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「クリエイティブ産業」の定義 [ブータン]

クリエイティブ産業:多すぎるレポートと乏しいインパクト
Too many studies on creative industry without impact
Tashi Dema 記者、Kuensel、2022年4月5日(火)
https://kuenselonline.com/too-many-studies-on-creative-industry-without-impact/
【要約】
情報メディア局(DoIM)は最近、あるコンサルティング会社とクリエイティブ産業ロードマップの作成に関する契約を締結。このロードマップ策定の目的はクリエイティブ産業の振興と経済多様化、所得機会の創出にあり、同産業の自給自足化も目指すとある。

しかし、クリエイティブ産業セクターの関係者は、このロードマップ策定は重複もいいところで、資源の無駄遣いだと指摘する。映画部門のロードマップについてはNational Film Commissionが現在調査実施中で、経済省も最近、クリエイティブ産業セクターに関する調査を終えたところだという。インパクトも全然残せないのに調査をやり過ぎだと指摘。

クリエイティブ産業は経済成長の促進と雇用創出に大きな潜在性を有するが、いろいろな政府機関がその潜在性を最大化しようと試みるものの、彼らの努力はいつも分断されて、縦割り状態にある。

様々な公的機関が、巨額の資金を投入して、調査を実施してきた。データに基づく政策策定は確かに必要だが、セクターの開発には包括的なアプローチも必要との指摘も。また、セクターの全体的なロードマップ策定には、これまでに行われたすべて調査研究レポートを分析・整理し、まとめることも必要だと指摘されている。

DoIMには、利用可能なデータは過去の調査実績があるものの、これらを用いてクリエイティブ産業の改善に役立てようとの動きが見られないとの指摘も。DoIMは過去に実施した調査レポートを公開すらしていないという。

一方、経済省が実施した調査は「ブータンセクター分析」と題して、昨年12月に行われたもの。世界の映画産業部門の趨勢を評価し、同部門の理解を図ることで、ブータンの映画産業部門のビジョンと戦略的方向性を明らかにすることが目的とされていた。調査では、ブータン映画のデータベースを構築し政策立案者や映画研究者、関心ある個人や国際社会が利用可能な形にまとめることも目的とされ、ブータンの映画産業の現状を理解し、ブータン経済に対する映画産業のインパクトを評価するのにも役立てられるとのこと。

一方、National Film Commissionが行っている調査は「映画産業部門公共調査報告」と呼ばれ、これも昨年12月に実施された。このレポートでは、脚本の改善やテーマの多様化、文化の創造性の改善、映画インフラの整備や映画関連サービスの改善計画の必要性が提言された。レポートでは、クリエイティブ産業部門は国内市場だけに注目するのではなく、世界中の映画視聴者やクリエイティブ消費者を惹き付けることも考えるべきだと提言し、映画部門向けのオンライン及び対面での研修やワークショップ機会の提供も求める内容となっている。

最近、僕は「クリエイティブ」という単語にちょっと敏感になっている。たびたびこのブログでも言及している、3月14日に当地で僕が行った講義のかなりの部分で、リチャード・フロリダの「クリエイティブクラス」や「クリエイティブ都市論」、さらに日本でも、ビエンナーレやトリエンナーレといった地方での芸術祭の増加を受けた「創造農村」といった考え方などを引用した。クリエイティブが、都市開発や農村開発、地域の魅力化アップの文脈で語られることが増えてきている点を強調した。

そういうプレゼンに仕方をブータンの聴衆にした後、ふと思ったのは、「メディアアート」とか「クリエイティブ」という言葉を聴いて、ブータンの人は何をイメージするのだろうかということだった。

僕自身は、アートもデザインも、そして科学技術も、身の回りの問題解決や問題提起のための表現手段を構成する要素として、得手不得手はあるのは仕方ないにしても、生きていくには必要な知見だと思っている。21世紀に必要とすられるスキルとは、学習者が置かれた状況や課題に対して、知り得たことを応用しながら、他者と連携し、最適な判断を下せるようになっていくことだと言われていて、そのために、文系、理系などの垣根を越えた分野横断型の学習がSTEM教育/STEAM教育では指向されていると僕は理解している。

でも、ブータンで「STEM教育/STEAM教育」と言うと、大方の人がイメージするのは「プログラミング教育」であり、アートやデザイン、科学技術まであまり想定されていないようである。ましてや、「アート」は初等教育で終えるものと見られている。

そうすると、「クリエイティブ」というのもどういう捉え方がされているのかなというのが気になるのだが、上記のクエンセルの記事を読むと、「クリエイティブ産業=映像・映画産業」という捉え方なのだなという、定義の狭さが垣間見えた気がしてしまった。

ちなみに、クリエイティブ経済を構成する産業部門として、UNCTADは次の16部門を挙げている。
①広告、②建築、③アート・工芸、④デザイン、⑤ファッション、⑥映画、⑦映像、⑧写真、
⑨音楽、⑩パフォーミングアート、⑪出版、⑫研究開発、⑬ソフトウェア、
⑭コンピューターゲーム、⑮電子出版、⑯テレビ・ラジオ
https://unctad.org/topic/trade-analysis/creative-economy-programme

UNCTAD-classification-of-creative-industries-Source-UNCTAD-2008.png

同じようなプログラムが、縦割りの行政機構の中で、横の連携もなくバラバラに推進されるという構図は、この国では結構多いので、もし「クリエイティブ産業」を「映画産業」にまで絞り込んでしまうと、調査の重複は起こり得るし、批判の対象にもされやすい。少なくともこの記事を書いた記者は、そういう認識で記事を書いている。

ただ、DoIMの肩を持つわけではないものの、DoIMが「クリエイティブ産業」をもう少し広い意味で捉えて、映画だけでなく、UNCTADの定義にある広告や出版、テレビ・ラジオ、映像制作、写真等にまで広げ、しかも「ロードマップ」という以上、就業前教育にまで検討領域を広げて、より包括的に検討してくれるのであれば、必ずしも「重複」「資源の無駄」といった批判には当たらない気もする。

もちろん、DoIMの肩幅では、UNCTADの16領域はすべてはカバーできないだろうし、包括性の確保には限界も相当あるには違いないのだが。

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