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『宮本常一が撮った昭和の情景』 [宮本常一]

宮本常一が撮った昭和の情景 上巻

宮本常一が撮った昭和の情景 上巻

  • 作者: 宮本常一
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2009/06/09
  • メディア: 大型本

宮本常一が撮った昭和の情景 下巻

宮本常一が撮った昭和の情景 下巻

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2009/06/09
  • メディア: 大型本

ちくま文庫で宮本常一の著作のダイジェスト版を読むのと並行し、宮本が全国各地を歩き回って撮影した写真の数々を収録した写真集も目を通してみることにした。彼は民俗学者としてフィールドワークを続ける傍ら、10万枚にも及ぶ写真を撮りまくった。それも芸術作品としてではなく、フィールドワークにおけるメモ代わりとして。

撮りまくったといっても、彼が最初に使ったカメラはフィルム1本で8枚しか撮れないコダックのベスト判だった。昭和19年に友人からシックス判のカメラを借りて1000枚ほど撮りためたが、空襲で大半を焼失した。昭和30年頃にアサヒフレックスを買ってからはできるだけ撮るようにしたが、本格的に写真を撮ったのは昭和35年にオリンパスペンSを購入してからだという(下巻、p.245)。だからこの写真集は昭和30年頃のものから収録され、上巻では昭和30~39年の10年間、下巻では昭和40~55年の16年間がカバーされている。バランスから言うと、オリンパスペンS時代の写真が圧倒的に多い。デジカメがもう少し早く発明されていたら、宮本もガンガン使ったんだろうなと思う。

下巻の巻末解説で、作家の松山巖が次のように述べている―――。
 ほっとする温かさ。以前に眺めたような懐かしさ。この町、この村ならば行ってみたい、住んでみたいと思わせる落ち着き、静けさ、佇まい。この写真集のページを捲りながら、次々に現れる風景や人々の姿を見つめて、このように感じる人は多いのではないだろうか。
 不思議な魅力がある。写真のさらに細かい部分を見つめると、1枚の写真全体以上に惹きつけられる。人々の目つき、口許、背丈、弾けた笑顔、すました顔、ちょっとした手の動き、集まったときの身振り、作業の仕方、衣服、その着方、履物、その履き方、手に持っている道具、働いている人々の表情、車の種類、電車、バス、リアカー、それを引いている体の動き、看板やポスター、どのデザイン、内容、藁ぶきの家、塗り壁の建物、窓の違い、屋根、道端の塀や小屋、草むら…、挙げればきりがない。見つめれば見つめるほど懐かしさだけでなく様々な感慨が湧いてくる。(p.242)
プロの写真家だったら絶対に被写体にしないものを被写体として捉えている。民俗学者が撮った写真であるだけに、50~60年前の日本の人と事物が見事に描かれている。貴重な資料だと思う。そして、僕のような昭和30年代生まれの人間には、懐かしさを感じる写真ばかりだ。

そしてさらに僕は思った。昔の写真を見ていると、今のインドが都市も農村も含めてこんな感じではないかと。そうするとさらに考え得る。インドも2050年頃になると今の日本みたいになっているのかもと。いや、もしかしたら経済発展が加速かかって2030年頃には日本みたくなっているかもしれない。そして、そうだとしたら今一度日本の経験を振り返り、この50~60年の間に日本人は何を得て、何を失ったのかを整理してみるべきではないだろうか。

これから暫く宮本の著作を紹介するケースが多くなると思うが、今回写真集で見かけた写真の数々を思い出し、イメージを膨らませながら読んでみたい。
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コメント 2

nmzk

貴重な資料ですね(^O^)/
私も勉強したいと思います♬
by nmzk (2010-08-05 21:30) 

montblanc

偶然にも『塩の道』を再読したところです^^
氏の時代にもデジカメやパソコンがあったならって私も思いました。
宮本氏の作品紹介楽しみです。
by montblanc (2010-08-05 22:43) 

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