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『青春夜明け前』 [重松清]

青春夜明け前 (講談社文庫)

青春夜明け前 (講談社文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/08/12
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
10代、男子。愛おしくおバカな季節。何かというとボッキしてばかりいたあの頃の僕たちは、勘違い全開のエロ話と「同盟」「条約」「宣戦布告」という言葉が好きだった。そして何より「親友」という言葉が大好きだった。男子の、男子による、男子のための(女子も歓迎!)、きらめく7編の物語。

久々の重松作品。大いに笑えた。爆笑しながら読める作品もたまにはいい。ストレスを忘れさせてくれる。その一方で、この作品、著者と完全同世代の僕ら40代半ばのオヤジはともかくとして、一体他にはどのような読者層を狙って書かれたのかとふと疑問に思った。

本書の帯にはこう書かれている。
妻よ、娘たちよ、そして、あの頃好きだったカノジョたちよ。
これが男子だ!
そうか、自分の妻には読ませていい作品なのだ。そして自分の娘、う~ん、娘が20代後半になったらまあ読ませてもいいかもしれないが、今10歳の娘にこれを読ませると多分オヤジは嫌われるだろうし、これから中高校生時代を迎えるうちの長男も軽蔑の対象となるだろう。その長男、高校生になったら読ませてもいいかもしれないと思う。あと4年、僕がこの本をずっと所有していたとしたら、その時には息子に引き継ごう。

職場の同僚、特に女性陣には、積極的にはお勧めしない作品だ。但し、読みたい方はご相談を。中学高校時代の憧れの彼氏の一見理不尽、一見非合理的とも思える行動の背後にある逡巡、迷いや悩み、心の叫びがきっと理解していただけることだろう。かく言う僕にも思い当たるふしがかなりあるからだ。気になってしょうがないあの子の前でわざと無関心を装ったり、「オンナは嫌いや」と公言したり、そんなことをやっていたから。

特に印象に残ったのは最後の「春じゃったか?」である。状況設定は全く異なるが、大学受験から高校卒業、そして上京に至るまでの主人公の心の動きは、まさに僕もそう感じたものと同じだった。卒業式という意味では中学校の時の方がまだ感動した。高校の卒業式は非常にあっさりしたものだったことはよく覚えている。その1年前の卒業式の時に、1年上で僕の進学した大学と同じ大学に進んだタナカ先輩が、大マジでタマネギの輪切りをビニール袋に入れて持ち歩いていた。そんなものの力でも借りないと涙の卒業式にはならなかったのかもしれない。制服の第2ボタンがどうこうというのもなく、卒業式の後でクラスメートと会って上京前の最後の時間を過ごすというのもなかった。上京一直線だった。

今だから白状するが、僕の時は実は卒業式どころではなかった。3年間たまたま偶然同じクラスになれたバレーボール部のエース(おいおい、中学の時は軟式テニス部のエースだったよな)のKさんに、最後の最後にコクるかどうするかで散々迷っていたのだった。結局言わなかった、いや言えなかった。町に残るか上京するか、そこはとても大きな分かれ目だったから。

父の会社のトラックに家財道具を積み、父の運転で夜間の東名高速を走って東京へと向かった日のこと、そこで交わした両親との会話については残念ながらほとんど覚えていない。出発が土曜の夜で、東京に付いたのは日曜日の早朝だった。夜間の高速で聴いたラジオで、キョンキョン(小泉今日子)がその日に『私の16歳』でデビューすることを知った。以来、大学4年間を通じて僕はキョンキョンのファンであった。同士みたいな連帯感を感じていた。

目白の学生寮に荷物を下ろし、秋葉原のサトー無線で電化製品を揃えたその日の夕刻、僕は寮の前で両親の乗るトラックを見送った。僕の手を振る姿をふり返り、母は涙ぐんだと述懐している。

今や東京に住む僕の子供達には「上京」という言葉の大きさは理解することが難しいだろうし、ややもすると東京での生活が当たり前であった妻にもこれは難しいかもしれない。でも、何故自分が東京に行きたいのか理由ははっきりしなかったけれど、東京はやはり特別な街だった。そういう生き方を僕らはしてきたのだということを、我が子や妻には知って欲しい。

それにしても重松さん、そろそろ山口や広島を舞台にする作品からちょっと別の場面設定も考えて下さい。収録作品のうち2編で高校卒業後に親友が博多に行き、自分は上京するというのがあったが、同じ話が『あの歌がきこえる』にもあったような気がする。

只今自宅でのギター練習で『冬の稲妻』、『チャンピオン』(アリス)、『神田川』(かぐや姫)等を何度も繰り返している僕としては、中学生時代もとても懐かしい。これらを多少でも弾けるようになってきたという時点で、ようやく中学生時代の悔いを1つだけでも払拭できたような気持ちになりつつある。
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カオリ

Sanchaiさんの上京のときのエピソードに共感しました。なんか、あの親と別れるときのかんじ、懐かしいです。この上京という体験は地方出身者と東京(および近県)出身者のあいだに流れる大きな川ですね。
by カオリ (2009-10-17 12:01) 

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