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『無縁社会』 [読書日記]

無縁社会

無縁社会

  • 作者: NHK「無縁社会プロジェクト」取材班
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/11/12
  • メディア: 単行本
出版社/著者からの内容紹介
2010年1月に放送されて大反響を呼び、菊池寛賞を受賞したNHKスペシャルの書籍化です。身元不明として官報に「行旅死亡人」と告知された男の意外な人生、家族に引き取り拒否された遺体の行方、孤独死の現場を整理する「特殊清掃業者」など、急増する無縁死の周辺で起きている衝撃の事実を丹念に取材。家族や地域の絆が崩壊しつつある現代社会へ警鐘を鳴らします。
この本の基になったNHKスペシャルは放送当時相当に話題になったので、番組を見た人は多いだろう。僕は今からちょうど1年前に一時帰国していた際に再放送を見た。ついでに、『追跡!A to Z』の続編も見た。この2つの番組をドッキングさせて取材ノートをまとめたのがこの本だと考えたらいい。昨秋発刊された際にも話題になった本だが、内容を知っているだけに買わずに後回しにしていたら、半年近く経ってコミセン図書室にようやく入庫したのでさっそく借りた。考えさせられる本である。提起されている問題は、1年以上経過しても全く色あせない。多分もっと深刻化しているのではないかと思う。

妻や子供がいる僕ですら、何か1つ間違うと同じような状況に陥るのではないかと不安になる。「他人事ではない」という感想が放送中からツイッター上で飛び交ったと聞いたが、それは非常によくわかる気がする。2週間前に急にめまいで上半身を支えられなくなったことがあったが、治らなかったらどうなってしまうんだろうかと本気で考えた。

本書を読みながら、こういう、無縁死された方の足跡を辿るような取材では、個人情報保護が相当な妨げになるのだなというのを実感させられた。先週、僕は某国立大学の図書館に行って、この大学の卒業生について調べようとした。明治末期や大正時代に卒業した人のことで、既にお亡くなりになって久しいような方々が同窓会報に寄稿されているのを読ませてもらいたかったのだが、大学沿革資料の部外者の閲覧は個人情報保護の観点から認められていないと司書の方ににべもなく断られた。明治や大正期の卒業生に個人情報保護が適用されるという理屈には苦笑せざるを得なかった。大学事務局に依頼すればと言われたが、そんなことやってる暇ないよ…。

ただ、東日本大震災や原発の放射能漏れなどの事件事故が起き、日本が国をあげて復興に取り組まなければならない今、果たして杓子定規の個人情報保護の適用が適切なのかどうかは再検討の余地があるような気がする。被災地の人々のことを考え、隣り近所の人々のことも考えるマインドシフトが求められているように思うのである。
 たくさんの人たちの永い人生をたどる旅を続けてきた私たちは、今、”つながり”の意味をとらえ直している。
 社会の一員として必死で生きてきた人たちは必ず大切な居場所を持っていた。それは、ひとりひとりの生きた証であり、その人たちの”心の居場所”でもあった。
 そして今、思う。
 あなたの周囲に、居場所を失って困っている人がいたら、手を差しのべてください。
 そして、自分自身にとって大切な”居場所”も築いていってほしい、と―――。
 無縁社会という時代を生き抜くことは容易ではない。単身で暮らす人たちを支える社会保障の仕組み作り、ネットワーク作りといった課題も山積している。
 しかしh、制度や仕組みだけで無縁社会と立ち向かうことはできない。ひとりひとりが、”つながり”を作ろうとするささやかな勇気の積み重ねこそが必要なのかもしれない。
「誰にも迷惑をかけたくない」とひとりで生きる人たち―――。
「迷惑なんかじゃない。頼って、頼られて、それでいいじゃないか」
”無縁死”をなくすために、私たちは、そのことを”つながり”が薄れてしまった今の社会に伝えていかなくてはならない(p.265)
まったくその通りであります。こんな時だからこそ、「ひとさまに迷惑をかけたくない」じゃなくて、「頼ってしまってもいいじゃない」と考えた方がいいし、僕らもそれに応えたい。相手から迷惑と思われるかもしれないが、お節介を焼くぐらいのつもりでいてもいいかもしれない。

本書を読んだ後、僕が今いちばんやりたいと思っていることは、ここ2ヵ月ほどの取材の中でお世話になった方々に便りをしたためることである。定年で引退して、年々数が減ってくる年賀状が、今年は1枚も来ないなんて描写は、本当に胸が痛くなった。


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