『介護退職』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)こうなったら、どうしよう―――。
故郷で暮らす老母が雪かき中に骨折した―。突然介護を託された男の人生に、光は射すのか?今そこにある危機を、真っ正面から見据えた問題作。
故郷を離れて暮らす者として、この問題は避けては通れないのに、ついつい考えるのを先延ばしにしてしまう。
本書の帯にはこんなことが書かれている。「この苦難は、いつ誰の身に降りかかってもおかしくないことです。特に私のような年代になれば、むしろ起こりうることとして考えておかねばならなかったことです。あえてそれに目を瞑り、最悪の事態への備えを怠ってきた。仕事を行う上では、あらゆるリスクを想定し、万全の方策を講じることを常に念頭に置いていたのに、最も身近な家庭内のリスクに注意を払わなかった。それは誰の責任でもありません。私の責任です――」 ショッキングな帯の記述にいてもたってもいられなくて、図書室で借りた。
主人公は大手電機メーカーの国際事業部長で50歳。長男だが故郷秋田を離れて東京で妻1人、子1人で暮らしている。白物家電の北米新規事業展開を担い、米国出張も頻繁にしている。故郷には両親が残されていたが、数年前に父が亡くなり、今は70代後半に差し掛かった母親が実家で1人で暮らしている。マンションのローンは未だ残っている。長男は中学受験を控えて塾通い。まだまだお金がかかる。北米事業を成功させて、取締役に登り詰めれば収入面では安心だ。しかし、そんな順風満帆な人生も、ちょっとしたきっかけで一気に不安定化する。
身につまされる話だと思う。こうなったらどうしようかと考える。僕達一人ひとり置かれた状況は異なるから、本書を読んだら何らかのソリューションが得られるかといえばそんなことはない。1つ得られる教訓としては、故郷の実家との連絡をこまめにして、かすかな変化を見逃さないようにすること、そして何かの時には実家以外に連絡が入れられるチャンネルを幾つか確保しておくことなのかなとは思う。
ただ、正直言うと本書の結末には相当首を傾げた。結局のところ、骨折を契機に認知症まで併発してしまった実母を東京の自宅に引き取ったはいいが、その介護を妻と義妹に押し付けて、主人公は再び国際ビジネスへと単身旅立っていく話で終わっているからだ。タイトルは『介護退職』となっているけれど、その後再就職が待っているというのは、いくらなんでも参考にはならんですね。大手企業の役員になれなければ、子供1人育てるのにも安心できないという主人公夫婦の不安感というのは、ちょっと現実離れしてないか?それじゃそもそも住宅ローンも完済できておらず、子供が3人もいるうちなんか、不安だらけじゃないか!
「高齢者の一人暮らし、老人介護が社会問題として論じられるようになって久しいってのに、今に至ってもこれかね。いつ誰が、君のような状況に陥っても不思議じゃないというのに、そうした人たちを支援するシステムはおざなりになっている。根本的な対策は、いつになっても実行されない。これが仮にも先進国と自負する国のありかたなのかね」(p.198)この問題提起自体には賛同はするものの、単一の答えを導き出すことは難しいんじゃないだろうか。
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