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国際障がい者デー記念式典に出てみて [ブータン]

国際障がい者デー式典開催
International Day of Persons with Disabilities observed
Kuensel、2016年12月5日、Thinley Zangmo記者
http://www.kuenselonline.com/international-day-of-persons-with-disabilities-observed/

【ポイント】
12月3日、ペマ王妃ご同席の下、国際障がい者デー記念式典がティンプーで開催された。主催はABS(Ability Bhutan Society)と保健省。王妃に加え、トブゲイ首相以下主要閣僚が同席、様々な障がいを持つブータン人も多数列席した。

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式典は「私たちが望む未来のためのSDGs17目標の達成に向けて」と題し、ABS理事長の冒頭挨拶でも、インクルーシブで様々なサービスへのアクセスが可能な社会の実現の必要性や、障がい者とその家族のスティグマの解消、差別の解消等が強調された。

ABSや日本のNGO佛子園は、他の障がい者団体とも共同で全国7県での障がい者実態調査を実施。それによると、住民の6.3%が何らかの障がいを抱えており、最も多いのは聴覚障がい者で、これに肢体障がい者と知的障がい者が続くことが明らかになったという。

ABS理事長の挨拶に続き、障がい者代表2名が自身の生活の実態について紹介。続いてパロの聾学校ワンセル・インスティテュートがオーストラリアボランティアの協力を得て制作したゾンカ語手話独習用DVDのローンチが行われた。さらに、保健大臣スピーチ、WHO東南アジア地域事務所代表メッセージの代読、最後に、クエンセル記事では言及がないものの、JICAブータン事務所長のスピーチも行われた。

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この日は世界中でこれを祝う式典が開かれていたと聞くが、ブータンの障がい者団体にとっても、この日はとても重要な1日だったようで、この式典をABSが主催しただけではなく、ブータン障がい者協会(DPAB)やダクツォ職業訓練センターも市内で別のイベントを開いていたらしい。下の写真は、同じく12月5日付けクエンセルの最終面に載っていたダクツォ主催の運動会の模様である。それ以外にも、東部タシガン県にある盲学校ムンセリン・インスティテュートは別のイベントを開いたと聞く。タージタシ・ホテルの式典に視覚障がい者が少なかったのは、そのムンセリン・インスティテュートが東部にあるからで、はるばる首都までこの式典のために上がってくるというわけにもいかなかったということがあったに違いない。

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実は僕もこの式典には出ていたので、いろいろ気付いたことがあった。

第1に、はっきりと「SDGs」とメインタイトルに銘打ったイベントがブータンで開かれたのは多分最初ではないかということ。また、これまでにもSDGsを裏のアジェンダとして行われたいイベントはあったかもしれないが、SDGsの17のゴールすべてを対象とするクロスカッティングなテーマが取り上げられたのも、多分ブータンでは初めてだったのではないかと思う。障がい者の社会への包摂(インクルージョン)は、単一の達成目標でもあるが、17ゴール全体を通じた配慮事項でもある。国内障がい者団体がSDGsが持つ包摂性の原則をテコに、障がい者の社会への包摂を本気で進めて行こうとする強い意図が垣間見えた気がした。

第2に、式典でスピーチをされた多くの登壇者が、障がい者を配慮や支援の対象、SDGsにおける達成目標として捉えて話しておられたのに対し、JICAの所長は、障がい者も社会の一員であり、SDGsの達成に貢献できる重要なステークホルダーであるという立場で話をしていた。障がいを持つ人の方が、障がいを持たない人に比べて、教育を通じた人的資本への投資の収益性が2~3倍高いと指摘する研究もあるとのことである。このため、JICAの所長の話は機会の公平性や構造物や公的サービス、情報へのアクセシビリティの保証がすごく強調された内容になっており、この機会の公平性やアクセシビリティの改善に科学技術の果たす役割も大きいとのことであった。「科学技術イノベーションは、SDGs策定過程における焦点の1つであり、ゲームをひっくり返す大きな力を秘めている」というコメントも、他の登壇者のスピーチでは聞かれなかった特徴的なものだった。

第3に、この国における今のアクセシビリティの課題が垣間見える式典だった。例えば、会場となったタージタシ・ホテルはそこら中に段差があるし、ティーブレークの会場となった中庭も、スレートが敷き詰められていて凸凹が多く、車椅子での移動には相当な苦労が強いられる。また、式典も、MCの司会進行からしてすごい早口の英語だったし、他の多くの登壇者が話す英語も、普段の英語と同じスピードで話されていた。主催者は英語とゾンカ語の手話通訳者を配置して、聴覚障がい者の席の近くで通訳は行われていたらしいが、ゾンカ語手話のボキャブラリーは2000語程度しかないから、それ以上の新たな単語が飛び出した場合、手話通訳者が途方に暮れて手が止まってしまうことが頻繁に起こっていたようである。

JICAの所長はそれを見越し、自分のスピーチの中には即時に通訳するのが難しい言葉も含まれているからというので、自身のスピーチの読上げ原稿を事前に手話通訳者に渡し、目を通してもらうよう手配していた。本来なら英語版とゾンカ語版の両バージョンを準備し、いずれのテキストもスクリーンに大写しにするぐらいのことまでできたら良かったのだが、主催者はそこまでやらなくても手話通訳者で足りると主張し、所長の要望は聞いてもらえなかったらしい。

この国の障がい者団体は、外国の障がい者団体との交流がほとんどないため、アクセシビリティ配慮についての知見もほとんど蓄積されていない。各団体が自分のところの活動資金の調達にも汲々としている状況なので、団体間でのネットワークを強めて、グループでの発言力を強めていこうといった動きも最近までなかったと聞く。

一方で、障がい者のインクルージョンを本気で実現させていくなら、障がい者団体によるアドボカシーだけではなく、民間企業や、障がい者団体ではない市民社会組織等にその意識を浸透させ、実戦していってもらう働きかけがもっと必要ではないかと思う。

従って、第4の気付きの点として、この式典は障がい者団体と保健省の主催で開催されていたが、本当に障がい者のインクルージョンを図るなら、教育関係者や経済団体、民間企業、障がい者団体ではない市民社会組織等、この日姿が見られなかった他のステークホルダーの参加も慫慂していく必要もあったのではないかという気がした。

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