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『数字の国のミステリー』 [読書日記]

数字の国のミステリー (新潮文庫)

数字の国のミステリー (新潮文庫)

  • 作者: マーカス デュ・ソートイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/23
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
素数ゼミが17年に一度しか孵化しない理由、世界一まるいサッカーボールを作る方法、雷とブロッコリーと株式市場に共通するもの、ベッカムのフリーキックが曲がる理由、パーティで仲の悪い二人が二人きりにならないようにする方法…。今なおトップクラスの現役数学者である著者が、数学の現場の豊富なエピソードを交えながら、この不思議で美しいワンダーランドをご案内します!

下院議員選挙の決選投票に向けて、両党選挙活動が活発に行われていた10月初旬、僕は出張でタシガンにいた。その日の仕事が終わると、一緒に来ていたスタッフとタシガンタウンの食堂に繰り出し、ブータン国営テレビ(BBS)が報じる各選挙区両党候補者による討論会の模様を見ながら晩御飯を食べた。その頃は毎日17時から20時までが討論会。ゾンカ語オンリーなので僕にはほとんど理解できなかったが、同行したスタッフは皆一生懸命に候補者の論点に耳を傾けていた。

20時に討論会が終わるとBBSは他のプログラムを放送し始める。BBSは2チャンネルを持っており、BBS1の方はニュース中心なので20時にはゾンカ語の20分ニュースが始まる。BBS2の方はNHKのEテレみたいなもので、その後に始まるのは教育番組であることが多い。本を読むことを慫慂するトーク番組だったり。ふだんあまりBBS2は見ないので、タシガンでじっくり見たのが初めてのことだった。

そこである日、「王立個別指導プロジェクト(Royal Tutorial Project)」のスポンサー番組が始まった。実生活に必要になる算術を、実際の場面に即して視聴者に考えさせる番組で、僕が見た回は、ティンプーの建築物を建てるのに、屋根材の面積はいくら必要になるのか、それは市場で発注する時には屋根材何枚になるのか、そしていくらかかるのか等を算出するというもので、要すれば三角形や台形の面積計算の仕方を教えていたのである。

僕はこの番組を見て、英国が支援している「王立個別指導プロジェクト」というのがどのようなものなのか、少しだけわかったような気がした。実生活に必要な算術の知識を教えつつ、なぜ算数が必要なのかを視聴者に理解してもらおうという取組みで、これに出演している英国人チューター(教師)は、結構ボランティアに近い形で関わっているらしい。この辺のことは、その後別の機会にお目にかかった英国名誉総領事のマイケルさんにもお話を伺った。マイケルさんは四代国王のチューターをされていた方で、ご本人も物理の教師だった。

さて、その「王立個別指導プロジェクト」という言葉を初めて知ったのは、2017年3月、英オックスフォード大学の数学者、マーカス・デュ・ソートイ教授の特別講義を聞いた時だった。その時の模様は、「楽しい数学の時間」という記事でもご紹介しているので、そちらをご参照下さい。

その後、せっかくだからデュ・ソートイ教授の著書を1冊ぐらいは読んでおこうと思い、昨年末に一時帰国した際にいちばん新しい訳本を購入して、こちらに持ってきていた。400頁超の文庫版で、いつか読もうと思いつつ、今日に至った。久々に数学に触れたこともあり、読むなら今だろうと思って手にした。

昨年3月のデュ・ソートイ教授の講義の中で聞いた話がいくつか出てくる。細かい数式が入ってくるところは取りあえず飛ばしても、十分楽しめるエピソードが多い。リアル・マドリー時代のベッカムのフリーキックを、ルーニーがなぜ正確に合わせてゴールに蹴り込めるのかを科学的に説明しているくだりや、1998年フランスW杯、ブラジル対フランス戦で、ブラジルのロベルト・カルロスが決めた芸術的ミドルシュートを、数学的に説明しているくだりなど、特に記憶に残っている。(サッカーのエピソードが多いのは、教授ご自身がサッカーをやられるからだそうだ。)

以前書いた記事との重複になってしまうが、こういうエピソードをふんだんに交えた算数や数学の授業を小学校、中学校、そして高校時代にもっと受けていれば、数学に対する意識も変わっていただろう。教授の講義を聴いて以降、それでチランの国道上で巨大なシダを見たり、トゥムシン・ラ越えの国道でスギの原生林を見たりすると、その見事なフラクタル構造に感銘を受ける。その他にもフラクタル構造が自然界にないかと、車窓から外を見ている自分がいる。

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