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『世代間最終戦争』 [読書日記]

世代間最終戦争

世代間最終戦争

  • 作者: 立木 信
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
これまでの政治や経済の改革論は、年長者にとって都合のいいものだった。20代、30代の若者の立場から、日本の経済発展を支えた70歳前後の世代を中心に年長者の真の姿を検証。これからの若い世代の生き方を示す。
プネ旅行に持って行って、1日で読み切った本。出版時に結構反響があった(と著者ご本人は仰っている)1冊だが、以前同じ著者がこの本の後に出した『若者を喰い物にし続ける社会』と論調が全く同じなので、片方を読んでいればもう片方はいいかなと思う。

高齢者を目の敵にした刺々しくけばけばしい記述は事の重大さを強調するにはいいかもしれない。ただ、著者の論点に対して1つだけ付け加えたいことがあるとすれば、著者が目の敵にしている60~70代の高齢者というのは、確かに最も資産も持っていて年金収入も得られているという意味では非常に恵まれた世代なのかもしれないが、その一方で最も所得格差・資産格差が大きい年齢層でもあるという点だ。本来批判のターゲットとすべきはこの年齢層の中でも所得機会にも資産にも恵まれているリッチなグループであり、山谷で静かに死を迎えようとしているようなお年寄りではない筈だ。本書はそこの部分に全く触れず、高齢者を十把一絡げにして攻撃している点に反論の余地がある。

それに、本書は世代間の対立を煽るのが全体的な目的であるにも関わらず、各論の部分で著者が全体を通じて言いたいことが何だったのかよくわからなくなることがあった。個々の各論の部分でも指摘されていることは各々は首肯し得るものなのだが、全体テーマとの関連で、各論でそこまで書く必要があるのかよくわからないという箇所が幾つかある。例えば、ネットジャーナリズムに関する記述だ。若者の情報・意見発信手段としてのインターネットの可能性について強調し、「若者よ、黙っていないでもっと発言せよ」と焚きつけたかったのだろうが、こういうのに10頁以上も紙面を割く必要があったのかどうかは疑問だ。また、財政危機を招いている行政の予算浪費体質を指摘するのに、公務員が花形業種である理由等を数頁にもわたって説明する必要もない。

全体を通じて同じ論点が何度も出てくるし、何となく著者が各所で発表した評論の寄せ集めなのではないかという気もした。各節のベクトルが1つの結論になかなか収束していかず、バラバラの方向を向いているような印象も受ける。各論の論点はそれぞれ支持できるものであるだけにもったいなさも感じる。加えて、自分の論点を補強するために他の有識者の著書や発表論文等からの引用を行なっているケースがかなり目立つが、巻末に参考文献リストもなく、それぞれの引用文献の何頁にそれが書かれているのかまでなかなか確認することができない。

個人的には、世代間対立を煽って無理矢理高齢者から権利を引き剥がすより、相互理解を深めてリッチな高齢者に権利返上を促すようなアプローチの方が宜しいのではないかと思う。溝を深めるよりも相互理解を深めることの方が必要なのではないだろうか。「老人狩り」が横行するような社会は想像したくもない。財政の後年度負担や賦課方式の年金制度の持続可能性がそれだけ危機的な状況にあるということの裏返しなのだろうが、世代間の断絶を促進するような考え方とは僕は一線を画したい。

この本も、より多くの方に読んでみていただきたいと思うので、デリーに置いていきます。
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