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『清張ミステリーと昭和三十年代』 [読書日記]

清張ミステリーと昭和三十年代 (文春新書)

清張ミステリーと昭和三十年代 (文春新書)

  • 作者: 藤井 淑禎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 新書
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昭和30年代の高度成長期は、また松本清張ミステリーのピークともいえる時期でもあった。『砂の器』や『点と線』など「社会派」の端緒と捉えられることの多い清張作品であるが、実は本格ミステリーとしてのしっかりとした骨格を持ち、風俗描写にも優れている。本書は社会が大きく変容したこの時代と清張作品とを、「映画館の見える風景」、「愛と性の考古学」、「貞操をめぐる物語」といった章立てで社会学、風俗学的見地から考察していく、新しいタイプの清張論である。
アマゾンの書評等で見ると、この本の評価は芳しくないが、松本清張のミステリーをこれまでに1冊も読んだことがない僕が魅かれたのは「清張ミステリー」ではなく、「昭和30年代」の方だ。

昭和38年生まれの僕は、この高度成長期の記憶が殆どない。しかも、岐阜の田舎生まれなので、高度成長期を経験した直後の東京の記憶もない。だから、昭和30年代の東京がどんなところだったのかという話は僕にとっては新鮮だった。また、これまでも時々述べてきたが、今のデリーの様子を見ながら、昭和30年代の東京と今のデリーは似ているのではないかと何となく感じるところがあり、その昭和30年代の東京というのを今一度確認するという意味では、本書はとても有用だと思った。

新しい「清張論」ではなく、新しい「昭和30年代社会論」だ。

本書を読んでみて、当時の日本と今のインドの共通する点を幾つか挙げてみたいと思う。

1)映画館が町のど真ん中に陣取る。町のランドマークが映画館の建物だった時代。

2)零細家族がとっかかりに始めるのは小売業。

3)開通した新都市交通手段(つまりは近距離鉄道)は満員で、近郊から中心部に通勤客が集まって来る。

4)結核患者が結構いる。

5)Hが当たり前の時代になってくる。(Hと結婚が必ずしも結び付かなくなる時代)

挙げてみればどれも当たり前のことのように思えるのだが、これを改めて文章に纏めたところには意義を感じる。松本清張作品から昭和30年代の社会がどのようなものだったのかを整理する試みはユニークで、こういう文献を読むと、それだったら僕も重松清作品から平成10年代の社会を描いてみるというのもできそうかなと勇気付けられた。

ただ、本書もちょっと読みづらかった。その理由は、著者が松本清張ミステリー作品をものすごく読み込んでいるために、各章1作品の紹介どころか、複数の作品が同じ章の中で引用されているからで、話があっちに飛び、こっちに飛びで、なんだか纏まりに欠けるなという印象を受けた。
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