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観光地クシナガルに見る「教育機会格差」 [インド]

昨年11月に訪れたウッタルプラデシュ州クシナガルを再び訪問した。
日本の企業の方をご案内する1泊2日の強行軍だった。

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ここの目玉は仏陀涅槃の地に立つ涅槃堂(Nirvana Temple)である。去年訪れた頃は涅槃堂前の僧院跡は沙羅双樹の落葉を拾いに入ることができたが、毎朝のように夕立がある夏場のこの時期に訪れると排水が良くないのか僧院跡は水に浸かっていた。感覚としてはデリーよりも少し蒸し暑く、同じ時期の日本の夏とよく似た気候だ。

さて、本日の本題は観光地再訪の写真を単に紹介することが目的ではない。先ずは次の写真を見ていただきたい。

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上の3枚の写真は、涅槃堂から1kmも離れていない初等・中等学校で撮ったものである。校舎は増築中で、学校敷地をレンガ塀で囲う作業も行なわれていた。全校生徒は10年制で600人、教員数は16人だそうである。校長先生は女性である。ここの6年生と7年生の教室は日本のNGOを通じて日本人の方の寄付で1996年に建てられたものだが、その頃にこの校長先生は近所でソーシャルワーカーをやっていたのが評価されて学校教員として採用になったのだそうだ。他の校舎も台湾の方の寄付だったりする。私立の学校であるが生徒から徴収する学費は極めて安い。それでも運営できるのは観光地から至近距離にあって、観光客の注目を浴びやすいからだ。

クシナガルの貧しさを見たら、誰でもこの地域に何かをしてあげたいと思うに違いない。学校にも行かずに涅槃堂近くで観光客にたかる子供達を見れば、こうした子供達を学校に行かせてあげたいと思う人がいるのは当然だ。だから、ガイドにどこか学校を見たいと要望すれば手頃な距離にあるこの学校が紹介され、そして観光客が時々訪れる。校舎だけではなく教室も比較的きれいである。ちゃんと机もあるし、生徒もこぎれいでちゃんとした教科書を使っていた。

その上で次の写真4枚を紹介する。

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この写真はクシナガルの集落から3kmほど離れたところにある初等学校で撮ったものだ。3kmといっても街道筋からは奥に入ったところにあり、稲やサトウキビの畑の間を抜ける道を入っていかなければならない。しかも夕立の後で訪れたため、校庭は水浸しでとても子供達が遊びで使える状態でもない。校庭は壁もなく野ざらしである。

この学校は5学年で、生徒数はちゃんと聞かなかったが教員数は校長先生を含めて3人しかいない。当然、複数の学年を1人の先生が受け持たなければならない。校長先生は地元の人らしいが、僕達が学校を訪れたと聞いて慌ててバイクで登場した。つまり、この草履を履いた校長先生は実際の教務を行なっていない。そして教室――写真は小学校1年生のヒンディー語の授業だったが、子供達は栄養状態があまり良くないために日本人の感覚でいったらとても小学校1年生には見えない。蛋白質の摂取不足で髪は茶髪がかっている。中には結膜炎で涙目の子もいたし、手足に障害を抱えている子もいた。机はなく各自が敷物を持参して地べたに座って授業を聞いている。写真には撮っていないが黒板も悲惨な状態。一応「黒」の板ではあるが、チョークで薄汚れていて新しい文字をチョークで書いてもあまり鮮明には読み取れない。

これが現実である。たとえ観光地で多くの人が訪れるといっても、注目されるのはこの観光スポットから近い恵まれた学校だけであり、ちょっと幹線道から逸れてなかなかアクセスできないような学校になると観光客も殆ど注目しない。観光に来て寄付のお金を投下して来られる人が多いのは悪いことではないが、どこに投下するのかをちゃんと考えてないとかえって格差拡大を助長することにもなりかねない。

今回の訪問では日本のNGOであるインド福祉村協会とその協会がクシナガル支援の拠点としているアーナンダ病院(別名、インド福祉村病院)、アーナンダ・ミッション(Ananda Mission Charitable Trust)の関係者の方々に大変お世話になった。アーナンダ病院は上で紹介した後者の公立初等学校の近くにある。同じ貧困住民を対象とした外来往診をやっているとはいえ、アーナンダ病院が直接的にこうした公立学校の支援は行えない。しかし、こうした学校があることを踏まえて、観光客の方々にこうした学校に対しても何かできないかを考えていただくようなきっかけは提供できるのではないかと思う。

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アーナンダ病院の運営自体も、地元観光客の寄付に依存するところが相当あるとも聞く。今回滞在したホテルのロビーにもインド福祉村協会の募金箱が設置されていた。希望があれば病院見学も受け付けているとのことなので、クシナガルを訪れた方は安易に近くの学校云々ではなく、遠くの病院であっても実際に見て病院を取り巻く村の実情を知っていただければと思う。
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toshi

インドの地方の教育現場は大変ですね。
by toshi (2009-12-11 09:12) 

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