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『心の野球』 [読書日記]

プロ野球セ・リーグの決定に対しては複雑な思いがする。たとえナイターで節電しても電力消費量が大きいことには変わりなく、僕らの職場が18時以降の残業を原則禁止にしているような努力を一気に無にする行為だと思うからである。幻灯ナイターなど、選手の立場から言ったらとてもできないだろう。僕は元々アンチ巨人なのだが、今回の一件でますますジャイアンツが嫌いになった。それに、今でも時々関東地方には余震が続いている。大地震でたがが外れたように、いつどこでまた震度5、6にもなる地震が起きるとも限らない。これが横浜スタジアムや神宮球場だったらともかく、ドーム球場に何万人も入るような状況の中でゆっくりと野球観戦などする気にはなれない。集客して募金をやろうというのなら、別に試合じゃなくてもできることだと僕は思う。

こうした事態を、ジャイアンツOBで、スポーツマネジメントの勉強も早稲田の大学院でやってきた桑田はどう見るのだろうか。彼の近著にはそれについては何も書かれていないが、本書を読む限り彼は言うだろう。少年野球は普段通り開催し、子供達の夢を塞ぐような自粛はすべきではないと。春の選抜開催も当然支持するだろう。

心の野球―超効率的努力のススメ

心の野球―超効率的努力のススメ

  • 作者: 桑田 真澄
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/06
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
がむしゃらな努力は無駄だ。一心不乱に根性だけで練習に没頭したことは一度もなかった。やるべきことを精査し効率性を重視しながら、練習を積み重ねていた―。日々、闘う全ての男たちに捧ぐ、努力の天才が辿りついた「成長の法則」。そして、はじめて言及する盟友・清原和博との関係と、引退の真相。小さな大エースの全思考全感覚を凝縮。
本書を読む限り、想定読者は野球を志す小中高生とその親、あるいは指導者なのだろうと考えられる。自分の子供がもし野球をやっていたならば、僕は本書を読むよう薦める。いや野球でなくても、他のスポーツでも文系の部活動でもいいが、とにかく桑田が何を考えながら小中高生時代を過ごしていたのかを知ることは今の子供達には参考となるところが多いと思う。

序論の部分で、桑田は本書で伝えたかったことを2つ挙げている。1つは「努力」という言葉の解釈である。彼は、がむしゃらな努力は無駄である、一心不乱に根性だけで練習に没頭したことは自分は一度もなく、やるべきことを精査して効率性を重視しながら練習を積み重ねていったと自分の経験を述べている。投げ込みを200球も行なうよりも、本当に考えた50球で十分だと考えていたらしく、彼は日本の投げ込み重視型の指導法(練習法)に対して既に高校時代から懐疑的だったことが窺える。但し、彼はだらだらと長時間行なう練習には懐疑的だが、短くても集中して毎日続けることは推奨している。腕立て伏せでも、最初は10回やるのがやっとであっても、毎日繰り返しているうちに突然20回もできるようになり、そうするうちに40回、50回と増やしてもやっていけるようになるというものだという。
 PL学園時代、朝も夜も練習に時間をとられる。どう考えても自分が満足できるような勉強時間は捻出できなかった。それでも勉強をがんばり、よい成績を取ることができた。
 どうしていたのか、といえば、毎日30分間だけ机に向かったのだ。それから、授業の間の休憩時間の10分間は宿題や復習の時間にあてた。たったそれだけを黙々と実行し続けたのだ。
 プロ野球選手となったあとも、無茶な努力はしなかった。怪我をしてしまったら、元も子もないからだ。巷でよくいわれるような1,000本ノックを受けたり、1,000回素振りをしたり、300球を3日連続投げるとか、そんな無茶な練習は決してしなかった。その代わり23年間、毎日毎日、1日10分とか15分、小さな努力を続けてきたのだ。(pp.5-6)

もう1つは「スポーツマンシップ」に大切さである。日米のプロ野球を経験した著者は、日本の野球には、それを通じて人間性を磨こうと言う姿勢を持っていると述べている。礼儀を重んじたり、道具を大切にしたりすること。技術だけでなく、心も大切にすること。プロ野球選手の平均引退年齢は29歳であり、プロ野球選手としての人生より、引退してからの時間の方が圧倒的に長いことから、野球選手が長い人生を豊かで幸せなものにするために、単に技術を磨くだけでなく、社会で通用する人間性を養わなければならないと主張する(pp.7-8)。プロ野球選手は、練習や試合をやっている他の自由時間がかなり多く、それをどう有効活用していくのかが、引退後の生活を豊かにすると述べている。

現役時代の桑田にまつわる醜聞を見てきた野球ファンにとっては、かなりギャップの大きい内容だろう。でも、マウンド上でボールに話しかけるような奇行を考えると、彼がこういう考え方をするというのは納得できるところも大きい。高橋直子選手や有森裕子選手のしゃべりにも通じる何かがあるような気がした。凡人には奇異にしか見えないことも、道を極めた人にはわかり合える部分がかなりあるのではないだろうか。

ただ、「努力」の定義にまつわる桑田の論点を聞いていると、ドラゴンズのように春季キャンプの練習が厳しい球団の方法論をどう受け止めるのかについて、もう少し説明が必要なのではないかと言う気がする。(そういえば、桑田は本書の中で落合博満選手(または監督)については何も言及していない。)ドラゴンズ落合監督の方法論の対極にあるのはメジャー式の短時間練習なのだが、桑田はメジャー式の練習の方法論にも一部異議を唱えているように思えた。だからといって、桑田が落合野球を支持しているとも思えない。とすると、桑田は落合野球をどう見ているのか、ちゃんと説明する必要があるように思う。


―――さて、話はプロ野球セ・リーグの開幕時期の件に戻る。

突拍子もない話かもしれないが、僕がインドに住んでいた時、こんなことがあったのでご紹介しておく。クリケットのインディア・プレミアリーグ(IPL)2期目の2009年シーズンは、インドの総選挙の時期と重なり、治安対策で警備員をスポーツイベントに割いている余裕はないという政府側の要請を受け、IPLは開催か中止かを迫られた。そしてIPLが下した結論は、IPLをインド国内ではなく、南アフリカで開催するというものだった。そして、総当たりリーグ戦から決勝トーナメントに至るまで、全試合が南アで行なわれた。

IPLの各チームには南ア出身の選手もいたから、こんな荒技ができたということもある。日本のプロ野球にそのままあてはめることも難しいだろう。でも、これだったらできないだろうか。東電・東北電力管内でない地域の独立リーグと連携して試合開催するとか、台湾や韓国で試合開催するとか…。独立リーグ球団と交流戦は無理だろうから、独立リーグの試合にプロ野球枠のようなものを設けて、毎試合応援選手が出場するとか、周辺国のチームに日本の選手をレンタル移籍させるとか、あるいはいっそのことセ・パの枠を取っ払ってガラポンでリーグを組み直し(「オールPL学園ズ」みたいなドリームチームを作るということです)、東電・東北電力管内での試合数を極力減らして地方開催を増やした試合編成にするとか、アイデアは沢山あるだろう。普段と違う選手との交流の中から、新境地を開く選手も出てくるのではないかと期待もされる。
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yukikaze

延期が妥当でしょうね。そして、ドームではゲームをやめて露天のグラウンドでデーゲームですべきだと思います。
by yukikaze (2011-03-23 20:18) 

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