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食料保障を巡る考察2011 [インド]

この記事は、予約投稿機能を使って掲載しました。
日本人の1人として、計画停電には積極的に協力していきたいと思います。

全国食料保障法
The National Food Security Act
 これまで何年もの間、政府の食料倉庫は穀物で溢れていた。しかし、全てのインド人に十分な食料を提供するには十分とは思えなかった。貧困ライン以下ないしは低所得グループの世帯は、1日3食簡素な食事を取ることすら保証されていない。
 全国食料保障法はこうした状況を変えられるかもしれない。施行されれば、この制度は都市および農村に住む貧困ライン以下の全ての世帯に1ヵ月25kgのコメまたは小麦を、キロ3ルピーで提供することを保証するものである。2009年の総選挙前に国民会議派が行なった政権公約に基づき、この制度は貧困層の飢餓と空腹の問題に取り組むことが期待されている。但し、現在この構想は技術的な問題でにっちもさっちもいかない状況に陥っている。
 こうした公約を実施に移す政府の能力には常に疑問が伴うものだが、プラナブ・ムカジー蔵相は、2009年の予算教書演説で、これこそ政府が必ず果たすべき公約であることを強調している。ジーン・ドレーズ、ハーシュ・マンダー、ビラージ・パトナイク、リーティカ・ケーラ、ディーパ・シンハから成るチームが草稿した食料権法(Right to Food Act)は、2009年6月24日に公表された。しかし、同法案についてソニア・ガンジー総裁が委員長を務める国家諮問委員会(NAC)が行なった提言内容を検討するためにマンモハン・シン首相が創設したランガラジャン委員会は、貧困ラインよりも上にある人々への食料配分を削減するよう提言している。
[出所] "Cerebrating The Republic 1950-2011: A Very Public Change" Times of India, 2011年1月24日
本日も、デリー在住の知人から送ってもらった新聞記事の切り抜きをベースに幾つか考えてみたい。

上で述べられている全国食料保障法は現時点でも施行されていないようなので、現状どうなっているのかが問題となるわけだが、それは公共配給制度(Targeted Public Distribution System、TPDS)と呼ばれるもので、貧困ライン以下の貧困層への食料助成制度としてはもっとも古くから制定され、予算規模も大きい。

しかし、この制度も実施の段階では問題が多いらしい。

2010年12月7日付Times of India紙の記事によると、こんな事例が一般的なのだという。
ジャグラル・ブイヤさんはビハール州ガヤ県チョトカ村に住み、貧困ライン以下(BPL)の配給カードを所有しているが、2008/09年度は配給店で全く食料用穀物を受け取ることができなかった。2009/10年度は7月に1回あっただけで、しかもその時もわずか14kgのコメをキロ7.5ルピーで受け取っただけだった。最高裁命令によると、1ヶ月35kgのコメをキロ4.96ルピーで受け取る権利がブイヤさんにはある筈だった。
この事例は、最高裁が任命した調査チームが行なった6州の農村地帯での実施状況調査で確認されたものだ。6州の中には、ビハール州の他に、西ベンガル、ジャルカンド、オリッサ、アッサム、マディア・プラデシュ州が含まれる。そして、この調査チームは、TPDSが全ての貧困層に安価で穀物を提供するという目的を果たしていないと報告している。6州のうち、西ベンガル、オリッサ、アッサム、マディア・プラデシュの4州では、州政府に供給された食料の9割以上が貧困層に配給されたが、ビハールではわずか3分の2、ジャルカンドでは8割強という程度に過ぎない。

配給カードはその保有者がBPLに属することを証明するものだが、配給店の店主がカードを預かっているケースや、配給カードが質に入れられ、融資の担保に使われているケースも見つかったという。さらに、年齢が未入力だったためにカードが発給されていなかったケースや、BPLなのに貧困ライン以上(APL)のカードが発給されていたケースもあったという。紛失してから13年経っても再発行されていないケースも見られた。配給店で記録されている実績が実態と著しく乖離しているケースも多い。多くの場合は、受給資格者が受け取る穀物の量は記録よりも少なく、実際の取引価格は記録されているよりも高値で、公定価格以上に払わされていた。配給店の店主は、これとは別に雑貨店を営んでいて、横流しした穀物はそちらの雑貨店で高値で販売されているという。

もう1つの制度は総合的児童開発制度(Integrated Child Development Scheme、ICDS)に関する記事で、1月31日付Times of India紙で紹介されている。ICDSは制定から36年が経過している制度で、0歳から6歳までの幼児7,300万人に1人当たり4~6ルピーで1日500~600キロカロリーの栄養摂取を支援しようというものである。しかし、政府の調べによると、対象となる児童の31.1%しか栄養摂取補助を受けておらず、制度の受益者とそうでない者との栄養摂取状況に有意な差が見られなかったことを記事は指摘している。食料供給が不調である理由は、この記事によれば15%を超える物価上昇率で、州がICDS実施のために中央政府から配分される予算が不足しているからだという。女性子供開発省の試算によると、ICDSを軌道に戻すには、ICDS予算の15%増か、ないしは35億ルピーの増額が必要となると見ている。

ICDSの場合はインフレ抑制と予算配分面の制約の克服に課題があると見られるが、TPDSの場合は明らかに制度の運用面で汚職腐敗や制度の悪用が入り込む余地がある。新聞・雑誌等では度々指摘されている問題だ。また、正直言うとこれらの制度間の連携がどうなっているのかは疑問もある。TPDSの実施がちゃんとなされれば、家庭内での幼児の栄養摂取状況の改善に繋がり、別途ICDSを実施する必要性も薄れてくるような気がする。

インドの法制度は、制定に関するところではかなり細かく行なわれているように思うが、法制度の運用面に問題があるだけではなく、異なる法制度間の連携についても課題が多いように見える。

【参考記事】
"Central scheme to feed the hungry in shambles"
Times of India, 2010年12月7日
http://articles.timesofindia.indiatimes.com/2010-12-07/india/28220637_1_ration-cards-west-bengal-antyodaya

"Just Rs4/day to feed a poor kid?"
Times of India, 2011年1月31日
http://articles.timesofindia.indiatimes.com/2011-01-31/india/28366093_1_supplementary-nutrition-adequate-nutrition-icds


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