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『スタートアップ』 [仕事の小ネタ]

STARTUP(スタートアップ):アイデアから利益を生みだす組織マネジメント

STARTUP(スタートアップ):アイデアから利益を生みだす組織マネジメント

  • 作者: ダイアナ・キャンダー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
UCLA、コロンビア大など全米70校が「アントレプレナーシップ」の教科書に続々採用!
コンサル会社を辞め、念願の起業を果たしたオーエン。だが事業は失敗。膨大な借金を抱え、あとは破産を待つだけに。彼は一体どこで間違えたのか。起死回生の一手はあるのか?
起業家の挫折と逆転の物語を読み進むことで、スタートアップという新しい時代の経営手法を「実体験」できる、新事業や新商品開発のための必読書。

今週、僕のところにあるブータン人の方が相談に来られた。HIV感染者とそのご家族のための生活自立を支援している市民社会組織(CSO)の方で、その活動主旨は素晴らしい。そこの代表の方から、オーガニックのジャガイモの商業生産をやりたいので協力して欲しいと高飛車に言われた。「想定している市場はどちらですか?」と僕は尋ねた。「先ずはインド市場で売りたい。あとは国内」と仰った。

だから僕は次のように言った。「ブータンの方はオーガニック、オーガニックと仰るけど、外国市場での「オーガニック」とは定義が違います。ちゃんとオーガニック認証を第三者機関から取っていないとオーガニックとしては認知をされません。インドだってそうです。ブータンにはオーガニック認証ができる機関はありますか?」

そうするとこの方は仰る。「農業省がやってくれるだろう。」僕は反論する。「農業省はオーガニックとして売りたがっているので、認証機関としての独立性については疑問ですし、そんな認証をしているとも聞いたことはありません。」

このままではインド市場にオーガニックポテトを売れそうにない。それじゃ国内はどうかとなる。「サブジバザールに店舗を置いてそこで売る」―――そう仰る。そこで僕は言う。「多分ブータンのジャガイモって、結果的にはオーガニックなのかもしれませんので、オーガニックとして売るにはアピールが足りません。他に商品差別化するためにお考えになられていることはありませんか?」

その方は、何を言われているのかわからないという表情をされる。これは誰と話しても一緒である。たいていの場合、作るものが先にありきなのである。それを誰にどう売るかという発想が弱い。

オーガニック、オーガニックと言われるが、費用がかかるから農薬や化学肥料は使わず、粗放栽培だから人件費もかからない。デファクトのオーガニックなのだ。外国でのオーガニックとは、本当に農薬や化学肥料を使わず、生物連鎖や有機肥料等を用いて栽培する。手間暇かかるので、その分高くなるが、それを支払ってでも不安なく食べられるものが欲しいという購買層にはアピールする。外国ではそれがオーガニックなのだ。それに、結局のところブータンの普通の消費者は安いものを買う。インドから入ってくるものの方が安いのである。そこで見た目がそこらへんのジャガイモと変わりないものを売るなら、どのような購買層に訴求するのか、もうちょっとちゃんと考えた方がいい。

のっけから本の内容とは異なるエピソードから書き始めたが、その後本書を読み始めて、書かれていることが非常に腑に落ちた。本書は小説風に書かれているのでストーリー展開そのものを楽しむことができるが、そこで述べられているメッセージは割とシンプルで、突き詰めれば2つの原則から成る。(本書ではこの2つの他にもう2つの原則について書かれているけれど、それらは端折る。

①スタートアップの目的は顧客を見つけることであって、商品を作ることではない。

②人は製品やサービスを買うのではなく、問題の解決策を買う。

実際のストーリーの中で繰り広げられる会話の中にも、時として「いただき!」と思えるセリフが含まれている。ストーリーの面白さについて具体的に述べるとネタばらしになってしまうのでこの場では書かないが、幾つかのセリフについては備忘録として挙げておく。

スタートアップとは、優れた解決策を発案して、『市場で受け入れてもらえたらいいな』と願うことではない。スタートアップとは、先ずは顧客を理解したうえで、顧客の生活に付加価値をもたらす商品を作るということ。

潜在顧客に自分の商品を買ってもらえるかどうかを予測するとしたら、何を根拠にする? 彼らが競合商品をどのように使っているのかを根拠に予測したら、間違いなく失敗する。推測にすぎないから。自分の仮説が正しいかどうか検証するには、潜在顧客に会って直接話を聞いてみること。そうしなければ正確な予測なんて不可能。

スタートアップについて学ぶ方法は百万通りある。しかし真に学ぶ方法は一つしかない。起業家自身がスタートアップの失敗・成功を経験すること。

55歳にもなったオッサンが言っていたら説得力には欠けるが、好きなことを仕事にしたいという気持ちは、潜在的に僕の中にもある。米国に住んでるわけじゃないから、すごい冒険的な起業を試みるつもりはあまりなくて、ほどほど収入を得られればそれでいいというぐらいだけど。それでも、本書で描かれているような、顧客を知ることの重要性は肝に銘じておく必要があると自覚している。

ところで、某国際機関の協賛で、またぞろブータンにもスタートアップの季節が到来している。僕のFacebookの友人にも、新進気鋭のブータン人若手起業家が何人もいるが、本業ではなくそういう場に駆り出されている。今週末はロベサの農業カレッジを舞台に、スタートアップのアイデアコンテスト『スタートアップ・ウィークエンド』というイベントが開催されていて、そこに行ってる連中も多い。ネットワークの重要性は否定するつもりはない。先行して成功を収めたとされる彼らが、ロールモデルとなって後進の起業家の卵を誘うのもわかる。『スタートアップ・ウィークエンド』は昨年もこの時期何度か開催されていたので、どんなビジネスアイデアがピッチされて、上位入賞したのかは知っているが、その中から起業してうまく行ってるケースはどれくらいあるのだろうか?

諦めも早い彼らが先ず知っておかねばならないことは、「スタートアップの圧倒的大多数は失敗する」ということではないだろうか。政府もやたらと起業を慫慂しているが、最初にこれをしっかり伝えておかないと、「話が違う」ということにもなりかねないのではないか。将来起業したいと思っている人には、そうしたことをしっかり踏まえて、多少の失敗にはめげずにその教訓を踏まえて立ち上がっていって欲しいと願わずにはいられない。

◇◇◇◇

恒例により本書の原書版も下記にてご紹介する。この本は、多少なりともポーカーの勉強にもなった(笑)。やたらとポーカーのシーンが出てくる作品であった。

All In Startup: Launching a New Idea When Everything Is on the Line

All In Startup: Launching a New Idea When Everything Is on the Line

  • 作者: Diana Kander
  • 出版社/メーカー: Wiley
  • 発売日: 2014/06/30
  • メディア: ハードカバー



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