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『東南アジアにおけるイスラム過激派事情』 [読書日記]

東南アジアにおけるイスラム過激派事情 (近代文芸社新書)

東南アジアにおけるイスラム過激派事情 (近代文芸社新書)

  • 作者: 橋 広治
  • 出版社/メーカー: 近代文芸社
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 新書
内容(「MARC」データベースより)
バリやジャカルタの爆弾事件。我々にとって身近な東南アジアで起きたイスラム過激派によるテロ事件の原因は何か。共存共栄の可能性はないのか。東南アジアのイスラム教徒の現状と過激派の実態を、現役外交官が経験を交え考察。
最近、インドネタを続けて来ていたが、仕事上再び東南アジアのイスラムについて考えなければいけないイベントがあり、その準備としてお手頃な本ということで本書を借りて読んでみた。著者は外務省に入省してずっと東南アジアの在外公館での勤務をされてきた方である。

本書を読んで良かったと思ったのは、マレーシアのイスラム政党やタイ南部のイスラム系住民についても言及されていることである。これまで東南アジアのイスラムというと、自ずとインドネシアのイスラム教徒を指すことが多く、よくてフィリピン・ミンダナオ島のイスラム系住民のことやミンダナオ独立運動について言及されているという程度だった。マレーシアは東南アジアで唯一イスラム教を国教と位置付けている国であり、タイ南部のイスラム系住民もタクシン首相以後の政権との関わりの中で先鋭化の途上にあるように思える。本書が出版されたのは2004年のこととはいえ、今までマレーシアやタイのイスラムを扱った文献をあまり読んだことがなかったので、本書の記述には新鮮さも感じた。

但し、全体的に本書は章の構成でダブりと思われる箇所が目立つ。例えば、インドネシアのイスラムに関する概説が3章にもわたり、所々で登場する。まとめてくれればいいのにと思ってしまう。また、どこかの大学で行なった著者の講義ノートのような印象で、所々記述の仕方が完結した文になっておらず、単に箇条書きだけというところもあるのが非常に気になった。読む分には読みやすくていいのだが、あとで引用がしづらいと感じた。

逆に、かなり新鮮な記述だと思ったのは、第1にイスラムの東南アジア地域への伝来に関するものである。著者はこうしたイスラムの伝来を現在の国家別で捉えるのは困難であり、むしろ地域として捉えるべきだと主張する(p.52)。マレー半島及びフィリピン、インドネシアを中心にイスラムは伝来したという。言われてみれば、インドネシアのアチェからマレー半島(タイ南部も含む)、フィリピン・ミンダナオ島を結んだ地域がイスラムの中心地域と見られる。それは1つの地域である。当たり前のことなのだが、僕にとっては発想の転換を求められる新鮮な記述だった。また、イスラムの浸透が15世紀頃から始まり、既存の仏教やヒンドゥー教文化に覆い被さる形で平和的・融和的に進行していったこと、そのため東南アジアでは多元性を尊重する穏健的イスラムが大勢を占めているというのも、改めて学ばされたところだ(p.18)。

第2には、世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアが、地域外のイスラム教徒の動向に影響をかなり受けているという記述である(p.152)。この部分を読みながら、それではインドネシアのムスリムに近い価値観を周辺国のムスリムも持っているのだろうかという疑問が湧いた。各国のムスリムは、エジプトやパキスタンに留学してそこでイスラムを学び、それを母国に持ち帰る。加えて近年のインターネットの普及により、さらに中東のイスラムの教典解釈に東南アジアからでも触れる機会がさらに増えているという状況にある中、その伝播の経路は各国に直接中東から入って来る方が、インドネシア経由で各国に入って来る経路よりも当たり前なのかなとは思う。ただ、世界最大の実質イスラム教国の動向に対して、周辺国のイスラムの動向がどうシンクロしているのかというのは本書を読んだだけではよくわからなかった。

第3には、テロの真の原因として、マレーシアのマハティール元首相が、パレスチナの問題解決なくしてテロは無くならないとし、テロの原因はパレスチナの国境問題であると述べている点である。「イスラムは他宗教から迫害された場合には、闘います。非常に連帯感の強い宗教ですから直接迫害された人々以外にも多くのイスラム教徒がこの闘いに参加するわけです。」(p.160)

パレスチナ問題がすぐに決着するとは考えにくいことから、東南アジアでのイスラム教過激派組織によるテロ活動はなかなか沈静化していきにくいのではないかと思う。語り口はソフトなのだが、書かれていることは日本人に警鐘を鳴らすもので、日本と日本人を対象としたテロも今後起きる可能性はあると述べている。
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コメント 1

suzuran

マレーシアは王族に問題がありそうな気がします。
by suzuran (2010-12-17 12:28) 

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