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『官僚の責任』 [読書日記]


普天間基地移設問題を巡って、防衛省沖縄施設局長がオフレコの場において不適切な発言をしたという問題で、これを地元紙が報じてから24時間も経たないうちに、この局長は更迭された。正確なところどのように言ったのかはわかっていないが、誤解を招きかねない表現であったのは確からしく、更迭は致し方ないところだろう。お酒の入ったオフレコの場だったからあれが本音だと新聞各紙は報じるが、お酒の勢いで変なたとえ話を考えてしまうことを以て「本音」と言うのかどうかは僕にはよくわからないが、たとえ話自体は言った本人の潜在意識や経験の中からしか生まれて来ないのは間違いないので、こういう場で「男女関係」をたとえ話に持ち出したところで、この人の過去を勘繰ってしまいたくなる。いずれにしてもお里が知れる発言であったと思う。

国の重要施策を扱う役所の然るべきポストにある高級官僚がこういう口のすべらせ方をしたことで、国民の官僚不信、政府に対する不信、政治に対する不信はさらに高まったと思う。本日紹介する本を読了したその日の出来事でもあり、「やっぱりなぁ」と思わざるを得ないところはあった。

官僚の責任 (PHP新書)

官僚の責任 (PHP新書)

  • 作者: 古賀 茂明
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2011/07/16
  • メディア: 新書

内容(「BOOK」データベースより)
「霞が関は人材の墓場」―著者はそう切り捨てる。最高学府の卒業生、志を抱いて入省したはずの優秀な人間たちが集う日本最高の頭脳集団。しかし彼らの行動規範は、「国のため」ではなく「省のため」。利権拡大と身分保障にうつつを抜かし、天下りもサボタージュも恥と思わない…。いったいなぜ官僚たちは堕落の道をたどるのか?逼迫する日本の財政状況。政策提言能力を失った彼らを放置すると、この国は終わる。政官界から恐れられ、ついに辞職を迫られた経産省の改革派官僚が、閉ざされた伏魔殿の生態を暴く。

ということで、そうした伏魔殿・霞ヶ関(防衛省は市ヶ谷だが)の役人の行状を、霞ヶ関で干されてクビになってしまった元高級官僚の経験から述べられたのが本書ということになる。『官僚の責任』というテーマにするほど官僚だけの責任を追及しているわけではない。官僚に責任ある行動を取らせられなかった政治家の問題にも言及しており、特に菅直人民主党政権への恨みつらみが述べられている。


解任でも辞任でもどちらでもいいが、組織を追われた人間が食っていくための常套手段は、元いた組織を批判する本を書くことである。元いた組織のここがダメだ、あそこがダメだというだけではなく、それが官僚組織なら、それを使いこなせない政治の問題点も併せて指摘する。たいていの場合は、自分の信じる政策が採用されないとか実現されなかった恨みつらみを込めているところもあり、自分がいかに正しいことをやろうとして挫折したのかが書かれている。そして、往々にして、エリート意識が鼻につく、自分の周りはバカばっかりだったというような書きぶりになる。一般化された官僚批判も展開されるため、それじゃああなたはそれを変えるために何をやったのかと僕ら読者が思うと、「自分は別の部署にいたので関わることができなかったのだ」という逃げ口上がその後で書かれていたりするのである。(実際は、自分のことを棚に上げて、批判だけしている本の方が多い気がする。)

そういうところで本書に嫌悪感を持たれる読者は多いと思うのだが、自己防衛の手段だと思えば理解できなくもないし、その点についてはいつものことだからと割り切って読み進めた。著者が経産省にいる間に何をやっていたのかについて関心があったのだが、一応キャリア官僚としての出世コースに乗っていた頃に著者がやったこと、実現できなかったことについては、「これが理解できない奴がバカだ」という著者の本音がプンプン漂ってきて、読んでいて気持ちがいいものではない。

ただ1つ僕が「おや?」と思ったのは、著者が大臣官房付の閑職に干されていた時期にやった2週間にわたる全国中小企業調査のエピソードだった。ここで著者は、それまで抱いていた中小企業経営者のイメージとは異なる現場の経営者の姿や考え方に直に触れ、自分の思い込みが間違っていたことを率直に認めている。干されないと現場の声にゆっくり耳を傾ける機会もないというところには悲しさもあるが。

本書に価値を見出せるとしたら、そういう、現場のリアリティに裏打ちされた意見が述べられている箇所が少しだけあることだと思う。閑職に置いてもらえればこれだけの長期間の現場歩きもできるのかと思うと、今の自分の仕事の仕方にももどかしさを感じざるを得ない。


30年ほど前、「ベンチがアホやから野球できへん」と言って辞めた某在阪球団の投手がいて、あの時も暴露本がベストセラーになったが、読売巨人軍を追われた清武元代表も、ナベツネ批判をするための本でも書かれるのだろうか。自己防衛(自己正当化)の手段としては理解もできるし、相当売れるだろうけど…。
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