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『ほんとうの定年後』 [読書日記]

ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う (講談社現代新書)

ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う (講談社現代新書)

  • 作者: 坂本貴志
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/08/17
  • メディア: Kindle版
内容紹介
年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70代男性の就業率は45%、80代就業者の約9割が自宅近くで働く……全会社員必読! 知られざる定年後の「仕事の実態」とは? 漠然とした不安を乗り越え、豊かで自由に生きるにはどうすればいいのか。豊富なデータと事例から見えてきたのは、「小さな仕事」に従事する人が増え、多くの人が仕事に満足しているという「幸せな定年後の生活」だった。日本社会を救うのは、「小さな仕事」だ!
【購入(キンドル)】
少し前にご紹介した『そば学大全』を読んでいた際、文庫や新書の新刊書によくある、出版社の当該月の新刊紹介のスリップの、2022年9月版にあった中で、ちょっと気になり、講談社現代新書の新刊という気軽さで、キンドルでダウンロードしたものである。サブタイトルの、「小さな仕事」に惹かれたもので。

いろいろ書かれているけれど、簡単に言ってしまえばこの「小さな仕事」というのがキーワードで、本書のメッセージが集約されていると思う。まえがきで著者は先取りして本書の結論を述べてしまっている。

 定年後の仕事の実態を丹念に調べていくと浮かび上がってくるのは、定年後の「小さな仕事」を通じて豊かな暮らしを手に入れている人々の姿である。さらに明らかになるのは、このような定年後の「小さな仕事」が必要不可欠なものとして人々の日々の暮らしの中に埋め込まれており、かつそれが実際に日本経済を支えているという事実である。(p.7)

事例を通じて、多くの人が現役時代から定年後のキャリアに向けた移行期に悩む経験をすることがわかってくる。そして、その転機に向き合うことで、競争に勝ち残り、高額の報酬を得ることだけがキャリアの目的ではないことに、人は気づいている。(p.8)

このメッセージが冒頭で示されてしまっているので、あとの本文はそれを裏付けるデータの提示に徹していて、ダラダラと長ったらしい記述が続く印象を持ってしまったが。でも、定年を来年度に控えた僕自身も、漠然と思っていたことでもあったので、なんだか背中を押してもらったようなポジティブな気持ちになれる読後感であった。

定年直前の僕だけでなく、今うちの会社は全社的に社員が進路希望調書を提出する締切時期にさしかかっている。だいたい進路希望など勤続約30年にしてかなったのは二度しかなく、希望などかなわないのが当たり前だと思っていたので、毎年大半の項目を前年度からコピペして調書を提出するようなことをやってきた。(本当にかなえたい進路希望がある場合は、調書に記入するよりも人事部にロビイング活動をする方が希望を聞いてもらえる、そう2年前に聞かされた時は「人生棒に振った…」とガックリ来た。)

定年到達を来年度に控えた今回も、元々退職しようと思っていたのでそれほど気合を入れて調書記入はしていなかったのだが、「退職後にやりたいこと」で自分が書いたことが的を外していないかどうかは気になっていた。もう提出はしてしまったので、本書を読んだからといって今さら変更することはない。

とはいえ、著者がこの主張を行うにあたっての前提は、60歳定年から65歳年金受給開始までの間は同じ会社の再任用で働き続けることであるように読めた。著者はお金の出入りを中心に書かれているようだが、会社で再任用になった人が自分の能力を生かせる仕事に皆就いているかというとそうでもなく、仕事の中身的には相当な我慢が強いられると思う。ストレスが相当かかる仕事なのにである。なので、著者の前提条件が5年間の再任用込み込みであると感じられる点には、ちょっと抵抗はあった。

一方で、元々自分も今の会社からは離れる覚悟ができていたが、では今いる業界から離れるところまでの覚悟ができていたかといったら、そうでもなかった。著者は「定年後のキャリアでは、定年前のキャリアで培った狭義の専門性を直接活かせる仕事に就くことに必ずしも執着しなくてもよい」(p.211)と述べているし、第2部で扱われている事例の多くも、定年後は定年前の勤め先の仕事の延長線上とはまったく異なる「小さな仕事」を見つけ、そこにやりがいを感じておられる。

なまじ中途半端に業界と接点を持っていると、若い世代の人たちが華々しく活躍しているのに嫉妬心を抱いたり、仕事ぶりが至らないと苦言のひとつも言いたくなったりする。中途半端な距離の取り方はあまり良くない。思い切って、今まで30年近くやってきた仕事から距離をおき、この10年弱の間に付けてきたスキルと人脈を別の領域で生かすような生き方をして行けたらなと改めて思う。

この記事を書いている11月5日(土)は、僕の出身の大学院の創設20周年式典と記念イベントが開催された。同期の友人で大学で教員をやっている連中がパネリスト登壇したりもしていて、僕も出ようかギリギリまで迷ったのだが、結局出ないことにして、目の前の仕事を優先した。その方が将来につながるし、国際開発の業界とは思い切った距離のおき方をすべきだと本書を読んでても思ったので。

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