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チリ・サケ再訪 [読書日記]

南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち―ゼロから産業を創出した国際協力の記録 (地球選書)

南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち―ゼロから産業を創出した国際協力の記録 (地球選書)

  • 作者: 細野 昭雄
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンドビッグ社
  • 発売日: 2010/07
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
回転寿司やコンビニおにぎりの人気商品のサケ、南米チリは世界2大輸出国の一つである。しかし、かつてこの地にサケはいなかった。ゼロからスタートした養殖が世界的産業にまで発展した背景には、現地の人々と力をあわせて地道に取り組んだ日本人たちの姿があった。知られざる国際協力の貴重な記録。
実はこの記事は9月中旬に書こうと思っていたのだが、先週から今週にかけてもう一度読み直す必要があり、ようやく書けるだけの頭の整理ができた。特に、図表―――俗に言う「ポンチ絵」をよく理解するよう努めた。

10月2日(日)、故郷の岐阜県池田町で「ふるさと祭」でのテント出店をお手伝いした後、父母に誘われて岐大バイパス沿いにある回転寿司の「スシロー」に早めの夕食で出かけた。17時過ぎにお店に着いた時点で既に30組近い空席待ちの来店客が店内にはたむろしており、待ち時間は40分ほどかかった。実際にテーブル席に案内されて座ってみると、ベルトコンベアを回っている皿に乗った寿司の多くがサーモンであるのが印象的だった。

このサーモン、どこから来たのかといえば南米チリからの輸入である。でも、ずっとチリから輸入されているのかといったらその歴史は意外と浅く、その対日輸出は1990年代に飛躍的に伸びている。それ以前の1970年代頃まで、サケは南半球にはいなかった。それを、日本から持ち込んだ卵の孵化と稚魚の淡水養殖から始まり、壮魚の海面養殖を実現させ、大量生産体制を構築するのに必要な安全な国産卵の生産や魚病のコントロール、養殖のための適切な給餌方法と餌の生産方法の確立、そして何よりもサケ産業の発展を下支えする人材の育成に長期的に取り組んだのが、1970~80年代に実施された日本の技術協力であった。

回転寿司でサーモンを安く沢山食べられ、コンビニでは大ぶりの鮭切り身の入ったおにぎりや銀シャケの乗ったお弁当を購入して昼食でお世話になっている―――今日の僕らの食生活を支えてくれているのも、一昔前に日本が行なった技術協力のお陰であるということに、僕達はもっと思いをはせることが求められているように思う。(チリ・サケほどその典型的な事例は他にはあまり思い浮かばないのだけれど…)

さて、先月から先週にかけて2回も本書を読み直した最大の理由は、僕がこの秋教え始めたばかりの京都の某私大での授業で、本書を課題図書として使用することにしたからである。先週、第1回の講義で院生と初対面した際、来ていた院生が2人とも中国人留学生であった。本当はもう少し分厚い開発援助の専門書を文献研究では読み込もうと思っていたが、相手はそもそも開発援助についてほとんど予備知識がなく、日本が政府を通じて行なった技術協力についてもあまり知らない様子だった。このため急遽軌道修正を図り、課題図書をもっとコンパクトで読みやすく書かれている本書に変更することにした。四六版で本文だけなら180頁程度の分量なので、ちゃんと試験を受けて大学院に入ってきた学生なら、これくらいならなんとかなるのではないかと期待したい。

先ほど、僕は今の僕らがサケをいっぱい食べられるのは日本の技術協力の賜物だと述べたが、日本との関わりはそれだけではない。フェアに記述をするならば、日本の水産会社ニチロは1979年に民間企業として小規模な海面養殖をチリで開始していたし、その海面養殖をリスクを取って大規模に試行して採算に乗せた半官半民のチリの財団が次にこの事業を1988年に民間に売却した相手は日本水産だった。元々日本市場との繋がりがある日本企業がチリでの大規模養殖に乗り出してきたことで、日本の消費者とチリのサケが初めて繋がったのである。そして、単にサケ1匹をまるまる輸出する方法から、遠隔地の市場への輸出を考えて、フィレやスモーク、缶詰といった形で付加価値を高める取組みを進めたのもこうした日本の企業の参入がきっかけだった。また、JETROもチリの水産関係者を日本に招へいして、日本の消費者とサケの消費形態を実際に見てもらい、日本市場で売れるサケの加工品がどのようなもので、どれくらいの水準のものが求められるのかを生産者が理解するきっかけを作ったりもしている。

言ってみれば、チリのサケ産業発展の基盤となる基礎技術の開発や人材の育成を行なったのは日本の技術協力だが、それを事業化して民間企業の参入を促し、日本市場との繋がりをつけ、さらに付加価値を高めるよう仕向けるのに貢献したのは日本企業であり、そしてJETROであったというわけで、要するにチリのサケ産業の発展プロセスの各ステージにおいて、日本が官民両面から大きく貢献したという歴史を、僕らは本書から学ぶことができるのではないかと思う。

本書はその分量の割には挿入されている図表も多く、その図表を拾い読みするだけでもある程度のイメージはつかむことができる優れた解説書になっている。そして、初期の産業基盤づくりに尽力した長澤専門家や白石専門家といった日本人だけではなく、そのきっかけを作ったアギレラ氏のように、チリ側にも産業発展に心血を注いだ何人かのキーパーソンがいる。多くのヒューマンストーリーにも彩られた日本とチリの協力は、読み物としてもワクワクさせられる。何度も読み返すうちにどんどん味わいが深まり、価格の割に長期的には費用対効果が結構高い1冊なのではないかと思う。
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