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『帝国ホテル建築物語』 [読書日記]

帝国ホテル建築物語

帝国ホテル建築物語

  • 作者: 植松三十里
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
1923年(大正12年)に完成した帝国ホテル2代目本館、通称「ライト館」。「東洋の宝石」と称えられたこの建物を手掛けたのは、20世紀を代表する米国人建築家、フランク・ロイド・ライトだった。世界へと開かれた日本において、迎賓館の役割を果たしていた帝国ホテル。そのさらなる進歩を目指す大倉喜八郎と渋沢栄一が、明治末期、アメリカで古美術商として働いていた林愛作を帝国ホテル支配人として招聘したことから、このプロジェクトは始まった。しかし、ライト館完成までの道のりは、想像を絶する困難なものだった―。ライト館の建築にかけた男たちの熱い闘いを描いた、著者渾身の長編小説。

先々週末、近所のコミセンの図書室に寄った際、何気なく借りた本。植松三十里作品は昔、富岡製糸場の初期の製糸工女・尾高勇を主人公にした『繭と絆』を読んでいたし、パラパラとページをめくっていたら伊藤博文とかチラッと出てきたので、それなら借りようかということになった。同時に借りたのが、重松清『木曜日のこども』である。

結局、『木曜日の子ども』の方から先に読み始めちゃった。それで先週1週間を費やしてしまったのだが、11日になって『帝国ホテル建築物語』を読み始めて、プロローグでライト館の明治村への移設の話が出てきたとき、僕はこの読み方の順序を逆にしていればよかったと激しく後悔した。

先週木曜日(5日)、僕は愛知県犬山市に行っていたのである。用があったのは犬山といっても市の南部の方面だったが、名鉄線の乗継で犬山駅は使っていたので、明治村は目と鼻の先だった。用務を済ませて、ちょっと足を延ばせばライト館は見てくることができたのだ。それに加えて、明治村のことをもうちょっと調べてこの日の用務に臨んでいれば、用務先での会話の中でもそれを生かすことができたかもしれない。大げさかもしれないが、ちょっと自分の将来を左右したかもしれない。

とはいえ、挽回のチャンスがまったく閉ざされたわけでもないので、チャンスを与えていただけるなら、「明治」と名の付く地域のコンテンツをどう生かせるかはもっとよく考えてみたいと思う。

でも、プロローグからわかるけれど、ライト館は大正12年に完成しているから、実は明治村のコンテンツとしてはちょっと異例だったらしい。1972年の沖縄返還の時、当時の佐藤栄作総理がライト館の取り壊しに関して「明治村への移設」と言っちゃったために、そうなったんだとか。でも、明治村HPのトップページでも使われる目玉コンテンツとなっている。

さて、そんな帝国ホテル・ライト館の建築ストーリー。多分登場人物のほとんどが実在していたのだろうと思うが、彼らの会話や行動は、作品の中ではフィクションとなっている。特に、フランク・ロイド・ライトと林総支配人や遠藤新、大倉喜八郎との会話は、本当にそうだったのかはわからない。歴史小説はそういった実際に起こった出来事を何らかの仮説をもって描いているから面白いといえる。『繭と絆』の時も若干淡白な描きぶりになっていて、そのあたりが植松三十里という作家に対して僕が少し割引き要素にしているポイントでもあるが、歴史小説ってそういうところはあるのかもしれない。

ただ、このライト館のディテールの部分の描き方はすごい。見取り図とか付けてくれていればもっとわかりやすかったかもしれないが、それは編集側の責任。当時の建築の進められ方が本当にそうだったのかどうかはよくわからないけれど、言葉で表現できる相当ぎりぎりのところまで細かくは描いておられると思う。『繭と絆』の時にも感じたが、作品を描くにあたって、相当な勉強をされる作家だと思う。

たまたまだろうけれども、今小学館のビッグコミックオリジナルで連載中の『昭和天皇物語』が英国エドワード皇太子の訪日のシーンを描いている。ちょっと前には原敬首相暗殺事件も描かれていた。ライト館が建設されていたのはちょうどそういった時代で、開館当日に関東大震災が起きる。それでもまったく崩壊せず、日比谷一帯のビル群の中で唯一生き残ったのがライト館ということで、この設計者の名声を高めたらしい。本書を読むと、帝国ホテルに対する見方がちょっと変わるかもしれない。来月下旬には帝国ホテルに行く機会もあるので、その時の話のネタとしてはいい読書であった。

また、ここで大谷石が使われたのがきっかけとなり、大谷石の名声も高まった。今はLIXILと名を変えているINAXも、元は常滑の伊奈製陶所だが、これを大きくしたのはライト館建設へのテラコッタの製造供給だった。そのあたりのストーリーも、本作品の中では出てくる。

いろいろ楽しめる作品だ。激しい後悔のおかげで、2日間で一気に読み切ってしまった。

なお、表紙の帯で阿川佐和子が推薦文を書いておられるが、彼女は明治村の村長である。な~るほど。

タグ:植松三十里
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