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『あの日の僕らにさようなら』 [読書日記]

あの日の僕らにさよなら (新潮文庫)

あの日の僕らにさよなら (新潮文庫)

  • 作者: 平山 瑞穂
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/12/24
  • メディア: 文庫

内容紹介
桜川衛と都築祥子。共に17歳。互いに好意を抱きつつも、一歩踏み出せずにいた。ある夜、家族不在の桜川家を訪ねた祥子は偶然、衛の日記を目にする。綴られる愛情の重さにたじろいだ祥子。何も告げず逃げ帰り、その後一方的に衛を避け続け二人の関係は自然消滅に……。あれから11年。再会を果たした二人が出した答えとは――。交錯する運命を描く恋愛小説。『冥王星パーティ』改題。
GW明け仕事始めの初日、残業をほどほどで切り上げ、自宅の最寄り駅にある書店にふらっと立ち寄った。購入しようと思っていた文庫本を確保した後、さらに物色していて、平積みになっていた本の帯に目が釘付けになり、次に著者名を見てなんとなく手に取ってみた。帯には「昔の恋人に電話したくなる本、No.1」とあり、著者名は「平山瑞穂」となっていた。この名前、僕が高校時代に付き合ったことがある部活の後輩と1字しか違わない。まさかね、と思いながら内容をチェックしたが、著者は男性だった。

それでも購入したのは、ここ2週間ほど、睡眠時間2、3時間という日々を送っていて、脳内活性化するリフレッシュ効果のあるアンプル剤が欲しかったからだ。朝7時30分に出勤し、退社は24時前後、しかも終電には間に合わせるものの、仕事自体は片が付いておらず、午前1時過ぎに帰宅してさらに1、2時間起きて仕事をやるという日々が続いた。ついでに言うと、週末もどちらか1日は仕事で費やした。もう完全に余裕がない状態で、ちょっと気を抜くと仕事していてもすぐに眠気に襲われる。朝出かける時は疲れが取れておらず、連日チョコラBBやリポビタンDのお世話になった。それでも朝、始業時間より2時間近く早めに出社するのは、朝の方が頭が回転するからでもある。

こうなると、栄養剤や早朝出勤だけでは持たない。気持ちも滅入ってくるので(僕は一度うつ寸前の状態を経験したことがある)、何か気分転換できるものが欲しい。剣道の稽古にもジョギングにも行けない以上、利用できるのは朝風呂の時間帯か、通勤時間帯。そこでできることといえば、読んでリフレッシュができるような小説、しかも現実逃避できるような恋愛小説かと思う。

そんなわけで、普段なら買わない文庫の恋愛小説を、この際だから手元に置いておこうと考えたのである。

内容はというと、少なくとも「昔の恋人に電話したくなる」ということはなかった。期待外れとまでは言わない。少なくとも2人の高校生時代の姿は読んでいてもそれなりに共感は持って読めたし、結末もまあこの展開ならこうかなとも思えたのだが、この登場人物2人が高校時代に離れ離れになってから10年後に再会するまでの間にたどった生き方の部分は、高校時代とのギャップが大きすぎて、まったく共感を覚えなかった。(まあ、祥子さんの転落過程は中年オヤジのスケベ心をくすぐらなかったと言ったらウソにはなるが…。)

高校時代、僕は体育会で、高3時代に付き合っていたのも部活の後輩だったのだが、大学は推薦が11月に決まってしまったので、担任の先生から「今しか読めないトルストイとか読んでおけ」と言われ、図書館通いを始めた。それまでも図書館に通ってなかったわけではないが、それまでの2年半で30冊程度しか借りてなかった。それが、高3後半だけで通算100冊に到達できるところまで借りて読みまくったのだから、まあ大したものかな。

そこまでのモチベーションがどこにあったのかというと、同学年に高校通算で250冊近く借りていた断トツの読書少女がいたからだ。しかも意外と美人。ちょうど、本書に出てくる高校時代の祥子と雰囲気が似ている子であった。はっきり言えば、勉強の方ではそんなにできない。結局大学も地元の短大だったと思う。ところが、図書館という限られた空間の中では、彼女は断トツの高評価を受けていたのである。僕が読んだ冊数など、その足元にも及ばないが、せめて100冊には到達しようと少しだけ頑張ってみたわけだ。

結局、図書館でやたらと見かけたその子とは、高校卒業まで一度も話したことはないし、卒業後に会ったこともない。

本書を読んで、思い出したのはその子のことだった。どんな本を彼女が読んでいたのかはわからないが、祥子のような本を読んでいたのだろうか―――。

作品の話に戻そう。繰り返すが、僕は高校卒業後の2人の生き方には違和感が多すぎて特段言うことはない。むしろ、高校時代の、相手に伝えたいことを素直に伝えられない関係というのにはわかるところもあって、懐かしさも感じた。勇気を振り絞って自分の気持ちを打ち明けてくれた後輩と付き合った時期があったとはいえ、では自分が気になっていた子に思いを伝えられたかというと、高校時代の僕はそれができなかった。今どきの高校生がどうなのかはよく知らないが、本当に大事な人に大事な気持ちを伝えることは、高校生であろうが大学生であろうが、社会人であろうが大変なことであるのには変わりはないと僕は思う。その意味でも、本書で最も新鮮だったのは2人の高校時代の描写だ。

でも、敢えて突っ込ませていただければ、高校生時代、17歳の2人がちょっと大人っぽすぎて違和感があった。高校時代の話は祥子の目線で描かれているが、いったい祥子は何歳なんだよとわからなくなった。まるで大学生のような生活だ。それに、いくら読書好きだからって、世の中にあまたある作家の作品の中からサリンジャーという特定の作家を選び、さらに特定の作品を選んで人に薦めるなんて、ちょっと考えられないな。クラシック音楽としてもあまたある楽曲の中から「ハーリ・ヤーノシュ」に心惹かれて、ずっと愛聴し続けるなんて、高校生だとはちょっと思えない。40代後半の作家の目線から高校生を見ると、こういうことが普通の高校生に当たり前にできてしまうと映るんだろうか。自分の高校時代を振り返ってみても、またうちの17歳の長男を見てみても、衛と祥子は大人すぎると感じるんだけど。

タグ:平山瑞穂
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