SSブログ

『社会保障は日本経済の足を引っ張っているか』 [読書日記]

社会保障は日本経済の足を引っ張っているか

社会保障は日本経済の足を引っ張っているか

  • 作者: 京極 高宣
  • 出版社/メーカー: 時事通信出版局
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
日本経済と社会保障の関係を本格的に論じた、本邦初の啓蒙書。社会保障が単なる国民のセーフティーネットだけでなく、戦後日本経済にどのような積極的影響を与えてきたのか。どのように日本経済にプラスの影響、良い経済効果などをもたらしてきたかを、実証的に検証する。

170㌻くらいの比較的薄めの本だが、図表満載で本文の説明と図表の対比をいちいちやっていたら意外と読むのに時間がかかった気がする。筆者の問題意識は既に本書のタイトルがそのものズバリなので、非常にわかりやすいが、結論が「社会保障の各分野から経済効果を総合的にみれば、わが国の社会保障が日本経済の足を引っ張ってきたとは決していえません。むしろ逆といえます。各分野ともさまざまな面で日本経済を底支えしたり、引っ張り上げたりする役割を持っていたことは明らかです。」(p.169)になるであろうということは最初から見え見えで、それでも読むべきかと悩んでしまう文献だ。

ただ、分析枠組みは非常に参考になった。先ず、社会保障分野をⅠ現金給付部門(生活保護、年金、労働保険)、Ⅱ現物(サービス)給付部門(医療、介護、社会福祉・児童福祉)にわけ、各分野毎に分析する手法を取っている。その手法の解説にかなりの紙面を費やしているおかげで、結論はシンプルながら長い論文になった。

社会保障において考えられる効果としては、①生活安定効果、②所得再分配効果、③労働力保全効果、④産業・雇用創出効果、⑤資金循環効果、⑥内需拡大効果、の6つが挙げられている。社会保障は国民のセーフティネットだけではなく、様々な経済効果も持つことを筆者は強調している。全体を通した印象としては、各分野の経済成長への効果の出方は異なるものの、意外とインパクトが大きいのだなというのがわかった。一種のマクロ経済政策としても社会保障制度は位置付けられるということだろう。

ただ、こうした分析は、日本や他のOECD諸国のように国民経済社会統計がそれなりに充実しているところでは可能だろうが、開発途上国でどうかと言われるとどうかなと疑問に感じてしまう。成長を下支えする経済政策と位置付けて社会保障制度の充実を図ることは「人間の安全保障」の観点からも必要なことだと思うが、その前提条件として統計制度の整備が図られることが必要になってきてしまう。今の途上国の開発課題の中で、統計制度というのがどれくらいの優先順位なのかというと、ちょっと考えざるを得ない。むしろ、こういう日本の最新の研究成果が途上国の政策立案者にも周知されることで、「日本や他の国でこうだったのだから、自分の国の施策としても重要ではないか」と納得してもらうことができるようになるのではないかと思う。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0