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『裸でも生きる2』 [読書日記]

裸でも生きる2 Keep Walking私は歩き続ける (講談社BIZ)

裸でも生きる2 Keep Walking私は歩き続ける (講談社BIZ)

  • 作者: 山口 絵理子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/10/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
小学校でイジメにあい、中学校になって非行に走り、偏差値40の高校から3ヵ月で慶應大学合格。途上国の貧困を救うためバングラデシュで起業。そしてエリコの次の挑戦はネパールだ!不可能は可能になる!涙と感動の実話!感動のベストセラー第二弾。
今年3月末に著者の前著『裸でも生きる』を読んだのだが、第2弾が出ているのを前から知っていて、コミセン図書室で見かけたので借りて読んでみることにした。前著にもまあまあの評価はしたつもりだが、個人的な好みとしては続編の方が好きだ。この手の本は「2匹目のドジョウ」はオイシクないケースが多いのだが、少なくとも僕にとってはそうではなかった。前回はなんだか著者が逆境に直面するたびに泣きべそかいて立ちつくしているシーンばかりが目立ったような気がするが、今回はそれがそんなに目立たなかった。岐路に立たされるたびに自分を信じて判断を下す姿には前作以上の力強さを感じた。

著者が代表を務める「マザーハウス」も、個人事業主からより会社的な事業形態に変わってきているようで、ここで描かれたことなどビジネスの世界では当たり前のことばかりだという批判はあるかもしれないが、でもそれを対途上国――対バングラデシュ、ネパール、インドで経験してきたような日本人はそれほど多くはないし、むしろ生産ラインの前面に立って相手と交渉・交流をしているからこそ描けるリアルがそこにはあると思う。若干ネタばらしになってしまうが、信頼関係が築けていたと思っていた現地パートナーの従業員が実は脅迫電話の張本人だったなんていう話は、「どこでもある話」としては容易には片付けられないと思う。

それに、前作では挿入写真が少ないことで不満も述べた記憶があるが、今回は写真も多く、読んでいてイメージがしやすかった。特に、マザーハウスが扱っているバッグ類の写真はよかった。また、どの写真も写っている人の笑顔が皆まぶしい。ベンガル人がこんなに笑っている姿というのは珍しいと思う。本当にいい職場をバングラデシュでは作られたのではないかと思う。

ただ、少しばかりの抵抗もあった―――。
 意味があるプロセスを経て作られているものはたくさんあるが、日本では「フェアトレード」という考えもその1つかもしれない。
 途上国で生産し、それを販売しているという意味では同じだが、フェアトレード商品を買うことは、どこかボランティアをしているときの感覚に近い。かわいそうな人がいるから、何か役に立てばと思い購入する。
 しかし、「それって続くのかな」と私は思ってしまう。
 私はむしろ、競争力のある商品を作りたいと思うし、実際に小田急百貨店の店舗では、多くの「通りすがり」のお客様がマザーハウスのストーリーを知ることなしに購入して下さっている。あとから、「バッグを買って、初めてバングラデシュという国を知りました」と言ってくださる方がいる。本当にうれしい。
 重要なのは、途上国のために購入するというアプローチではなく、「かわいいものがほしい」「かっこいいものがいい」という人間の普通の”欲求”と真正面から向き合い、満足度を満たすプロダクトを作りながら、実は確実に途上国の雇用を増やし、社会の利益とつながっている仕事をすることだと思う。(p.121)
フェアトレードの課題はリピーターを増やすことができるかどうかにあるというのは少し前の記事でも述べたことである。昔はフェアトレードだ、オーガニックだといえばそれだけで売れたが、今の消費者はもっと賢くなっており、その商品が良くなければ買わないというのは、ちょっとフェアトレードやオーガニック食材の輸入販売をやっている人なら誰でも自覚して、その方向で取り組んでいる話である。従って、フェアトレードと一線を画して、「私がやろうとしていることはあの人たちとは違うのよ」と強調する必要などないと僕は思っている。

本書を読みながら、著者が言う「途上国での雇用拡大」というのが、結局のところバッグ生産工場の従業員のことを指しているのだというのがわかったような気がする。だから本書の中にはジュートの生産農家については話が出てこないし、ネパールのパシュミナを生産している牧畜農家についても出てこない。確かに、工場の従業員の能力強化にも繋がるし、所得向上にも繋がるだろう。でも、バングラの工場でも6人程度の雇用しか創出していないのが現状であり、それがバングラ全体に及ぼす影響は微々たるものだろうし、仮に今ぐらいの生産規模を維持していくのでなくさらに事業拡大していくとしたら、一般の企業経営とどこが違うのかということにもなりかねない。

マザーハウスのジレンマとは、事業が順調に拡大していくと、その先にあるものがマザーハウス設立当時の理想とかけ離れたものになりはしないかという点にあるような気がする。書籍出版にしてもテレビ出演にしても、「山口絵里子」という若い女性起業家を前面に押し立てれば本は読まれるだろうし、視聴率も上がるだろうし、それによってマザーハウスの売り上げも上がるだろう。それは戦術としては決して間違っていないのだろうけれど、その先にあるものは一般の企業がやっていることとあまり変わらないような気がどうしてもしてしまう。

最後に、マザーハウスが大手旅行代理店HISと組んで企画したバングラデシュツアーの話は大変参考になったので付記しておく。
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