先ず想像するが、本書には「サステナビリティ」への言及がほぼゼロだったのにはかなり驚いた。業界トップコンサルタントがこの認識だとしたら、日本のアパレル業界自体があまりにもSDGsを意識していないということになるのだろうか。

尾原蓉子さんの著書だったか、日本のアパレル・テキスタイル企業の中で、国際サステナブル・アパレル連合(Sustainable Apparel Coalition、SAC)に加入しているところは少ないとあった。今、テキスタイル・エクスチェンジあたりでは、海洋プラスチックごみ問題も意識して、「持続可能な繊維(Sustainable Fiber)」とか「望まれる繊維(Preferred Fiber)」とかいったアジェンダを打ち出している。同じ2030年をターゲットとしていながら、そうした動きと本書の記述とのギャップはすごい。もしかしたら、業界全体に意識変革を求めている有識者自身にも、意識変革が必要なのかもしれない。

第2に、これも結局のところサステナビリティに対する意識の欠落とも関連するのだが、基本的に本書は消費者にいかに衣服を買わせるかという視点で描かれており、衣服のライフサイクル全体を俯瞰した書きぶりにはなっていないという点を挙げる。世界市場が今後も拡大傾向にあり、アパレルが成長産業だというのは、それはこれから新興国の経済成長がまだ期待できるのだからそうかもしれないが、消費者に買わせることばかりを考えていると、クローゼットに積み上がった衣服をどうすればいいのかという、廃棄ないしはリユースの話にどうしてもなっていく。また、越境ECもいいんだけど、結局物流は行われるので温室効果ガスの排出にはつながる。SDGsの時代に指向されないと本当はいけないのは、温室効果ガスの排出を抑制できる地産地消的な生産体制であり、消費者が長く使ってくれるこだわりの逸品を作っていくことなのではないかと思っていたが、本書はどちらかというと逆の方向性を示唆している。

外国アパレル市場に打って出るような企業の出現を期待していながら、販売員の待遇改善も謳っていたりと、なんか主張に一貫性がないようにも見える。業界分析としては十分及第点だと思うし、おすすめはするけれども、できれば同じような目線の有識者ばかりに執筆を委ねて、版元は違っても金太郎飴のような提言ばかりするのではなく、もう少しサステナビリティの視点から提言ができる執筆者を探してきて欲しいなとも思う。



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