デリーの放射線被爆事故

先週、デリー市内の屑鉄マーケットの業者がコバルト60に被爆していたことがわかり、このマーケット周辺が大騒ぎになるという事件があった。場所は西デリーのマヤプリ（Mayapuri）という地区で、3月12日にディーパック・ジェインさんの経営するスクラップ工場に持ち込まれた機械の中に、放射性物質が紛れ込んでいたらしい。

ちょっと解説が必要なのは、このマヤプリという地区はウッタルプラデシュ州やビハール州からの出稼ぎ労働者が集まってできたスラム街で、自動車やその他の機械を解体して使える部品を修理、加工して販売するような零細工場が集積している。

さて、スクラップ工場の作業員からその光る鉱石を見せられたジェインさんは、きっと高価な鉱物に違いないと思い、それを受け取って棚に置いた。その後、3月25日頃までに、この鉱石に触れた作業員3名の爪が黒ずみ、吐き気（nausea）を訴え始めた。さらにはジェインさんにも同じ症状が見られるようになり、さらには毛髪がどんどん抜け始めたため、医者の診察を受けた。しかし、近所の医者ではどうにもならないと判断されたため、ジェインさんは4月4日にアポロ病院に、他の作業員はDDU病院に収容された。

アポロ病院は、ジェインさんの症状を見て放射線に被爆したものと判断し、原子力規制委員会（Atomic Energy Regulatory Board、AERB）に連絡を入れた。AERBは屑鉄マーケットに行き、放射性物質の特定を試みたがそれがかなわず、この地区を立入禁止にする措置を取った。さらに、ババ原子力研究センター（Bhaba Atomic Research Centre、BARC）も招集され、さらに12時間の探索が行なわれた結果、4月9日になってようやく放射性物質が特定され、回収されたという。

＊Hindustan Timesの関連記事は以下の通り。
http://www.hindustantimes.com/newdelhi/Cobalt-60-Whose/529404/H1-Article1-529370.aspx
http://www.hindustantimes.com/newdelhi/Shiny-dangerous-metal/529404/H1-Article1-529372.aspx
http://www.hindustantimes.com/newdelhi/Lurking-danger-no-one-to-check/529404/H1-Article1-529375.aspx
http://www.hindustantimes.com/newdelhi/Delhi-cops-not-ready-to-handle-such-mishaps/529404/H1-Article1-529374.aspx
http://www.hindustantimes.com/rssfeed/newdelhi/They-deal-in-crores-yet-live-off-scrap/Article1-529378.aspx

《カザン・バスティの様子》

さて、この新聞報道を見て、僕は正直震え上がった。実は、DISHAという現地NGOの平日の活動を見学させてもらうために、本日（13日）このマヤプリ工業地区のスラム「カザン・バスティ（Khajan Basti）」を訪問しようと計画していたからである。DISHAの土曜日の活動の1つである日本語教室や幼児向け識字教室には一度訪問したことがあるが、平日の彼らの日常の活動がどのようなものかを知る機会が今までなかったので、離任する前に一度見ておこうと考えた。日本からスタディツアーとかでデリーを訪ねたいという人に、自信を持ってDISHAを薦められるのかどうか、確認しておきたいという魂胆だ。

DISHAのチョープラ氏に電話を入れたところ、彼らの活動地域は影響を受けいていないとのことだったので、訪問は決行するつもり。活動内容はまたこのブログでも紹介させてもらおうと思う。

ところで、なんでこんな屑鉄マーケットにコバルト60が紛れ込んだのか？肝心の当事者のジェインさん他作業員の人々が危篤状態なのでどこからスクラップ用機械を持ち込んだのかはわかっていない。最初はX線検査機器やガン治療用機器を保有する市内の医療機関ではないかと疑われたのだがそれはないらしい。当局は特定を急いでいるところだ。

世界は核サミットの行方に注目しているこの時期、なんだかお粗末な事故でありました。

被曝された方々が回復に向かわれるようお祈り申し上げたい。