SSブログ

『はしごを外せ』 [読書日記]

はしごを外せ―蹴落とされる発展途上国

はしごを外せ―蹴落とされる発展途上国

  • 作者: ハジュン チャン
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2009/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
先進国は、みずからが発展途上にあるときに採用しなかった政策と制度を、なぜ途上国に強いるのか。ミュルダール賞・レオンチェフ賞受賞の名著、待望の完訳。
この本は、原書が出版された直後、英国留学してチャン先生の下で指導を受けたことがあるという知人から薦められて原書を買って読もうとしたことがある。その知人はご丁寧にもその内容まで事前に解説して下さったので、それがかえって読むのを後回しにする結果を招いたかもしれない。それにしても、原書が出てから訳本が登場するまでに7年も経過しているというのもちょっと驚きだが。

趣旨はあらかたわかっているし、東京に戻れば原書も持っているため、今回ご紹介する訳本は読了したらそのままインドに置いてくるつもりでいた。しかし、今回しっかり読み込んでみて、これは相当にいい本だと思い直し、やっぱり日本に持って帰ることにした。

「先進国は先に豊かになっておきながら、後発の途上国がなかなかキャッチアップができないようなハードルを課すことでハシゴを外している」―――知人の解説は要すればこういうことで、本書は各先進国の政策・制度の変遷を追いかけ、今の先進国が昔途上国だった頃、今の途上国ほど貿易も自由化してなかったし、ガバナンスもしっかりしてなかったということを実証しようとしている。
この本は、「富裕国は本当のところいかにして豊かになったか」を問いただす。
 上記の質問に簡単に答えるとすれば、先進国が現在の発展途上国に勧告している政策と制度によって、先進国は現在の地点にたどり着いたのではないということである。ほとんどの国は、今日WTO(世界保健機関)によって、実際には禁止されていないとしても眉をしかめられている、幼稚産業保護や輸出奨励金のような「悪い」政策を積極的に実行した。かなり発展するまで(すなわち19世紀末から20世紀初頭まで)、先進国によって現在必要不可欠だと考えられている制度(中央銀行や有限責任会社のような「基本的な」制度を含む)のほとんどを持っていなかった。
 これが事実であるとすれば、先進国は、「良い」政策と制度を勧告しているという装いのもとに、実のところは先進国が経済的に発展するために初期に使った政策と制度を、発展途上国が使うことを困難にしているのではないか。(p.4)

この後も引用でご紹介していきたい。
その購買力平価での1人当たり所得はアメリカ合衆国の約15分の1しかなかったという事実にもかかわらず、インドがWTO合意の直前まで設けていた貿易額による加重を行った71%の平均関税率は、インドを自由貿易の正真正銘の擁護者のように思わせるほどである。WTO合意後インドは、加重平均関税率を32%へ削減した。これは南北戦争から第二次世界大戦の間にアメリカ合衆国の平均関税率が一度も到達したことのない低い水準である。(p.128)

 児童労働は、工業化初期のNDC(先進国)で蔓延していた。1820年代には、イギリスの児童は1日あたり12.5時間から16時間労働していたと公表されている。1840年から1846年にかけて、ドイツの工場労働者のうち20%までが14歳以下の児童であった。スウェーデンでは、1837年まで、わずか5歳か6歳の児童が雇用されていた。
 19世紀初頭のアメリカ合衆国では、児童労働が蔓延しており、1820年代には綿織物工のほぼ半数が16歳以下だった。当時、家族をひとまとめで雇用することがきわめて一般的であった。(p.198)

1820年のイギリスは、今日のインドよりいくぶん高い発展水準にあったが、普通選挙権(その時、イギリスは男子普通選挙権すら有していなかった)・中央銀行・所得税・一般化された有限責任制・「近代的」破産法・専門的な官僚制度・実効のある証券規制のような、インドに存在している最も「基本的な」制度のほとんどを有していなかった。(p.224)

 一連の「良いガバナンス」の構成要素として発展途上国に現在勧告されている制度のほとんどは、NDC(先進国)の経済発展の原因ではなく、むしろ結果として形成された制度である。IDPE(国際開発金融機関)の見解によればそれらは二国間あるいは多国間の強い圧力で発展途上国に強制しなければならないほど必要である。しかしながら、今日の発展途上国にとってそのうちのどれだけが本当に「必要」であるかは明らかではない。(中略)たった1組の「ベスト・プラクティス」(それは、英米型の制度であることが多い)しかないという現在支配的な見解が、非常に疑わしいことが明らかにできたと望んでいる。(p.236)

「良い」制度は「良い」政策と結びついたときにのみ成長をもたらす。(中略)ここで「良い」政策というときには、NDCが発展途上国に現在勧告している政策ではなく、ほとんどの先進国が発展途上で実施した政策である。(p.241)

終始こんな調子。「グッド・ガバナンス」や「貿易自由化」を途上国に強要している国際金融機関は、その大株主である先進国だって、昔は褒められた政策実施や制度構築をしていたわけではないという、歴史を振り返れば誰でもわかるようなことを実は無視している。そういう世界史の教わり方をせず、経済史よりも政治史を中心に教わっていれば、こうした「偉そうなこと言ってるけど、あんたも子供の頃は結構悪さしてたんでしょ?」的な指摘って、意外と重要だなと思った。

勿論、だからと言ってガバナンスも貿易自由化も要りませんというつもりはない。ただ、自分が子供の頃にできなかったようなことを、今の子供に「やれなくてどうする」と尻を叩いてやらせるのは心情的にちょっとおかしいと言いたいだけのことだ。

同じようなことは気候変動対策についても感じる。先に発展して温室効果ガスを出しまくってきた先進国が、厳しい基準を途上国に押し付けことは、本書では触れられていないけれど、同じように「ハシゴを外す」行為かもしれない。

Kicking Away the Ladder: Development Strategy in Historical Perspective (Anthem World Economics Series)

Kicking Away the Ladder: Development Strategy in Historical Perspective (Anthem World Economics Series)

  • 作者: Ha-Joon Chang
  • 出版社/メーカー: Anthem Pr
  • 発売日: 2002/09/01
  • メディア: ペーパーバック


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 1