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『地域を変えるソフトパワー』 [仕事の小ネタ]

地域を変えるソフトパワー アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験

地域を変えるソフトパワー アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験

  • 出版社/メーカー: 青幻舎
  • 発売日: 2012/12/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
いま、柔軟な社会変革が地域に求められている――アートを通じて地域の「課題」を発見し、変化をもたらしていこうとするAAF(アサヒアートフェスティバル)。10年に渡る活動のなかから、具体的な14の事例を検証。地域の再生に不可欠な創造力(ソフトパワー)を紹介する。メセナアワード 2012メセナ大賞受賞!

著者は「藤浩志・AAFネットワーク」とある。そう、本書を図書館で借りたのは、先週から続いている藤浩志先生リサーチの一環であった。その目的からすると、本書はちょっと外した感がある。藤先生の「かえっこ」のことは本当にチラッとしか出てこない。

ただ、アートを通じて地域の課題の発見と変革を指向するという取組みの事例の数々は、それなりに勉強になるところはあった。自分の実践につながるものでは決してないけれど、地域でこういう活動をしている人々に対する見方はちょっと変わるかもしれない。

特に、学校の美術の先生が仕掛けた、中学校を美術館にして地域に開くという発想(長野県・戸倉上山田中学校の「とがびアートプロジェクト」)には興味を惹かれた。ただ、2012年発刊の本書で紹介されたとがびは、直後の2013年にはこの美術教員の他校への転出を機に開かれなくなったそうである。属人的な取組みというところはあるのだろうか。

ことほど左様で、本書を2020年の今読んだからといって、紹介されている様々な地域のアートプロジェクトが、今も継続・発展している保証はない。アサヒアートフェスティバル(AAF)にしても、2016年度をもってアサヒビールは支援を終了している。それまでの総括はアサヒビールのCSR活動のウェブサイトで見ることはできるが、各々の地域の取組みは今どうなっているんだか…。

だから、あまり事例を真剣に読む気持ちにはなれなかったのも正直なところ。

冒頭、地域のアートプロジェクトやそれに取組み人々への見方が変わったと書いたが、それはこんな一節が本書にあったからである。いろいろな論点が含まれる引用だと思うが、備忘録として転記しておく。

アートがまちや大地に出て行くと、しかし、関係者の期待とは違って、アートの力よりも、しばしば都市や大地の力の方がはるかに巨大であることが見えてしまった。美術館のような文化h施設に保護されていた美術品たちは、その保護を失ってみると、たちまち貧弱な裸体に過ぎないことが露呈してしまった。ただ巨大で力強いはずの作品を置くだけでは無力だ、ということが判明した。むしろ、なすべきことは規模など小さくても、丁寧にそれぞれの地域の人々と応接し、きめ細かく地域と協働することだということがわかってきた。もはや作品の質やら出来不出来以上に重要なのは、その地域でどれだけきめ細かく、人々と共に考え共に汗を流したかであって、そのためには、インパクトのあるアートとはなんと便利で有効なツールなのだろう、ということがわかったのだ。
 元来、日本では、座や連といったコミュニケーション型のコミュニティ・アートとでも呼ぶべき活動が実に活発に行なわれていた。なかでも俳諧の連歌と茶は、伝播の広さ、携わる人の多さ、その質の高さ、何をとっても双璧であった。まことに大衆の文化水準が高かったのである。これを明治維新がまず変容させ、高度成長期がとどめをさした。文化水準は自治の能力と不可分である。市民に自治能力が高いのは、市民の文化度が高いからである。AAFに、地域コミュニティの抱える課題解決を目指した活動が多いのは、けだし、我々が昔は持っていた市民自治を回復する実験場であるからに違いない。
 たいした戦略もなくスタートしたけれども、参加する各地のアートプロジェクトに集う市民のネットワークのおかげで、AAFはソフトパワーとして機能し始めている。草の根市民社会の自治こそが、地域を変えるソフトパワーなのである。(p. 231)


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