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インドのコメ品種 [インド]

IndiaToday2010-7-19.jpg週刊誌『INDIA TODAY』の7月19日号に「Food for THOUGHT」(Mihir Srivastava通信員)という記事が掲載されていた。人口増大を見越して高収量のハイブリッド品種の導入拡大を目指したいインド政府に対して、現場レベルでは自給自足を目指したい農民は地元の品種の作付に固執していることが指摘されている。全体の論調としては「バスマティ」のようなハイブリッド種の画一的全国導入には懐疑的で、各地の土壌や地形、気温や降雨量、水の利用可能度等に合わせた適切な品種の採用を地元農民が賢く選択していることを好意的に捉えている。そして、それがインド米の植物多様性の維持にも繋がるとしている。

*記事全文は以下のURLでダウンロード可能です。
http://indiatoday.intoday.in/site/Story/104799/FROM%20THE%20MAGAZINE/food-for-thought.html 

この記事が捨てがたいのは様々なコメの品種への言及があることである。これは、そうした地域地域に行って実際にコメ作りの現場で農家の方々や農業関係者と話す場合に必ず言及がありそうな固有名詞で、実際に僕はそういう現場に行って何が話されているのかしばらく分からず苦労した経験がある。

【ビハール州】
ベサリヤ(Besariya)-1日24cmも成長し、洪水で水に浸かっても生き延びる。

【ジャルカンド州】
ゴーダ(Goda)-旱魃のような水のない状況でも生育可能。地表水の流出速度が速い高地で育ち、60日足らずで収穫可能。通常の品種なら90日は必要。
カルヘイニー(Karhaini)-水不足に強く、黄疸症状を和らげるのに効果がある。ハンディア(Handia)と呼ばれるコメから作るビールの主原料となる。

【オリッサ州】
ドゥラプーティア(Dhullaputia)-洪水等で水に浸かっても15日程度は生育休止状態で生き延び、水が引いてくると再び生育を開始する。
カーリー・モーリー(Kali Mori)コーラー・プート(Kora Poot)-微細な棘で覆われており家畜が食べられない。カーリー・モーリーについては香りも特徴的。
メイナ・ファーンキ(Maina Phanki)-籾に特徴的な白いストライプがある。免疫力を高める他、洪水にも強い。
トゥルシ・マーサ(Tulsi Masa)-低地で作付され、長期間浸水状態継続が余儀なくされるような耕地であっても生育可能。

【ウッタル・プラデシュ州】
ボロ(Boro)-UP州東部で作付されている。川辺に播種されて収穫はボートで行なわれる。
カーラー・ナマック(Kala Namak)-UP州東部で作付けされ、芳香が好まれる品種だったが、今や絶滅して作付けしている農家は殆ど見られなくなった。

こうして見ていくと、地元品種の活用が強調されているのはビハール、オリッサ、ジャルカンド、チャッティスガルといった中西部の貧困州であることがわかる。実際インドにおいても「緑の革命」の恩恵はあり、小麦だけではなくコメにおいても1960年代末以降大きな生産性向上が見られたのだが、その主な舞台はパンジャブ、ハリヤナ、UP州西部の、インドの代表的穀倉地帯と言われる地域である。そしてそうした地域でのハイブリッド米導入の経験から、ハイブリッド種導入の前提として、化学肥料や農薬の大量使用や農業機械等への巨額の投資が必要と言われている。そして、ある程度安定的な気象条件があって、初めてハイブリッド種は効力を発揮する。

しかし、その一方でハイブリッド種の影響も指摘されている。土壌劣化が著しく、化学肥料や農薬の使用によって水質悪化が進んでいるという。また、安定的な気象条件が得にくく、洪水や旱魃が頻発するような地域ではハイブリッド種は期待される威力を発揮しない。ハイブリッド種は播種の際にその都度種子会社から購入しなければならず、農家自身が次年度以降に向けて収穫したコメの種子の一部を保存することはできない。ハイブリッド種は種子会社を儲けさせるだけに終わるとの指摘もある。

記事では、伝統的在来種の保存とは真逆の方策を政府が打ち出しているため、逆に伝統的在来種の保存は民間の取組みに頼らざるを得ないという現状の指摘もなされている。ジャルカンド州では、ジーン・キャンペーン(Gene Campaign)という現地NGOがコミュニティによる遺伝子バンク(community-run gene bank)という試みを展開している。同州全域において、農家は自分の農地のその年の土壌や気象条件等を勘案して、最も適切と思われる品種を遺伝子バンクから借り入れる。そして収穫期を迎えると、その3倍の種子を遺伝子バンクに返済するという仕組みである。遺伝子バンクには1,000種以上の種子が保存されている。その殆どが絶滅危惧種だという。

農家は教育水準が低かったから生産性の低い在来種を作付に使っていたというわけではない。逆に経験に裏打ちされた在地の知恵があってこそ、彼らは安易にハイブリッド種への全面シフトをよしとしない。州都ランチーから車で1時間ほどのところに住む農家バッジ・マヘトさん(78歳)は、ハイブリッド種と在来種を両方作付けている。ハイブリッド種はキロ250ルピーと高いことも全面シフトを躊躇させる理由の1つである。高収量のハイブリッド種は多くの労働も必要で、肥料や農薬の費用もかさむ。農家はあまり儲からないのだという。昨年の旱魃で、ジャルカンド州は例年に比べて40%以上の収穫減を記録した。在来種であれば、これだけの落ち込みにはならないという。

ハリ・クリシュナ・マヘトさん(35歳)は別の理由も指摘する。ハイブリッド種では満腹感が得にくく、さらに50%ほど多めに食べてしまうという。また、ハイブリッド種は風味が乏しい。在来種の方がグリセミック指数が高く、糖尿病にもよいという。在来種は、魚やカエル、カニ、巻貝などの水中生物の棲息にも適する。

インド政府は高収量のハイブリッド種の増産を進めて米の生産能力の増強を図る方針である。このため、辺境の小規模農地で伝統的農法にこだわっている農家に対しては今後も逆風が予想される。しかし、彼らは何も伝統的在来種の保存を目指しているわけではない。むしろ、彼らは合理的判断としてそうしており、いわば自分達の生活の維持、そして生存をかけているのである。


Kendo5.jpg

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hi-ro

海外の特殊気候風土の土地で、日本人がボランティアで米の生産に挑戦しているというケースを過去にTVでみたことを思い出しました。
厳しい環境下で自給自足を実現するために、インドでも農家は苦労されているのですね。
by hi-ro (2010-08-02 13:33) 

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