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『エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアを知るための45章』 [仕事の小ネタ]

エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアを知るための45章 エリア・スタディーズ

エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアを知るための45章 エリア・スタディーズ

  • 作者: 田中 高
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2004/08/25
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
日本ではなじみが薄いが、奥深い魅力を秘めた3国。世界でも指折りの葉巻生産国ニカラグア、観光地としての魅力に溢れるホンジュラスのバイーア諸島など、知られざる中米の世界へ読者を誘う一冊。
3月に、ニカラグアとエルサルバドルに行くことになった。これまでまったく関わったこともないような中米の国々に行くのに、何か予習しておくことはできないかと思い、明石書店から出ているこの「エリア・スタディーズ」シリーズの1冊を図書館で借りてみることにした。仕事ということでは事前に目を通しておくべき資料があるが、そこで出てくる地名や人名を理解するためにも、こういう参考書が手元になると効率的だ。

このシリーズは、明石書店にとっては売れ筋なのだと聞いたことがある。なぜかといえば、競合する他書がないというだけでなく、毎年ある程度確実に購入する人がいるからだ。例えば、エルサルバドルの場合、ラテンアメリカで最初に青年海外協力隊(JOCV)の派遣取極めを結んだ国で、多い時には60~70人の協力隊員が滞在していたこともあるという(p.54)。今は20~30人ということだが、そうすると1年間に平均すると10~15人はエルサルバドルに新たに隊員として赴任することになる。1国だけだったらその程度ということだが、これが陸続きの近隣3カ国で合わさると、協力隊員だけでも年間50人程度は新たに赴任している。マヤの遺跡を訪ねて近隣の国に旅行する人もいるだろう。そうした人々が全員本書を購入したら、10年で500部にはなる。この手の本は2000部売れたらベストセラーなので、確実に500部を買ってくれる購買層があれば、小国であっても出版の採算はとれそうだ。

長期で滞在するなら、その国の政治や歴史を事前にある程度は勉強しておくことが必要だ。僕らの世代は1980年代に米国レーガン政権を揺るがせたイラン・コントラ事件と議会で宣誓しているオリバー・ノース中佐の姿をよく覚えている。当時ニカラグアやエルサルバドルが内戦の舞台となっていたことも。ただ、それが90年代になったらいつの間にか終息していた。なぜ内戦は起こり、それがどのように終息したのか、もし僕らがこうした国々を訪れるとしたら、こういう予備知識をちゃんと得ておく必要あると思う。そういうニーズには確実に答えられる1冊だ。

幾つか印象に残った記述を箇条書きで列挙しておく―――。

【エルサルバドル】
◆コーヒー生産とその輸出に大きく左右される。1940~50年代には総輸出額の80%を占め、80年代でも50%以上あった。コーヒー生産は少数の大土地所有者に集中した。近年は、コーヒーの国際価格の下落により、総輸出額に占めるコーヒーの割合は、1桁にまで落ち込んでいる。

◆第二次大戦後の日本企業の最初の工場進出先はエルサルバドルだった。1955年のことで、呉羽紡績が合弁で設立したユサ社である。今では綿花生産はほぼ壊滅してしまったが、エルサルバドルやニカラグアは全綿花輸出の100%、80%を対日輸出に充てていたことがある。

◆東部地域はかなり長期にわたって物理的にも精神的にも、中央政府とは距離を置いた存在で、経済面でも、貧困層の割合は全国平均より高い。しかし、これといった産業がない。そこで、東部のラウニオン港を大規模に整備しなおし、これをてこに東部地域の開発を進めようという構想になる。日本が円借款を通じて進めようとしている経済協力である。

◆かつてのマヤ人は、自生する藍を利用して染料を抽出し、木綿を紡いだ糸をブルーに染めていた。藍染めである。エルサルバドルは1880年代に輸出産業がコーヒーに転換し、国際的にも化学染料が普及したため、20世紀に入ると衰退の一途をたどり、1974年に最後の藍工房も閉鎖されてしまった。18年後の1992年、コロンブスのアメリカ到達500年祭に開催されたパナマ民俗学会議で藍産業復活の要請決議があり、93年にエルサルバドルのサンタアナ工房で藍染めが復活した。これには日本の技術協力もひと役買っているそうだ。

◆エルサルバドルの最大の外貨獲得源は出稼ぎ労働者がもたらす海外送金である。こうしたエルサルバドル人が出稼ぎ先から一時帰国すると、お土産に買って出稼ぎ先に持ち帰るのが「ポヨカンペーロ」というチェーン店のフライドチキンである。(これ、以前米国駐在していた頃、エルサルバドルで働いていた知人からお土産でいただいたことがあるが、結構おいしかったのをよく覚えている。)

◆世界中で読まれている『星の王子さま』の故郷はエルサルバドルだという。作者のサン=テグジュペリの妻コンスエロの故郷がエルサルバドルで、表紙のイラストに描かれている円錐型の山は、コンスエロの故郷にある活火山イサルコだという。

【ニカラグア】
◆ニカラグアは中米の最貧国。1990年代に中米経済統合が進み、域内での貿易の自由化が進められたが、ニカラグアが近隣諸国に輸出できそうな財がほとんどない。これは外資にとっても投資対象先としての魅力に欠けるということでもある。直接投資の投資先の選定で、ニカラグアは近隣諸国に敗れることが多い。グローバル化の負の側面である。ニカラグアに可能性があるとしたら、農牧畜・水産分野で、農水産加工品の加工度を高めて輸出に繋げるのが1つの方向性である。

なお、エルサルバドルに関しては、明石書店の「エリア・スタディーズ」シリーズで1国だけを取り上げた別の本が最近出ている。そちらの方もこれから読んで、いずれまたご紹介してみたい。


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