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『星間商事株式会社社史編纂室』 [読書日記]

星間商事株式会社社史編纂室

星間商事株式会社社史編纂室

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/07/11
  • メディア: 単行本
内容紹介
川田幸代。29歳。独身。腐女子(自称したことはない)。社史編纂室勤務。彼氏あり(たぶん)。仕事をきっちり定時内にこなし、趣味のサークル活動に邁進する日々を送っていた彼女は、ある日、気づいてしまった。この会社の過去には、なにか大きな秘密がある!……気づいてしまったんだからしょうがない。走り出してしまったオタク魂は止まらない。この秘密、暴かずにはおくものか。社史編纂室の不思議な面々、高校時代からのサークル仲間、そして彼氏との関係など、すべてが絡まり合って、怒濤の物語が進行する。涙と笑いの、著者渾身のエンターテインメント小説。幸代作の小説内小説も、楽しめます!
月が替わっても相変わらず小説中心でご紹介することお許し下さい。裏を返せば、それだけ仕事の方でテンパっているということです。仕事がテンパると、気分転換のためにオフで読む図書が小説中心になってしまうのです。

とはいえ、社史編纂などというテーマを扱った小説を読もうと思った動機の中には、もう少し前向きなものもある。これから順次紹介していくが、僕は最近になって組織アーカイブズに関する本を立て続けに図書館で借りてきて読み始めている。僕は異動で来る前の職場で、まさに我が社が海外で繰り広げてきた事業の、事業別の歴史を整理し、記録に残す仕事に関わっていた。それは我が社の関係者の間で組織の記憶を継承していく仕事だった。それが、今の部署に移ってきて、別の文脈から重要性を帯びてきた。こうした事業の記憶を記録に残す取組みをもっとスケールアップして、英語で残すという取組みが今後求められるかもしれないという気がしてきた。僕も組織アーカイブズは体系的に学んできたわけでもないので、少しぐらい勉強しとこうかと思い始めたのである。

そのとっかかりとして、こういう小説は読んでもいいかなと―――。

三浦しをんさんの作品はこのブログでもごくごくたまに紹介はしている。意外な職種を取り上げて綿密な取材をベースに描いていくその手法は、僕らの知らないその仕組みを勉強させるのには優れている。『舟を編む』は辞書編集の舞台裏を知ることができたし、ただ今映画公開中の『神去なあなあ日常』では後継者不足に悩む林業従事者の仕事ぶりを知ることができる。『風が強く吹いている』では箱根駅伝各出場校の選手とスタッフの移動の仕方を初めて知った。そういう意味では、社史編纂という地味な仕事にスポットを当てて描かれたこの作品も、世の中の意外な仕組みを知る上では格好の入門書と言えるかもしれない。

ただですね~、これを読んで社史編纂室という仕事の仕組み以上に勉強になるのは、むしろ同人誌編集やコミケの仕組みの方だった。なにせ主人公が腐女子で、年2回のコミケに同人誌を出して販売するのがお楽しみという方ですので、9時から5時までの会社での仕事以上に、アフター5や週末の過ごし方の方が、描写のウェートが大きいように思う。加えて、9時~5時でお付き合いのある職場の人々が、揃いも揃って脱力系キャラでして…。

社史編纂室というのがどういうところか、なんとなくわかるのはいいにせよ、やっぱり表向きは窓際族のたまり場だという世間一般のイメージを、さらに増強させるような内容の作品だった。三浦しをん作品のいつものパターンを踏襲しているような印象はあり、登場人物はいずれも魅力的といえば魅力的だが、読者がどのような問題意識に基づいてこの作品を手に取ったのかによっては、心理的抵抗感を抱く人もいるかもしれない。

前の職場で事業の歴史を記録に残すという仕事をやっていて感じたのは、記録に残すことが重要だと誰もが言う割には人員の配置は十分なされておらず、結局会社はそういう目で見ているのかなという疑問だった。組織の記憶をしっかり記録しておくことが重要なのをもう少しうまく表現してくれたら嬉しかったのだが、本書を読んでると逆に社史編纂室というのはお気楽な仕事なのだという印象を持つ人が多いに違いない。それに、存在自体が疑われている部長を筆頭に、5時にはさっさと退社してしまうようなルーズな社員を5人も抱えておける会社というのが、なんだかなぁと思えて仕方がない。星間商事という会社は、他の部門で相当儲かっているのだろう。

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