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カンプールの職業訓練センター [インド]

今月上旬、超短期間ながらインドに個人旅行に行ってきたのは既報の通りだ。主目的はウッタルプラデシュ(UP)州カンプールで開かれた知人の結婚式に出るためで、いずれその時の写真も公開したいと思うが、本日はカンプール訪問のついでに訪れた現地NGOの活動の様子をご紹介したいと思う。

カンプール(ウッタルプラデシュ州)
ガンジス川の舟運と五幹線鉄道により農畜産物、工業製品の取引が盛ん。首都デリーとは鉄道で非常に良好に連絡されている。インドの五大財閥のひとつに数えられるスィンガーニヤー家(J.K.産業)の本拠であり、綿工業を主体に羊毛、ジュートの繊維工業やウッタル・プラデーシュ州に多いサトウキビによる精糖、皮革工業などがあり、近年は化学製品、機械工業も興っている。
(ウィキペディアより)
補足しておくと総人口は約410万人(2001年)、「インドで最も汚い都市」として悪名高い。皮革工場から排出される工場廃液で土壌汚染がひどく、六価クロムによる健康被害が問題になっている。

―――などと書き連ねると、とんでもなくひどい町なのではないかと思われるかもしれない。実際、ラクナウから国道25号線でカンプール入りした僕達が、ガンジス川の架橋を渡って最初に遭遇するのがJ.K.グループの化学工場群と土埃を巻き上げながら道路を走るトラックの軍団であった。しかも主要幹線道路を1本側道に入ると、途端に未舗装のでこぼこ道になる。街全体を見たわけではないので判断を下すのは拙速かもしれないが、大都市と言う割にはインフラ整備は十分ではないという印象を受けた。

そんなカンプールをUP州の事業拠点の1つとしている現地NGOの名はデータメーション(Datamation Foundation Charitable Trust)。便宜上DFCTと呼ぶことにするが、僕の6年越しの知人であるCS氏が創設したNGOである。今回のインド旅行でも東デリーの自宅を訪ねてCS氏とは旧交を温めたが、カンプールの結婚式に出席すると事前に伝えたところ、「是非見て来て欲しい」と要望されたのがDFCTの職業訓練センターだった。

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《この建物の2階に間借りしている》

DFCTは元々、社会的経済的に恵まれない環境にある女性や女子児童のエンパワーメントを目指している団体であるが、もう1つの特徴は、中央政府や州政府から業務を請け負って公共サービス提供を行なっている団体でもある。(とは言っても政府の業務委託金だけでは実際の運営には足が出ることも多く、そこはDFCTの自己資金から補填を行なっているのが現状だが…。)政府と近いということでCS氏が他のNGOから批判を受けることも多いらしいが、まあいろいろあって多様なのがNGOということで、こういう団体があってもいいとは思う。

そのDFCTが中央政府の職業訓練サービス提供者としてのライセンスを取り、UP州政府からの委託や民間企業・国際NGO等からの活動助成金を受けて運営しているのがこうしたセンターである。2003年から始まったこのプログラムでは、カンプールの他に、ラクナウにも数ヵ所、その他周辺地域にも数ヵ所のセンターが設置されている。

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《周囲は無許可で不法に立てられたバラックがビルの手前に陣取る脆弱な生活基盤のエリアだ》

このセンターで行なわれている活動は、①コンピュータ基礎(MSオフィス、インターネット)、②美容、③洋裁・ミシン操作、④勘定計算(tally)の研修である。①については、マイクロソフト社が運営している社会貢献事業への資金提供プログラム「Microsoft Unlimited Potential Program」からの活動助成を受けている。写真にある通り設置されているPCディスプレイ等、同様の活動をしている団体に比べて若干ながら設備環境が良いのは、その部分の助成をマイクロソフト社から受けているからだ。

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《コンピュータ基礎研修の受講者の様子。パワーポイントを使っていた。》

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《美容研修の受講者の様子。髪のまとめ方について実習をしていた。》

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《ミシン操作の研修の様子》

このセンターの場合、コンピュータ研修部門に男性の責任者が1名、美容・洋裁・ミシン研修部門に女性のインストラクターが1名配置されている。男性責任者の方は研修室が1部屋なので研修監理がそんなに難しいといったことはないだろうが、美容と洋裁・ミシン研修は部屋が別々になっていたので、1人のインストラクターがかけもちするというのはちょっとしんどいのではないかなという印象を受けた。

地元の若者のコンピュータ技能を向上させて雇用機会を得る可能性を高めようとする取組みにせよ、女性に洋裁や美容の研修を行なって普段の生活に潤いを持たせたりする取組みにせよ、低所得者層が多く住む都市の居住区ではどこでも行なわれているような気がする。同じような光景はデリーでもよく見かけた。だから、これらの光景がすごく目新しいものとは正直思えなかった。

しかし、DFCTの事業には大きな特徴がある。州政府やマイクロソフト社に限らず、意外と多くのパートナーと組んで活動を行なっている点だ。携帯電話のノキア社とは、携帯電話を通じて、農業、教育、娯楽の情報にアクセスできるサービスを試験的に行なっている他、SMS機能を利用してカンプール周辺の農村20ヵ村に住む妊産婦の相談に応えるサービスも行なっている。インターネットベースの開発ニュース配信サービス「OneWorld」がユニセフと提携して2006年から始めた農村部の教師と生徒向けの教育/学習サポートサービス「Lifeline」のUP州での実施機関はDFCTだ。DFCTが元々強い女性の保護とエンパワーメントに関しては、国際NGOのインド支部である「Plan India」を技術面で支援し、女児堕胎防止運動「Save the Girl Child」キャンペーンを推進している他、女性のSHG形成とマイクロクレジット活動の促進およびそのための教育を行なっている。さらに、世界銀行がUP州で4200村を対象に支援している農村保健プロジェクトでも、DFCTはパートナーとなり、コミュニティヘルスセンターの運営に当たっている。こうしたパートナーシップ形成に向けたマーケティングは、IT業界では相当な有名人であるCS氏のこれまでの業績とネットワークによるところがかなり大きい。

もっとも、これら全てがこのセンターで行なわれているというわけではなく、むしろDFCTのUP州総括が直営でコントロールしているプログラムなのだろう。DFCTはUP州でのオペレーションのために、約80人のスタッフを傭上している。今回訪問したのは職業訓練センターの1つだけで、DFCTのUP州統轄事務所を訪問していない。この点はちょっと残念。

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《DFCTの様々な事業を紹介する掲示板》

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《Plan Indiaと共同実施しているSave the Girl Childキャンペーンのポスター》

僕はDFCTが東デリー・シーラムプールで運営しているジェンダー・リソースセンター(GRC)とコンピュータ研修センターを何回か訪問したことがあるので、カンプールのセンターで行なわれているプログラムの殆どが、東デリーのそれと非常に似ているとの印象を受けた。むしろ、GRCでは女性が老齢年金や寡婦年金の給付を申請するのに必要な書類の書き方を教えたりもしていたのと、シーラムプール自体がムスリム人口が大半を占めていて女性の行動範囲が狭いというのとで、僕としては東デリーの方が強い印象が残っている。DFCTのUP州事業は、おそらくカンプールやラクナウのセンターを見学するだけでは不十分で、その周辺に広がる農村地帯と都市部を繋ぐ様々な取組みをダイナミックに見ないと、その特徴が理解しにくいように思う。

それと、今回CS氏の指示を受けて僕達を案内して下さったソムさん、2004年にDSCT入りし、CS氏の信任を受けてエネルギッシュでバリバリ仕事をこなしそうなタイプの人だけれど、ちょっと仕切り過ぎじゃないのかという印象を受けてしまった。職業訓練センターの事業は各センターの各研修部門に担当者がいる筈なので、その人に説明させればいいのに、そして僕はそのつもりで訪問先でもセンターのスタッフの人に直接話しかけるようにしていたのに、すぐに割って入ってきてまくしたてるように説明を展開した。うがった見方をすれば、ウィークポイントを突かれるのを避けたいというような心理でも働いていたのではないかとも考えられる。

最も、こうした、何から何まで自分で把握していないと気が済まないというタイプのトップの人は企業、NGOを問わず、インドには非常に多いのも事実である。CS氏自身もそんなタイプの人だし。インドで仕事していくためには、ある程度はこちらも受け入れなければならないインド人の特徴なのではないだろうか。

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《センタースタッフの概況説明を聞き、指示を出すソムさん》

このエリアもムスリム人口は多いそうなのでさほど問題にはならなかったようだが、実際僕達がセンターを訪問したのは12月5日(日)の午前中であり、普段ならセンターでの研修は行なわれていない日だったらしい。ソムさんとそのスタッフは、僕達の訪問のためにわざわざ研修生の動員をかけたようだ。ちょっとそこまでやらなくてもよかったのではないかと恐縮するとともに、多分これもCS氏からソム氏に直接命令が下ってどうしてもセンターを開けなければいけなくなってしまったのではないかと同情もする。
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職務経歴書の書き方の見本

とても魅力的な記事でした。
また遊びにきます。
ありがとうございます。
by 職務経歴書の書き方の見本 (2010-12-23 15:10) 

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