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『ネットワーク組織』 [仕事の小ネタ]

ネットワーク組織―社会ネットワーク論からの新たな組織像

ネットワーク組織―社会ネットワーク論からの新たな組織像

  • 作者: 若林 直樹
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2009/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
企業の枠を越えて柔軟に結びつき協働する組織の構造と能力とは?そこで働く人のキャリアとは?具体例で学ぶ、ネットワーク組織の原理と実態―。
50の大台を迎えようとする今年、僕が抱えている大きな悩みといったら、仕事と学業の向いているベクトルが、同じ方向を向いているようで全然異なるというところにある。うちの職場は働きながらでも博士号の取得を奨励しているが、その割には仕事の上での容赦がない。仮に職場での仕事の一環として大学院の研究テーマが位置付けられたとしても、他の業務で忙殺されようものなら、研究に充てる時間など捻出できない。先週末厚さ4cmにもなろうという資料を持ち帰って2日がかりで目を通したが、それくらいのことでもやらないと、月曜日からの仕事が全速力で始められないのである。しかも、バックアップ要員がいないから、自分でやらなければ仕事自体がストップしてしまう。

もっと悲しいのは、そこまでやっていても、仕事が追い付いていないことである。僕の今年の仕事上のノルマとして、ボランティア組織の運営に関する論文を1本書かなければならないというのがある。しかも英語で。本来なら今年度のはじめから着手していなければいけなかった課題なのだが、他の仕事で振り回されていてついついおざなりにしていた。でも、これもちゃんとやらないと職場の同僚にも迷惑がかかる。

ただ、それでも苦しいのは、この論文のテーマが、博論で扱おうとしているテーマとまったく無関係であるからだ。仕事として、共同執筆者もいない論文をいきなり英語で書くというのはそれなりの覚悟も必要で、プライベートの時間も相当に使ってそちら系(経営学)の参考文献を読み込まなければいけないのだが、博論で扱うのはむしろ社会開発の主体となる人や地域の話なので、2つの研究の間になかなかシナジー効果が期待できない。

それでもおまんまを食っていくなら、人事評価に直結する論文を書かなければならないというのは間違いない。長期的には博論も人事評価には繋がると思うが、今の自分の環境を考えると、2つを両立できるかどうか、自信はまったくない。それでも前に進むしかないから、取りあえずは仕事で役立つ前者の方の参考文献をとにかく読み進めることにしている。

その一環として読んだのが、若林直樹著『ネットワーク組織』である。読んでいて少しだけピピっと来た記述の数々を、ただ単に以下に羅列してみた。役に立てばいいんだけど(読んでいて役に立ちそうだとは思ったのだけれど)、今はまだ雲をつかむような状態だ―――。

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本書では、ネットワーク組織を、「複数の個人、集団、組織が、特定の共通目的を果たすために、社会ネットワークを媒介にしながら、組織の内部もしくは外部にある境界を越えて水平的かつ柔軟に結合しており、分権的・自律的に意思決定できる組織形態」(p.30)として定義する。

ネットワーク組織には5つの特徴がある(p.36)。
 ①フラットで柔軟な結合、
 ②組織の壁を越えた協働、
 ③ネットワークを通じた資源や人材、情報の動員、
 ④外部環境が判断基準、
 ⑤自己組織的で柔軟な変化

ネットワークとは、顧客からのニーズや環境からの圧力に柔軟に対応するために、組織のフラット化、ネットワーク化を図ったり、外部の組織との緊密な協力関係を築いたりしながら、組織の内外において、ヨコの連携を活かしつつ、人材、資源、情報、ノウハウを最適に結合するような組織活動の形態である。ネットワーク組織は、別々の部門にいる人同士が組織内部の縦割りを越えたり、異なる組織同士が組織の間の壁を越えたりしつつ、ある目的達成のために、水平的で柔軟な結合関係で動いているものであり、そのために高い環境対応能力を持っているとされる。(p.4)

ネットワーク組織には、メリットとデメリットがある。
メリット(pp.60-61)
 ①学習効果、
 ②社会での正統性の調達、
 ③不確実性の低減
 ④取引費用削減効果、
 ⑤経済活動での主体性

デメリット(p.62)
 ①活動の不安定性
 ②学習効果の散逸
 ③組織の不安定性
 ④従属や吸収の危険性

今日のネットワーク組織の展開は、それを可能とした情報通信基盤の発達と、それをもとにした経営技術の進化に支えられている。背景として、情報化によるコミュニケーション・コストの劇的な低下と、組織活動のイノベーションを行う産業の発達がある。そして、そうした技術を受けた組織経営のコンサルティング手法やソフトな技術の発達もある。(pp.11-12)

組織の流動化やネットワーク組織の広がりは、我々の職業生活も変えつつある。この変化は、生き方の多様化を伴っている。今日では、特定の組織で長期に働く人々が減り、複数の組織でキャリアを重ねながら働く人が増えつつある。つまり組織境界を越えたキャリア(バウンダリーレス・キャリア)の拡大である。これには大きく3つの要因がある。その1つは、プロジェクト的な性格の組織活動が増えてきたために、さまざまな時限的なプロジェクト組織や提携事業などに、出向や派遣、契約社員という形でかかわる場合が増えてきたことである。これは、雇用の流動性を高め、不安定さを増している。(pp.13-14)

労働者の中には、組織に庇護されることなく、自分のキャリアを自分で考えて構築する働き方をする人たちが見られるようになった。こうしたフリーエージェント同士は、会社を越えた短期的なネットワークを形成、活用しながら、自らでキャリア開発を行う。仕事や現場でのヨコのネットワークに対して信頼感と忠誠心を持つネットワーク型の労働者も見られる。企業と従業員の雇用契約に対する意識も大きく変化し、企業内での雇用保障よりも市場での能力保障を求める「エンプロイアビリティ」重視の傾向が見られる。(pp.109-111)

企業の側からも、企業全体としてよく発達した社会ネットワークを持っていると、能力のある人材のプールに容易にアクセスできる。また、昇進・評価においても、直接の職場でのネットワークだけではなく、他部門の上司や有能な同僚とのネットワークがある場合には、それは問題解決に効果があり業績向上を促進するので、昇進や業績評価向上によい影響がある。また職場において、ヨコのインフォーマルな社会ネットワークが広がっていると、従業員同士の連帯感が高まり、離職率が減る。逆に、小さな職場集団内部での深く閉鎖的なネットワークだけしかない場合には、しがらみが中心になるので、仕事の上でもキャリア開発の上でもあまり効果的でないと考えられる。そのために、労働者の持つどのような社会ネットワークがキャリア開発に効果的であるかの研究がなされている。(pp.129-130)

ネットワーク組織での労働者の心理的契約は、その組織の柔軟性、フラットさ、イノベーション志向にあったキャリアに適したものとなる。つまり、キャリアがバウンダリーレスである方がよいと考え、複数の会社を転職しながら、能力開発をしようと考える。外部で通用する専門技能を重視する。そのために、エンプロイアビリティ保証をする会社を高く評価し、キャリアアップにつながるようなはたく機会や能力開発の提供を重視する。それに関連して、より短期的な期間で明確な成果を上げることを重視する傾向も見られる。他方で、その会社でしか通用しない特殊技能の開発には一般に関心を示さない。以上のようなキャリアを実現するために、会社とは別に個人でもキャリアに関わる人脈作りを尊ぶ傾向を持つ。(p.133)

1つの会社に縛られないで、自律的にキャリアを開発する志向を持つことは、同時に、自分の労働生活における身体やメンタルのリスクも自己責任として引き受けることにもなる。そのために、会社は、個人のリスクに対して干渉しなくなる。(p.138)

組織がどのような特定の成果を目指すか、すなわち、生産性の高さを目指すのか、革新性の高さを目指すのか、もしくは安全性の高さを目指すのかに応じて、効果のあるネットワーク構造の特性は異なってくる。例えば、まったく新規なものを開発する場合には、弱いつながりだが幅広いネットワークを持った方が、広く多様なアイデアや情報を集めるのには有利である。それに対して、きめ細かい改善活動を行う上で葉、価値観や認識枠組みを強く共有するチームを形作るために、濃密に知識や情報を共有できる凝集的なネットワークが有効である。(p.20)

ネットワーク組織は、継続的に組織学習を展開しやすい組織である。持続的に競争優位を保つためには、組織学習を継続的に展開することが重要である。先ず、業務や事業の改善を連続的に展開し、新たなノウハウを創り出し、それを組織のメンバーが積極的に学習・共有する。第二に、まったく異質で新規の情報を集めたり、そうした人材や集団、組織と連携し、シナジーを起こしたり、まったく新しい業務活動や製品、ノウハウを創りだしたりするラジカル・イノベーションがある。(p.183)

多くの人とのつながりを持っていたり、外部とのつながりがあったりする人たちは、新しく多様な情報に触れる機会が多いので、組織学習においても高いパフォーマンスを示す傾向にある。業績の高い人は、多くの人とネットワークがある立場にいることや、職場・組織の外部とのつながりが多いことが特徴的である。

組織やネットワーク組織の内部において、協働している人たちの間にネットワークが発達すると、社会統合が進み、彼らの組織への帰属意識や活動へのコミットメントが高まる傾向が見られる。本来、従業員間のコミュニケーション・ネットワークを開発すると、相互に情報の交換がなされるようになるだけではなく、考え方や価値観、行動の仕方についての交流が進み、組織としてのまとまりや連帯感も高まると考えられている。幾つかの研究でも組織内部でのコミュニケーション・ネットワークが発達すると、従業員同士の親近感が高まったり、共通の社会化が進むために、離職率が抑えられる傾向が確認されている。例えばマクファーソンらは、ボランティア組織へのボランティアの参加に対するネットワークの影響について研究し、ボランティアが組織内で他メンバーとの間に有するネットワークが多かったり接触頻度が高かったりすると参加継続に好影響を与えることを見出している。(pp.224-225)

ネットワークにおいて紐帯の密度が高くなると、平均的には人々や企業の間で張られている紐帯の数が増えるので、情報や資源へのアクセスの機会が増え、その流通を促進する効果が認められる。(p.256)

ネットワークにおいて中心的な行為者は、情報や資源も得やすく、他者の相互作用をも統制しやすいと考える。それゆえ彼らは権力を持ち、競争優位にあり、より高い確率で、イノベーションに成功し、高業績を獲得するという効果がある。(p.258)

バートは、「構造的空隙」の観点から、分断されている程度の高いグループの間では、数少ないブリッジ的な紐帯を持つブローカー(仲介者)が、こうした経済やビジネスにかかわる情報や資源の交換、取引関係において、それらを獲得しやすく競争的に有利な位置を占めると提唱した(p.263)。この観点からみると、管理職がブリッジを持ち構造的拘束度が低い場合には、さまざまな異質な集団や個人との人脈を持つことで、他人が入手しにくい独自の情報や知識を手に入れる。従って、他の人と違った独自の斬新な観点で判断ができ、組織を動かしていけるので、彼らの業績も高くなる。(p.264)

学習する組織へと企業を変えていくには、組織の内部や外部のネットワークをうまく構築することが出発点になる。ネットワークを通じて、組織の持つ知識やノウハウ、考え方、行動パターンをうまく更新したり、革新したりできるようにするのである。ウェンガーらは、従来の部門や部署にこだわらずにネットワーク作りを行う組織学習活性化の仕組みを「実践コミュニティ」(community of practice)としてモデル化している。実践コミュニティは、共通の専門的なスキル、共通の事業への貢献や熱意によって結びついて生まれた非公式の人々のグループである。このようなネットワークをうまく作り出せると、組織としての知識の共有、学習、更新が促進されやすくなり、組織における継続的な学習を活性化できる。企業の持つ知識の共有、学習、更新の場となる「実践コミュニティ」作りを促進する社内のネットワークをうまく構築することは、競争力を構築するためには重要な課題である。(pp.296-297)

個人のキャリア開発には、企業や市場からのニーズを知るためにも先端的な能力開発についての情報を得られる広いネットワークを持ち、職場での仕事や悩みを語り合える深いネットワークを持った方がよい。(p.310)

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