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『未来をひらく道』 [仕事の小ネタ]

未来をひらく道 ネパール・シンズリ道路40年の歴史をたどる

未来をひらく道 ネパール・シンズリ道路40年の歴史をたどる

  • 作者: 亀井温子
  • 出版社/メーカー: 佐伯印刷
  • 発売日: 2016/03/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
インドと中国という大国に挟まれたネパールは長い間、ヒマラヤの山々に閉ざされた、小さな王国だった。首都カトマンズとインドをつなぐ道は、物流と経済活動、人びとの生活の命綱だ。しかしその道も、雨期の大雨によって引き起こされる土砂災害で、度々閉鎖されていた。カトマンズとインドをつなぐもう1本の道をつくる。自然災害に度重なる試練を与えられてきたネパールのその悲願は、日本からネパールに引き渡された1本の道によって達成された。シンズリ道路。構想40年、施工20年。この長い年月は、2度の民主化と内戦という、ネパールの激動の歴史とともに刻まれた。

細かいことだが、前回このシリーズの別の本の感想をブログにアップした際、タイトルのつけ方がイマイチだと苦言を呈したことがある。今回ご紹介する本も、背表紙だけを見たら、これがネパールの話だというのがわからないので、読者が気付くチャンスを損ねている。この本はシンズリ道路建設計画のみならず、ネパールの歴史、対ネパール政府開発援助の歴史も概観できる良書である。ネパールのインフラ整備に関わらず、ネパールに関心のある全ての人が読むに値する1冊だと思う。それが、背表紙に載るタイトル1つのために、広く知られるチャンスを逸している。これは非常にもったいないことである。

このシリーズは、短いものでも5年ぐらいの期間の協力の歴史を、多くの登場人物のその時々の行動を活写することを売りとしている。ODA版の『プロジェクトX』と言ってよい。その中でも、今回のシンズリ道路建設計画はとりわけカバーする期間が長い。構想から40年、施工に20年、世界最大の無償資金協力と言われるこのプロジェクトは、この期間の長さゆえに、プロジェクトに関わった関係者の数が半端なく多いし、文献も沢山ある。これを読み込み、関係者から当時の様子を聞き出す作業は、日本側関係者のみならず、ネパール側関係者へのインタビューもあったので、膨大な時間とエネルギーを費やしたであろうことは想像に難くない。中には鬼籍に入られた方もいらっしゃったようで、その人の功績は第三者から聞き出すしかない。これも大変な作業である。

それをやり遂げたのがJICAの一職員であるというのが驚きである。

さらにこの本が凄いと思ったのは、歴史の掘り下げ方や関係者へのインタビューの本数が半端ないというだけでなく、数字をふんだんに盛り込んでいるという点にもある。変化を示すには具体的な数値を持ち出すのが良いのは間違いないが、どこから引っ張ってきたのか、量的データがかなり使用されている。それが本書のリアリティを高めるのに一役買っている。

工法に関しては専門的過ぎてわかりにくい記述もないこともないが、それでもかなり柔らかくてわかりやすい表現にされている。このあたりは、工法に関する専門知識のない第三者がどちらかというと読者目線に立って描こうと努力した賜物でもあると思う。決してとっつきにくい書物ではない。

それだけに、タイトルのせいでこの本がネパールに関する本だというのが知られにくいというのがもったいない。ネパールに関する本は世には多く出回っているが、僕はネパールに興味のある人にとっての必読の書として本書は薦める。

但し、これは本書が悪いというわけではないが、道路建設を難航させた一要因が沿道住民、それ以外の地域の住民からの横やりだったりしたと聞くと、今のネパール人のあり方に対してはやや疑問を感じたりもした。ローリスクハイリターンだからとのべつまくなしにバンダ(スト)を仕掛けて経済活動を停滞させる、不当な要求を平気でしてくる、それが彼らの民主化のあり方なのかと、首を傾げたくもなった。1990年代後半のネパール人を知っているだけに、読んでいて今のネパール人を嫌いになってしまうような話でもあった。
タグ:JICA ネパール
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