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『大往生の島』 [宮本常一]

大往生の島 (文春文庫)

大往生の島 (文春文庫)

  • 作者: 佐野 眞一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
瀬戸内海に浮かぶ過疎の島、周防大島。民俗学者・宮本常一の足跡を訪ねる旅の途上で、著者は明るく逞しく生きるこの島の老人たちに出会った。温暖な気候、質素な食生活、敬虔な信仰心、そして支えあう人々。つましく素朴な島の暮らしのなかには、きたるべき高齢化社会を照らす一条の光明が見える。
インド旅行に出発する前、知人に頼まれて書店で文庫本を見つくろっていた時、たまたま目にしたのが本書である。宮本常一について知るきっかけとなったのは、ノンフィクション作家である佐野眞一の一連の宮本読本だったのだが、ただでは起きない佐野氏は、宮本の足跡を辿って何度も訪れた周防大島が、いまや日本でも指折りの超高齢化地域となっている事実を知り、にも関わらず元気なお年寄りばかりであることも知る。80歳にも90歳にもなっていまだに現役で働いておられる多くのお年寄りの姿に、島のお年寄りが何故健康に長生きできるのか、超高齢化地域なのに老人医療費が山口県平均を大きく下回っている理由は何なのか、そのあたりを探ろうとして書かれたのが本レポートだ。

実は周防大島の高齢者福祉の研究は、本書にも登場する当時山口県立大学にいらした小川全夫先生がずっと関わっておられたテーマである。著者は小川先生にもインタビューしており、本書をまとめる際の方向性に関する示唆は小川先生から得られたのではないかと思われるところが随所に見られる。馴れ馴れしくも「小川先生」などと書いているのは、僕も先生を存じ上げているからだ。但し、僕が小川先生と仕事でご一緒したのはまだ4年前のことに過ぎない。文庫化は2006年だが、本書は元々1997年に出版されている。周防大島が属する山口県の東和町は、当時は高齢化率日本一だった。この町の高齢者福祉は、当時から既に行政が主体というよりは、社会福祉協議会を中心とした民間ボランティア組織の献身的な活動が中心的役割を占めていた。小川先生は常々「地域資源」という言葉を使われていたが、住民こそがまさに地域の資源という発想で周防大島の高齢者ケアは行なわれていたといえる。しかも、このケアの提供者には、元気なお年寄り自身も含まれる。

取材対象となっている町のお年寄りは皆魅力的な方々ばかりであるように思える。元気で、そして笑顔が絶えない。少し前に読んでいた徳島県上勝町のお年寄りとよく似ているような気がする。地域の中で今も果たすべき役割があり、そして必要とされているという意識があれば、「忙しくて病気なんかしておれん」という発想も確かに生まれてくるだろう。

但し、山村である上勝町と周防大島とは背景が大きく異なる点もある。周防大島では、明治年間のハワイ移民などにより、出稼ぎに出る習慣が古くから常態化していたという。人口を養うだけの田畑がなかったため、島民の82%が島外で働いた経験を持ち、長男の40%も外に出たことがあるのだという。島に残された親たちは、出稼ぎに出た息子からの仕送りはあまりあてにせず、自分の生活は自分で守ろうと、猫の額ほどの土地を耕し、海で漁をして暮らした。それが老人の自立心を生み、同時に島に残った者たちの間に相互扶助の精神を育てたのだという。「日本の社会はよくタテ社会といわれるが、こうした歴史的経験をふまえたこの島の住民には、ほとんど貧富の差がなく、島全体がいうなればヨコ社会で構成されてきた」(p.84)。小川先生はこれを「修正拡大家族」と呼んでいる。独立した核家族世帯同士がひとつながりに連合し、制度的な援助と同様の拡大家族的援助を維持しているような形態だという。ここでは、家族が遠く離れて暮らしていても、家族同様の機能が信じられないほどに働いている(p.86)。

ただ、初版刊行から13年が既に経過している今、本書で登場する多くの島民の方々は鬼籍に入られていることだろう。そうした状況の中で、「修正拡大家族」がどれくらい今も機能しているのかについては甚だ疑問ではある。以前上勝町の「いろどり」について書かれた本を紹介した際にも指摘したが、この手の取組みは継続的に次世代の人材が参入してこない限りは年を経る毎に従事者の平均年齢が上昇していくので、いずれ持続不可能なポイントに到達する。次世代の人材確保は非常に大きな問題だといえるだろう。その点について、周防大島の現状はどうなっているのだろうか。刊行された本書初版を読んで、島に移り住んでみようかと考えて実行した人が多ければ、島は一息つけるのだろうが…。

因みに、初版刊行時の高齢化率日本一は東和町だったかもしれないが、2008年の高齢化率日本一は群馬県南牧村の57.0%である。村民の6割近くが65歳以上の高齢者という地域って、イメージできるだろうか。東和町が目立たなくなったということは、言うなれば周防大島のような高齢化が進んだ地域がそこら中に増えてきたということなのだろうが、周防大島でも持続性確保に不安がある状況下で、修正拡大家族が最初から機能していない地域ではなおのこと地域の持続性の確保が難しいような気がする。悲観的なことばかり書くのは本意ではないけれど…。
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