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温かかった老婆の手 [インド・トリビア]

コンノートプレイスの職場で昼休み時間を迎えると、僕は同僚と連れ立って外に食べに出かける。オフィスの入居するビルから一歩外に出ると、日中は人通りも車の交通量も多い活気ある商業地が目の前にある。

そうした人々の合間をぬって目指すレストランまで歩いていくと、子供の物売り、母子の物乞い、いかがわしい商売をやってそうな若者、いろんな人が近付いてくる。そして一様に何らかの施しを求めて僕達に近付いてくる。

しかし、僕は子供や母子の物乞いはなるべく相手にしない。元締めがいて、折角僕らが施しをしてもそれを取り上げるのではないかと思えるからだ。また、なまじどこかの子供1人にあげてしまうとどこからか他の子供達もたかってきて収拾がつかなくなりそうだ。

ただ、お年寄り、特に老婆がビルの壁を背に道行く人々に両手を合わせて施しを乞うている姿を見るといたたまれない思いがして、少しぐらいの硬貨ならあげてもいいかという気持ちになる。1人にあげたからといって他の老婆が集まってくるというわけでもなさそうだし、さすがにこんな老婆から上前をピンはねするようなあこぎな商売をやっている奴もいないだろう。

そう思った僕は、今週のある日、外食に出たついでに緑の眼帯を付けて通行人に両手の掌を差し出している老婆を見かけた際、1ルピーだけどあげることにした。

老婆と同じ目線にまでしゃがみこみ、硬貨を老婆の右手の掌の上に乗せ、自分の両手でそっと老婆の手を包み込んだ。こんなところで物乞いをして、長生きしてねとは思いはしないが、ただチャイ1杯ぐらいは飲んでねと…。そこまでやってようやく気付いてくれたこの老婆は、「おおきに、おおきに」とでも言うように合掌して頭を下げた。

この老婆の手が温かかったのが印象に残っている。

そうしたやり取りを見ていた若いインド人の通行人が後から僕に声をかけた。「あなたはとても良いことをした」と。でも、その直後にこのインド人青年が、「鉄道のチケットを買わないか」と商売を持ちかけてきたのには興ざめだった。
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