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『ケニアに愛をこめて』 [読書日記]

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ケニアに愛をこめて―日本人(キシダ)ママ大奮戦 (国際協力選書)

  • 作者: 梅原 愛雄
  • 出版社/メーカー: 国際協力出版会
  • 発売日: 2001/05
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
国際協力最前線の感動を綴る、ヒューマンドキュメンタリー。

ケニアの人々と、1人の日本人ママとの、人間愛に満ちた交流が胸を打つ。
―国際協力事業団総裁(当時) 斉藤邦彦

暖かい人間観察眼で活写――。
ノンフィクションとしての臨場感は出色である。かまどなど日本古来の生活文化、日本の心を伝える主人公の活躍は絶賛される。
―駐ケニア大使(当時) 青木盛久

フィールドに学ぶ姿勢に共鳴。
同じ目線で語り合い、村人の手の届く実践を通じての住民教育、人づくりに貢献してもらっていることが何よりもありがたい。
―ケニア共和国 O・Z・オボンゴ 西ケニア州知事
知り合いに「読め」と薦められて、今週末にやっとこさ読んだ1冊。著者の解説にも冒頭の青木大使の紹介文にも「日本の顔の見える援助」という言葉が使われているが、おそらく日本人の顔が見える援助の事例として最も有名なのが、ケニアでの岸田袈裟さんの業績だろう。有名過ぎてちょっと1つの素材を使い回し過ぎのような気もしないではないけれど、岸田さんを有名にした「改良かまど」と「草履」だけではなく、もっと広く岸田さんの活躍を捉えている。読んでいて面白かった。

今回は特に、ヴァンダナ・シヴァや宮本常一の著作を集中的に読んだ直後だったので、岸田さんのケニアでの活動がこの両者とも通じるところがあるというのを垣間見て、驚きとともに興味も湧いた。
岸田さんは「ポレ・ポレ精神」が決して間違っているとは思っていない。大自然のなかで、人間は自然と語らい、自然の恵みを受けて、こせこせせず、ゆたりとした気持ちで生きることがすばらしいと考えている。だから、いつも自分のやることで、ケニア人がもつ寛大さ、心の豊かさを失うようではいけない。少なくとも、先を争うようにして富を求める競争社会に引き込むようであってはならない、と思っている。
「それについては、私もじゅうぶん分かる。ママのやっていることは、けっしてそうではない。いいですか、ママはこの村がどれだけすばらしいのかを教えようとしている。たとえば、森の木1本、1本にしても、野の草であっても、何と言う名前で、どんな特徴があるのか自分で調べて教えてくれます。マキに切り出した枝や、踏みつぶしていた草が薬になる貴重な自然の恵みであること。そして私たちに初めて種をまき、木を育てることも教えてくれました」
 村長がいうには、岸田さんは、村人が村を愛することを教えている、と言うのである。(p.201)

だから、改良かまどが高い評価を受けたと言われても岸田さん自身は手放しで喜んでいるわけではない。
「彼らには彼らの文化があり、それぞれ理に適った立派な哲学を持って生きてきたんですものね。便利さという一言でそれを壊してしまっていいものなのか。果たして、何もかも近代文明という枠組みに取り込んでしまっていいのか。センチメンタルだけではなくて、それぞれの民が生を受けた地で、自然と共に生きることのすばらしさをどう残していくのか。その視点って大切じゃないのでしょうか」(pp.242-243)
宮本常一とも通じると言ったのは、ご本人は栄養学という学問領域からフィールドに関わるようになったのに、現地で活動していく過程で、村にどのような資源があるのか、どの自然資源が何に利用できるのかを、徹底的に調べ、村人以上に理解していたというところである。

残念なことに、岸田袈裟さんは今年3月1日にお亡くなりになった。岸田さんのケニアでの活躍を扱ったメディアの取材記事やルポはかなり多いが、僕は岸田さんご自身が執筆されているものを知らない。ひょっとしたらケニアで英文で書かれたものがあるのかもしれないが、少なくとも日本語での著作は存在しない。徹底した現場主義の人だったのだろう。本書でも紹介されているが、ケニアの岸田邸というのは、ケニアに在住した日本人の方々が頻繁に出入りした場所だったらしい。なんとなく、日本の渋沢敬三邸みたいな感じだったのかなとイメージしている。そこで生まれた次世代の若者との交流の中から、次の「岸田袈裟」が何人も輩出されていくのではないかと期待したい。
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コメント 1

toshi

コメントありがとうございました。
駐在していた方に見ていただいて嬉しいです。
by toshi (2010-10-04 21:43) 

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