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『ウルトラマンが泣いている』 [読書日記]

ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書)

ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書)

  • 作者: 円谷 英明
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/06/18
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
なぜ創業者一族は追放されたのか。「特撮の神様」の孫が明かす栄光と迷走の50年。
うちの子供たちを見ていると、仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズはよくテレビで見ているが、ウルトラマンにはあまり興味はないようだ。スーパー戦隊シリーズは30年以上続いているし、90年代はレギュラー放映されていなかった仮面ライダーも、2000年から始まった平成仮面ライダーシリーズは10年以上続いている。97年生まれの我が家の長男は、まさに平成仮面ライダーとともに育ち、つられて6歳下の次男もよ~く見ている。日曜朝、仮面ライダーの前に放送されているスーパー戦隊シリーズも同様だ。

我が家の子供たちを見ていると、特撮ヒーローものは続けてナンボだとつくづく思う。宇宙刑事ギャバンに始まるメタルヒーローものも、放送に中断が入ると後に続く子供たちの支持をもう一度勝ち取らなければならなくなる。映画でギャバンをスーパー戦隊と共演させて、メタルヒーローの時代を知るお父さん世代を一緒に取り込もうとする発想も、同じ宇宙と地球を舞台にする等身大のヒーローだったら一応有り得る。しかし、これが変身して体長が40~50メートルにまで巨大化するウルトラマンとなると、抱き合わせという発想自体が成り立たない。

我が家の子供たちの成長過程で、一応ウルトラマンもシリーズ放映されはした。ウルトラマンコスモス、ネクサス、マックス、メビウスである。実際、長男はコスモスには興味を持ってはいた。でも、コスモスは途中で主演の杉浦太陽の暴力事件があって、終わり方が尻切れトンボになってしまった。ネクサスは子供には難しすぎるストーリーである上に、ちょっと残虐なシーンもあったりして、長男だけでなく、僕自身も見なくなってしまった。従ってマックスは全く見る気も起きず、メビウスはおやじの少年時代のヒーローだった郷秀樹や北斗と南、おおとりゲンまで登場するとあって僕は個人的には見ていたが、子供たちはさほどでもなかった。

なぜウルトラマンのシリーズは長続きしないのか。長く続かないからファンの根強い支持も得られにくいし、支持がないから長く続けられないというのもあるだろう。巨大化する特撮ヒーローものは費用もかかる。費用がかかるから資金調達もちゃんとできていなければいけないが、スポンサーも得て金融機関から融資を受けるには、ファンの支持があるかどうかも大きい。

本書はそんな当たり前のことに気づかせてくれる。

「お金をかけないといいものはできにくい」「制作費2000万円以下だと、どうしても見映えが悪く、地上波の全国ネット番組としては苦しい」「制作費が3000万円なら、なんとかなるかもしれない」という結論になりました。
 3000万円でも30分間の番組を1年間、50本放送するとして、制作費は15億円かかってしまいます。21世紀に入ると、テレビ局の経営もかつてのような左うちわとはいかなくなり、経費の見直しを進めていました。(p.167)
つまり、巨大ヒーローの特撮ものは、元々制作に金がかかるのである。これでコストダウンを図るなら、怪獣のコスチュームをケチったり、市街地でなく山間地で戦闘シーンを撮影したり、怪獣が街を破壊するシーンやウルトラマンが怪獣と戦うシーン自体をなるべく短くするといった工夫を施すしかない。昔から、ゴジラに襟をつけてジラースにするとか、ピグモンやレッドキングを何度か登場させたりといった工夫は行なわれていたし、ウルトラセブンは巨大怪獣の代わりに宇宙人を前面に出した。CGを使ったらセットを使うよりもお金がかからないかと思ったら、CGもそれなりに力を入れて制作したら金がかかってしまうというのを、ウルトラマンダイナが証明している。

いずれにしても特撮はお金がかかり過ぎる。それがために仮面ライダーやスーパー戦隊と違ってウルトラマンのシリーズはなかなかロングランになりにくいのだという。

そうした事情は、本書を読むと非常によくわかってくる。昔、子供ながらに不思議に思っていた、「マイティ号の乗組員はなんでブレザー制服姿なのか?」(マイティジャック)、「なぜ学校の先生がウルトラマンに変身するのか?」(ウルトラマン80)、「なぜハリウッド版ウルトラマンに登場するレッドキングやバルタン星人はあんなに変な体型をしているのか?」(ウルトラマンパワード)といった疑問の数々にも答えてくれる。そうならざるを得なかった円谷プロダクションの事情というのもあったようだ。

本書は円谷英二の一族が、何故円谷プロの経営を傾かせ、しまいには一族の追放に繋がってしまったのか、自戒だけではなく、歴代の経営陣への批判も含めて嘆き節が述べられている。テレビの画面からはなかなかわからない番組の裏事情は興味深いものの、これだけ歴代の経営陣がいろいろな失敗を犯しているのを見ると、同族経営が果たして良かったのかどうかも疑わしい。身内の愚行をこれだけ詳らかにすると、読んでいて必ずしも気分の良いものではない。

歴代のウルトラマンを改めて振り返るいいきっかけにはなる本だし、ある意味、何をやったら経営は傾くのかという失敗学のケーススタディとしても意味のある本である。悲しい気持ちにはさせられるが…。

タグ:特撮 経営
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