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『入門 開発経済学』 [持続可能な開発]

入門 開発経済学-グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション (中公新書 2743)

入門 開発経済学-グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション (中公新書 2743)

  • 作者: 山形 辰史
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2023/03/22
  • メディア: 新書
内容紹介
21世紀に入った今でも世界は悲惨さに満ちている。飢餓、感染症、紛争などに留まらず、教育、児童労働、女性の社会参加、環境危機など、問題は枚挙にいとまがない。開発途上国への支援は、わたしたちにとって重要な使命である。一方で途上国自身にも、ITを用いた技術による生活水準の向上など、新たな動きが生まれつつある。当事者は何を求めているのか、どうすればそれを達成できるのか、効果的な支援とは何か――これらを解決しようと努めるのが、開発経済学である。その理論と現状を紹介し、国際協力のあり方、今こそ必要な理念について提言する。
【購入】
僕も間もなく定年を迎え、その時には今勤めている会社はきっぱり辞めて、政府開発援助の現場からは思い切って距離を置こうと思っている。国際協力に一切かかわらないというつもりではないものの、ジェネラリスト的な立ち位置での仕事はもうしないだろう。

そう心に決めてからは、あまりこのタイプの本は読んでいない。というか、他に読まねばならない資料が多いことから、国際協力系の文献は優先度を下げているというのが正直なところだ。ただ、3月末に日本に帰った時、たまたま店頭平積みになっていたし、ものが新書なので読み終わったらティンプーの昔の職場にでも置いておけば後輩の誰かが読んでくれるだろうと考え、1冊購入してこちらに持ってきた。

それを今頃読もうと考えたのは、このところSDGsについて考えさせられる出来事が多かったからである。今の自分の仕事とSDGsが絡んでくる局面があったことや、SDGsが制定された当時のことを思い出さねばならなくなったことなど、続く時には続くものである。今の自分の仕事とSDGsに関しては、「デジタルものづくりとSDGs」という記事をnoteの方で書いたので、ご覧いただければと思う。

また、奇しくも今週は2023年の「持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report 2023)」も発表された。SDGsがその達成の軌道から大きく外れており、特に貧しい国々に向けて2025年までに相当な資金フローの拡大が必要だというメッセージが報告書には込められているそうだ。日本も順位を下げたことになっているそうだが、本日ご紹介する本書の著者によると、SDGsでは、日本の経済社会がどれだけ持続可能になったのかが国連へのSDGs達成状況報告の主旨とされていて、日本が開発途上国の持続可能な開発のためにどれだけ貢献したのかは、多くの達成指標の中の一部に過ぎないとのことである。

つまり、日本が自国の経済社会のサステナビリティ向上への取組みで不十分だと言うことだけでなく、SDGsでは国際開発への貢献の位置付けが相対的に下がってしまったことが課題だと指摘されている。SDGsへの取組みで、日本国内でこれだけやってますというアピールは沢山目にするが、それを合算してみても取組みが足りないし、「やれることから取り組むので可」と言ってスタートしているから、やるべきだけれどもやれていないことには目をつむってしまっている。そんな状況なのかなと思う。

本当に久しぶりの国際開発系の文献なので、忘れていることの多さに自分も驚いたが、本書を読んでもう1つ驚いたのは、「経済成長とイノベーションのメカニズム」に多くの紙面を割いていることだった。「誰も取り残さない」というところから、貧困削減や脆弱層への支援は引き続き重要という主張に続き、貧困削減は成し遂げた多くの国が、持続的な成長を遂げるためにはイノベーションが必要だと著者は論じる。僕自身が関わっている仕事との関連では、この章が最も親近感があったところである。

技術革新は、既に何らかの技術で先頭に立った企業が、その技術開発力を活かし、連続して実現することもある(シュンペーター的)。他方、失うものを何も持っていない後発企業が、既存の技術やシステムを破壊し、全く新しい技術体系を打ち立てる形で実現することもある(アロー的)。後者の場合をリープフロッギングと呼び、後発国が先発国を跳び越える形でも起こりうる。(中略)
 本章の後半で議論したのは、現在の技術革新支援制度の代表である知的財産権制度、なかでも特許制度は、完全無欠で変更しえないものではなく、むしろその特徴を熟知したうえで、変更したり使いこなしたりするべきものだ、という見方である。(pp.159-160)

このあたりを読みながら、インターネットの普及とオープンソース化によって今起きている生産拠点の分散化は、筆者の枠組みではどう位置付けられるのかがよくわからなかった。技術革新の担い手は企業ではなく個人であるケースも草の根レベルではあるし、既存の技術を破壊するわけではなく、オープンソースになっている既存の技術を活用して、それをカスタマイズして小さなイノベーションを付加していき、そうしたエコシステムが面的に広がっていくというのが僕たちの描いているシナリオである。そして、知的財産権制度でも、特許制度の見直しだけでなく、クリエイティブコモンズライセンスの普及についても、言及が欲しかった。

本書で紹介されている草の根の技術革新は、「人々の生活を大きく変える発明」という扱いで、農業や保健医療、情報通信という特定分野でのイノベーションの具体例を紹介している。特定セクターでのこれらの「発明」が人々の生活を大きく変えたというのは確かにその通りだ。有名な事例である。でも、発明とは言わないが、この20年で世界3,000ヵ所以上に増えたファブラボのような多目的対応型のイノベーション環境や、データのオープンソース化というのも、世界を変えつつあるトレンドで、しかも途上国が一気に先進国に追いつき、場合によっては課題対応力で追い越すことすら起こり得るトレンドだということができるのではないだろうか。

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