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『ブラバン』 [読書日記]

ブラバン

ブラバン

  • 作者: 津原 泰水
  • 出版社/メーカー: バジリコ
  • 発売日: 2006/09/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
大麻を隠し持って来日したポール・マッカートニーが1曲も演奏することなく母国に送還され、ビル・エヴァンスがジョン・ボーナムがジョン・レノンまでも死んでしまった、1980年(昭和55年)。醒めた熱狂の季節に、音楽にイカれバンドに入れあげるボーイズ&ガールズが織り成す、青春グラフィティ。クラシックの、ジャズの、ロックの名曲にのせ、総勢34名のメンバーたちが繰り広げる、大群像劇。四半世紀の時を経て僕らは再結成に向かう。吹奏楽部を舞台にしたほろ苦い「青春」小説。
先ず最初に言っておこう。吹奏楽部に入ったうちの長男に、不用意に「ブラバン(ブラスバンド)」という言葉を妻が使ったところ、長男がかなりご立腹だった。吹奏楽とブラスバンドは定義が違うらしい。とは言っても、僕にはよくわからないのだが。

最近仕事の方で余裕があまりない僕がせめてもの息抜きにということで読み始めた長編小説は、1980年に広島で高校1年生を迎えた他片等(たひらひとし)を語り部として進行する。要するに僕の1年下という、ほぼ同世代の高校生活を描いた作品だ。著者自身が1964年生まれで広島で高校吹奏楽部に所属していたというから、その経験をもとに描いたのだろう。しかも、この1980~81年頃と、それから25年を経た2005~06年頃の話が行ったり戻ったりを繰り返す。

舞台となる高校吹奏楽部は、コンクールに出て上位入賞を狙えるような大したバンドではない。サボりもあるし、部活掛け持ちも出てくる。優等生たちが一心不乱にパートの練習に打ち込み、一緒に高みを目指していくような作品ではない。登場人物ひとりひとりに個性があり、向いている方向が皆バラバラな感じがする。ただ、そういう高校生の部活動には親近感が湧く。普通そういうものなのだ。

そうした高校生たちが高校を卒業して社会に出て、そして不惑を迎える頃、あるきっかけで再びバンド結成に向って動き始める。長いブランクがあってそうそう上手く演奏できるはずがないが、それが1つの目的に向って多くのメンバーが歩き始めるのである。

僕はこういう出来のよろしくない高校生の群像劇は割と好きだ。重松清の高校生もの、例えば『あの歌がきこえる』には惹かれるものがあった。その点では『ブラバン』も割と一生懸命読んだ方だと思うのだが、評価は微妙だ。

第1に、登場人物が多すぎて、誰が誰だかわからなくなる。確かに、登場人物のリストが巻頭に添えられているのは本書を読み進めるのには非常に役に立つ。何度も何度もリストを見直すはめになった。

第2に、場面が変わる切れ目がはっきりしていないがために、25年前の高校時代の話がいきなり現在にジャンプしていたりする。間を1行ぐらい開けてくれるとまだ助かるのだが、そんな配慮もない。

第3に、状況設定が出来すぎのように思える。そもそも、高校卒業して東京の大学に進学したような連中が多かった筈のこの時期、そこからさらに海外に飛躍した人もいただろうし、そのまま東京で就職した人も多かった筈だ。それが都合よく広島に戻って来るという設定自体があり得ない。カエルの研究者として広島に赴任してきた憧れの先輩とか、広島に帰ってきてしょぼいバーを始めた主人公とか、海外出張が非常に多い同期の吹奏楽部長とか、そういうのが広島に集結するというのがどうかという気がする。

第4に、今の主人公を40歳に持ってきたことにより、憧れの先輩が41歳にして初婚とか、年齢差が8歳程度としたら今48歳になっている高校吹奏楽部の女性顧問と主人公が半同棲生活に入ってしまうというシチュエーションとか、ちょっとどうかなと首を傾げる。特に、今は50を迎えようかという昔の先生と40歳の自分が性的関係を持つというのはものすごくイメージしにくい。せめてあと10歳ぐらい若ければもっと違和感がなかっただろう。人間、不惑を過ぎたら後は衰えていくのだと考えたら、登場人物達の人生のターニングポイントを40歳に定めるというのもあながち的外れではないという気も確かにするのだが…。

勿論、僕の認識が間違っているのかもしれない。僕の高校には吹奏楽部はなかったので、実際に僕が所属していた体育会剣道部との比較でしかないが、これだけバランス取れた男女比率の部活動で、1学年に同期が15~20人もいるようなら、その後OBとなってからの付き合いとかもそれなりに存続するのかもしれない。剣道部の場合は、高校卒業して剣道を辞めてしまったら付き合いも疎遠になってしまったというのはある。こういう結束力の固さというのは僕には未知の領域だ。

それだけに、今中学で吹奏楽に取り組んでいる長男が、高校に進学してからも吹奏楽を続けるとしたら、こんな感じの生活を送るのだろうかと想像できてその点では面白かった。結構いいじゃないか、吹奏楽部。うちは次男には剣道をやらせているので、次男が高校まで続けたら体育会剣道部というのはこんな感じという将来像のイメージがしやすい。それが長男についてはイメージできずにいた。それができるようになるきっかけとなったのが本作品だ。

同じ高校吹奏楽部(しかも、中国地方の)を扱った作品としては最近読んだ『グラツィオーソ』もあるが、そちらの方は主人公が女子だし、楽団の構成も女子の方が圧倒的に多かった。いかにも今風の友人間のやり取りが展開されるので、オーソドックスな優等生的作品だと思う。一方の『ブラバン』は、1980年当時こんなにいろいろやらかしていた高校吹奏楽部員(それに部長の先生も!)もいたということを自体が驚きである。

重松清、奥田英朗的なテーストのする作品である。
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コメント 1

ラッサナ

こんにちわ

私も、中学時代は「吹奏楽部」で、テナー・サックスを吹いていました。
Wikipediaによると、「吹奏楽」「ブラスバンド」にはいろいろな定義があるようですね。

今の日本のブラスバンドに一番近い概念である、英国式ブラスバンドは、主に金管楽器と打楽器から構成されているようですね。
一方、吹奏楽は、それに加えて、木管楽器を加えたものだとか。
不勉強でした。

あと、「ブラバン」という語感からからは、軍楽隊、行進曲(応援歌もあり)などを奏でるというイメージがありますが、「吹奏楽」では、それ以外のさまざまなジャンル(クラシック管弦楽の編曲も含め)を演奏し、なおかつ、芸術性を追及するというイメージがあるのかもしれません。

いずれにせよ、息子さんが、双方の差を感じて部活を行なっていることに感心しました。

金管楽器の奏でるハーモニーがぴったりはまったときの気持ちよさは、たとえようの無いものです。良い指導者に恵まれて、すばらしい体験ができればよいですね。

by ラッサナ (2010-10-28 03:09) 

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