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『永遠と横道世之介』 [吉田修一]

永遠と横道世之介 上

永遠と横道世之介 上

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2023/05/26
  • メディア: Kindle版

永遠と横道世之介 下

永遠と横道世之介 下

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2023/05/26
  • メディア: Kindle版
内容紹介
【上巻】39歳になったカメラマン・横道世之介が暮らすのは、東京郊外に建つ下宿「ドーミー吉祥寺の南」。元芸者の祖母が始めた下宿を切り盛りするあけみちゃん、最古参の元芸人の営業マン礼二さん、書店員の大福さん、大学生の谷尻くんらとゆるーっと暮らす毎日に、唐突に知り合いのベテラン教師ムーさんの引きこもりの息子一歩が入居することになって……。下宿仲間たちと繰り広げる、温かくてしょっぱい人間ドラマ。
【下巻】世之介、最後の恋の相手は余命2年!?吉祥寺“の南”のシェアハウスで繰り広げられる、温かくてしょっぱい人間ドラマ。一目ぼれの相手をふり向かせたくてサーフィンを始めた谷尻くんの恋模様、余命わずかと知りながら結ばれた恋人・二千花との思い出、後輩エバの娘の誕生、――そして、世之介亡き15年後の世界まで。世之介を取り巻く人々の一年を中心に彩り豊かに描く。横道世之介の世界、堂々の完結編!
【購入(キンドル)】
先月末に出たばかりの吉田修一「横道世之介」シリーズ完結編。但し、代々木駅での乗客転落事故に巻き込まれて世之介が亡くなったのは、第一作では新大久保駅で実際に起きた乗客転落事故をベースに2001年だったように記憶しているが、本作では2008年秋とされており、時系列的に「あれ?」と思うところがあった点は付記しておく。

一作目を発表した時には、まさか「横道世之介」がこれほど人気が出るとは作者ご本人も思っておられなかったのだろう。それがシリーズ化されたわけだが、『続・横道世之介』まではいいとして、本作品を描くにあたって、前二作とのつじつまを合わせるのは結構大変だったんじゃないかという気もする。

それはさておいても、相変わらず世之介君はいい奴で、いい意味で脱力していて、多少のうざったさも感じさせる周囲の人びととの会話も、本当にやっていそうでいいなぁと思う。終盤になって「リラックスできている人がいちばんカッコいい」といったキーワードが出てくるが、リラックスした会話というのがどういうものなのか、本作品は存分に味わえると思う。

驚きだったのは、本作品の舞台の1つ、あけみさんが管理人を務める「ドーミー吉祥寺の南」というのが、僕の生活圏内で、吉祥寺の他にも三鷹あたりも登場人物の行動半径として出てきており、だったらエバ君夫妻の第一子出産はあそこの総合病院だったのだろうとか、「業務スーパー和泉屋」のモデルがどのあたりのスーパーだったのだろうとか、買出しのついでに寄ろうとした東八道路上のカフェがどこだったのだろうかとか、イメージができてしまうぐらいに親近感を覚えるものだったからだ。吉祥寺駅から調布駅まで行ける路線バスのルート上に位置し、古くから続く地元の名士が運営されている農園のお隣りで、しかも近くにお百度参りできそうな神社があるといったら、あそこじゃないかとか…。けっこう、うちの自宅からも近そう。

さらに驚いたことには、なんとこの作品には上下巻を通じて、「ブータン」が登場する。ドーミーにブータン人タシさんを1週間ほど泊めて、その時の住人との交流がその後の下巻での話の展開でも大きく効いてくる。「人って前世で優しくした人に、今世では優しくしてもらえる」という輪廻話が、後半の次世代誕生につながっていく。

三鷹市民で、たまたま縁あってブータンに来ている僕のような読者は、読むべくして読んだ作品だということができる。

ドーミーって、今風に言えばシェアハウスなのだろうが、あけみさんの祖母の代で1970年代(?)にはすでにこのスタイルでまかない付き下宿を始めて、2000年代まで続いているという構図ってけっこう惹かれるものがあった。うちの妻が「農園付きアパート経営やりたい」などと言い始めていて、本当に始めるなら僕はその妻の経営を手伝いつつ時々アドホックに入る仕事をこなすために自宅を留守にする、世之介君のような「ひも生活」を送りそうな気がするが、本作品に出てくるこうした住人とのコミュニケーションや「場」の作り方は、憧れるし参考にもしていきたい。

繰り返しになるが、時系列的にはしっくりこないところもあるので、たぶんもう一度じっくり読み直す機会を設けることになると思う。

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