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都市郊外での農村ツーリズム [インド]

*只今日本滞在中ですが、少しため込んでいた新聞切り抜きを整理して、幾つかインドの記事を作ってみようかと思っています。

「リトリート(retreat)」
日常生活から離れ、普段しないことをして、自分を見つめ直すことをいう。海外でリトリートといえば、日常生活から離れ、聖書を学んだり、研究者がリゾートに集まり、お互いの研究テーマを発表し、親睦を深めたりするという。
(出所:バイタルなび)

海外駐在員生活を過ごしたことがある人であれば、「リトリート」というのに参加した経験があるかもしれない。チームの目標の再確認や結束力の強化を目的に行なわれることが多い。それだったら日本には「飲み会」文化があるではないかと言われるかもしれないが、チームの親睦を深めるという目標はあったかもしれないが、それ以上の組織業績の改善に繋げるような積極的要素があるようには思えない。ましてや、職場を離れても組織で群れるのを好としない風潮が指摘され始めて随分と日も経ち、そもそも職場の人間関係を引きずった飲み会自体があまり行なわれなくなった。僕の所属する組織でも、駐在員の交替時の歓送迎といった名目以外で同僚と飲みに繰り出すというケースが少なくなったように思える。成果重視が言われるようになってから、飲んでばっかりいて残業もあまりやらない者は黙っていると人事評価で減点までされるとなると、職場での仕事とオフサイト・ミーティングのどちらに重きを置くかは言わずもがなである。

前置きが長くなったが、そんな「リトリート」という言葉に、「ルーラル」という言葉をくっ付けた「ルーラル・リトリート(rural retreat)」という言葉を時々目にするようになった。都会に住んでいる中所得層のインド人が、大都会の喧騒を避けて自分のルーツを見直したり、農村生活を知らない自分達の子供に両親がどのような生活環境から現在に至っているのかを学ばせたりするために利用しているらしい。以前ご紹介したことがあるが、都市で成功を収めてそのまま都市部で引退生活を送っている高齢者が自分のルーツを再確認するために農村を訪れているケースもある。

ちょうど週刊誌『INDIA TODAY』が2009年10月号に観光を特集した別冊を付けており、その巻頭緒言が「ルーラル・リトリート(Rural Retreats)」と題した記事で、なかなか示唆に富んでいると思ったのでご紹介してみたい。

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「最後にニワトリを追いかけたのはいつですか?最後に頬に風を受けて野原を駆け回ったのはいつのことですか?牛荷車やトラクターの荷台で揺られながら坂道を上り下りするスリルを最後に味わったのはいつのことですか?農場観光はあなたの中に眠っている童心を呼び起こしてくれます。忘れ難い農村のにおいを経験したり、苗木を植えたり、オーガニック食材の味わい深さを楽しんだり、あなたが今までに経験したことがないかもしれない自然に囲まれることで湧き上がってくる喜びを経験したりすることができるでしょう」――ハリヤナ州観光局のパンフレットにはこのように書かれている。ハリヤナ州はインドで初めて農場観光の推進を図っている。
(前略)それは富める者の宴である。インドの農村は彼らに提供できるものが多くある。絵画や手工芸品や伝統文化が公式に認められた本物の伝統としてそこに息づいている。農村ツーリズム(rural tourism)は新しい概念であるが、何千人もの外国人観光客がラジャスタンやグジャラート、南インドの農村地域を毎年訪れている中、明らかに実行可能なビジネスモデルとなりつつある。

政府は、第10次経済開発5カ年計画で、雇用を創出して持続可能な生計の向上促進を進める主たる手段の1つとして観光を特定した。観光省は国連開発計画(UNDP)と協働で、農村ツーリズムと連携した内発的観光振興プロジェクト(Endogenous Tourism Project)を立ち上げた。UNDPはプロジェクトに対して250万ドルを拠出し、キャパシティビルディングやNGO、地域コミュニティ、地元職人等の関与、地域レベルでの官民パートナーシップの強化といった面での支援を行っている。政府はこうした農村観光振興に必要なインフラ整備を行うという。クマリ・セルジャ観光相はこう言う。「私達は、その農村観光振興スキームの下でユニークな商品の開発を進めています。このスキームでは、農村生活や芸術作品、文化や史跡といったものがショーケースには含まれます。地元地域コミュニティは経済的にも社会的にも恩恵を受け、観光客と地元地域住民との交流が可能になります。それは観光客にとってはとても豊かな経験となる筈です。」

中央政府が農村観光振興のホットスポットを31ヵ所リストアップしているのとは別に、各州政府も農村観光振興のための独自の取組みを始めている。例えば、ウッタルカンド州森林局はエコツーリズム・持続可能な生計センター(Centre for Ecotourism and Sustainable Livelihood)を設立し、地元コミュニティのキャパシティビルディングと農村観光の振興を目指している。ハリヤナ州がそうだったように、農場観光(farmhouse tourism)と呼ばれる取組みを推進し、受入先となり得る農場の特定を進めている。可能性があるのは、農村サファリや牛の搾乳といった異国風の活動で、これに地元で生産された農産品や手工芸品等の販売所や会議施設、ゴルフ場といった設備を併設している。パンジャブ州も同様なコンセプトを導入しようとしているところだ。

インドの農村ツーリズムは示唆に富んだ様々な経験を地元に対してさせてくれる。文化的伝統、踊りや音楽、工芸品製作スキル、家畜、村でのスポーツ、そしてバラエティに富んだ食文化は都市生活者の関心を惹く。インドでは、全ての農村地域に、達人から弟子に代々引き継がれてきた手工芸品や技能が存在する。その好例はオリッサ州ラグラージプールにあるパッタチートラ(Pattachitra)と壁画や、アンドラプラデシュ州ポチャムパリで有名なイカット(ikkat)風の織物、グジャラート州ホルカの刺繍、ラジャスタン州サモーデの装飾品や革製品、カルナタカ州アネグンディのバナナや他の自然繊維を使ったアクセサリーといったもので、リストアップは永遠に続きそうだ。

確実に外貨収入を得られるというメリットだけではなく、農村での雇用創出や農村からの人口流出の抑制といった面での潜在性は高い。だが、改善の余地も大きい。特に、農村地域への連絡道路の整備や下水、基礎インフラ、それに清潔なベッドとトイレ・シャワー室が各部屋に完備されていることなどが必須となってくる。ウッタルカンド州がセンターを設立した理由がそこにある。

例えば、グジャラート州カッチ県のホルカ(Hodka)村のシャーメ・サルハッド(Shaam-e-Sarhad)エスニック宿泊施設には2006年10月から2008年3月までに1000人近い人が訪れ、これに加えて1844人の日帰り観光客もあり、伝統的なカッチの歓待や工芸品、ラン(Rann)と呼ばれる音楽演奏等を楽しんで帰って行った。こうした観光客によって、ホルカ村の少なくとも70世帯が恩恵を受け、その中には160人の女性も含まれている。UNDPのインド担当ディエルドレ・ボイド局長によれば、このプロジェクトは村の女性達に、ホームステイのための人材配置やツアーガイド、地元手工芸品や食事の提供といった新たなスキルに挑戦する機会を与えてきたという。

世界的な不況の中、インドは2008年、史上最高の537万人の外国人観光客を受け入れてきた。この実績から、観光省はプロジェクトの持続可能性に自信を深めている。

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貧困や農村生活を観光の売りにする発想に対しては多少の躊躇もあるのだが、それを口にできるほどこの件での論調をいろいろと調べてきたわけではないので、発言が控えておきます。

surjivan-9.jpg上の記事は訪問客として外国人観光客を想定して書かれているが、これとは別にむしろ大都市の中所得層家庭を訪問客として想定して書かれた新聞記事がある。2010年1月27日付Hindustan Times紙第7面に掲載されていた「カスタムメイドの田舎風パッケージ(A custom-made rustic package)」(Manoj Sharma記者)という記事である。先の記事でも紹介されているように、ハリヤナ州はデリー辺りの小金持ち家庭を主たるターゲットにした農村ツーリズムを推進している。ハリヤナ州観光局のHPを覗いてみると、観光客を受け入れている農場が18ヵ所もあるらしい。Hindustan Timesの記事では、その中から、Surjivan FarmBotanix Nature Resortを記者が実際に訪問してレポートされている。

この記事を読んだ時、うちの会社の関係者のリトリートでもこういう農場を利用してやるのも一案だなと思ったものだ。それに、日本から「農村生活がどういうものか見せて欲しい」と依頼されるケースも結構多いので、そうした時に、こういう農場を紹介するのもいいかもしれない。勿論、その際にもいろいろ条件はあるだろう。「そこからホームステイできる農家を紹介してもらえるかどうか」というのも大きな要素だと思う。

そのうちに一度ハリヤナの農場を1泊2日ででも訪問してその様子をご紹介できたらいいと思う。

*Hindustan Times紙の記事全文は、下記URLからダウンロード可能です。
 http://www.gurgaonscoop.com/story/2010/1/27/14828/5810

*ハリヤナ州観光局の農村ツーリズムのページは下記URLの通りです。
 http://haryanatourism.gov.in/farm/farmtourism.asp

*Surjivan ResortのHPはこちらから!
 http://www.surjivan.com/

*Botanix Nature ResortのHPはこちらから!
 http://www.botanix.in/
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