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『その名にちなんで』 [読書日記]

その名にちなんで (新潮文庫)

その名にちなんで (新潮文庫)

  • 作者: ジュンパ ラヒリ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
ゴーゴリ―列車事故から奇跡的に父の命を救った本の著者にちなみ、彼はこう名付けられた。しかし、成長するに従って大きくなる自分の名前への違和感、両親の故郷インドとその文化に対する葛藤、愛しながらも広がってゆく家族との距離。『停電の夜に』でピュリツァー賞などの文学賞を総なめにした気鋭のインド系米人作家が、自らの居場所を模索する若者の姿を描いた待望の初長編。
今から丁度2年前、本書をベースにして制作された映画『The Namesake』についてこのブログでも紹介した(記事はこちらから)。その際に、できれば原作も読んでみたいというようなコメントを残していた。実際に文庫化された原作の訳本は早い段階で入手していたのだが、読むのを後回しにして今日に至っている。日本に帰れば図書館で借りられるような文庫本を今さら日本に持って帰る気にもなれず、こちらで読んでしまってこちらにいる日本人の方で読み回していただければと思っている。

映画と原作はあらすじが殆ど同じだと言われているが、アショクとアシマが米国で新婚生活を始めたのが原作ではボストンとなっているが、映画ではニューヨークに変えられていたぐらいで、後は殆ど同じかなと思う。ゴーゴリが同じベンガル出身のモウシュミーと結婚する以前に付き合っていた彼女は映画ではマクシーン1人だが、原作ではイェール大学時代にもう1人付き合っていた彼女が存在する。交際期間は1年ぐらいで、頁数としてはあっという間だった。従って、映画と原作が大きく異なるというところまではいっていない。

異国に住みながらもベンガルの風習にこだわるNRI(Non Resident Indian)第一世代と、米国での生活に馴染んで親から押し付けられる「異国」の風習との間で戸惑う第二世代との対比が見事だと思う。2時間少々の映画にすると端折るシーンも相当あると思うが、こうして小説になっているものを読むと、映画以上によく理解ができるような気がする。しかし、最後は世代間対立というより理解し合って終わるというホッとする物語である。和解に向けた歩み寄りは、先ずは母アシマの顔を立ててベンガル人女性モウシュミーと「ブラインドデート」し、そこから恋に落ちて結婚に至ったゴーゴリに垣間見ることができ、その後このモウシュミーが別の男性と駆け落ちして離婚してしまうというインド人的にはあり得ない結果を招いてしまったゴーゴリに対して母アシマが見せる申し訳ない気持ちというのに表れているように思う。古くからも風習も新しい生活環境の下では少しずつでも見直し、世代間で歩み寄って行かなければならないのだというNRIの現実のようなものがうまく描かれている。

こうしたインド的な部分に加え、僕が少し嬉しかったのは米国ニューイングランド地方の風景の描写である。僕はこれまでの人生の中で二度米国に住んだことがあるが、ニューイングランド地方には一度も行く機会がなかった。特に二度目の米国での生活の際は、赴任前からニューイングランドに行ってみたいと夢見ていながら一度も行く機会を作ることができなかった。ロバート・B・パーカーの探偵小説『スペンサー』シリーズを一時期欠かさず読んでいた僕としては、頭はでかくなったけれど行動が伴わなかったという点で後悔が大きい。『スペンサー』シリーズも最近はてんでご無沙汰で娯楽的な小説は読んでいる余裕を失ってここ数年過ごしているが、今回『その名にちなんで』を読んで、久し振りにボストン周辺の情景を頭に思い浮かべるいい機会になった。
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