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『黒豹スペース・コンバット』(上・下) [読書日記]

黒豹スペース・コンバット〈上〉―特命武装検事黒木豹介 (徳間文庫)

黒豹スペース・コンバット〈上〉―特命武装検事黒木豹介 (徳間文庫)

  • 作者: 門田 泰明
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 文庫
黒豹スペース・コンバット〈下〉―特命武装検事黒木豹介 (徳間文庫)

黒豹スペース・コンバット〈下〉―特命武装検事黒木豹介 (徳間文庫)

  • 作者: 門田 泰明
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2003/07
  • メディア: 文庫
「トンデモ本」として多くのブロガーの間でさんざん突っ込まれてきた門田泰明著の「黒豹シリーズ」の世界に初めて足を踏み入れた。「ICBMもUFOも拳銃で撃ち落とす検事」と揶揄される「黒豹」―黒木豹介の、世界どころか宇宙もまたにかけた大活躍を描いたシリーズで、さすがはバブル全盛期に書き下ろされた作品らしく、とにかくやることなすことデカイ。渾身の1600枚、文庫版で3冊を同時に書き下ろして刊行するという、出版業界の常識を打ち破った執筆方法は、「出版界に新時代の幕を開いた」と当時は形容されたらしいが、そんなのバブル経済真っ盛りの時期だからできたのに違いない。

今の僕らが読むと、元気があっていいですねという感じで、爆笑するというよりももはや呆れる。この3巻にもわたる大長編(面倒だから僕は中巻を省いた)、全体として何ヵ月ぐらいの時間経過なのか感覚が麻痺してよくわからないのだが、黒木検事は1時間に1回は敵の襲撃に遭い、愛用の拳銃ベレッタでバッタバッタと相手を倒し、そして1日に1回ぐらいは貫通銃創の大怪我を負っている筈なのだが、次の戦闘シーンになると全てリセットされたようにまたド派手な活躍を見せる。それだけでもあり得んだろという気がする。

門田泰明という作家、すごく勢いは感じるのだが、いろいろと特徴がある作風である。

第1に、既述の通り、過去の経緯をすぐに忘れられる。歴戦での負傷も忘れて次の戦闘シーンでは黒豹大活躍というだけではなく、ソ連ドニエプル原発の爆発事故でできた大火球が地中のマントルに作用して世界中で大地震を発生させるという設定を作り、実際黒木と美人秘書・沙霧(これが松本零士作品に登場するような切れ長の瞳と抜群のプロポーションを誇る女性キャラに瓜二つ!)がブラジル・アマゾン奥地にある秘密組織V.Nの基地を叩くミッションに向かうために入間基地駐機中のDC8搭乗に向かう途中の入間市内で大地震に遭遇させる。市街地が壊滅的被害を受け、被災者を目撃していたにも関わらず、基地に向かいDC8に搭乗して離陸を待つ間、大地震の被害者のことなど忘れたかのように2人でラブラブしてしまうなんて、普通あり得ないだろう。最後の終わり方も、月にいるという未確認高知能生物から受けていた地球総攻撃の警告が結局どうなったのかなどひと言も書かれていない。

第2に、つまりは今そこで展開されているシーンに没頭してしまっているから過去に描いたシーンを簡単に忘れてしまえるのだろうが、とにかく作家本人がシーンに酔っているとしか思えない描写が随所に出て来る。沙霧の描き方など典型的だ。多分、「女はこうあるべき」という著者の理想の女性像を沙霧に投影しているのだろうが、それはいいにせよ、黒木検事の心の動きについては客観的描写が徹底されている割には、沙霧の黒木に対する思いについては著者が乗り移ったかのようにやたら克明に描かれ、しかもそれがめちゃクサイ。いくらバブル全盛期でも、何度も「愛しています、心から」なんて本当に口にした女性などいなかったのではないかと思うぞ。

第3に、この方の文章、1行ないし2行で段落を切っているケースが殆どで、1段落3行以上というケースは殆どない。つまり1つの文自体が非常に短く、それでテンポを作っている。もう1つの特徴は、擬音語がやたら多い。戦闘シーンに顕著なのだが、この人本当に作家なのかと首を傾げる描写がものすごく目立つ。
ドカーンという、凄まじい爆裂音がして、部屋がグラリと揺れる。

ドムッドムッドムッとクロス・ファイヤーの銃口が吠え続ける。

ガンガンガンッと機銃が唸り、その反動に耐えようとして、黒木の背中が反りかえる。

グワーンという、物凄い爆発音と共に、コンクリート塊が一瞬のうちに絶命した兵士たちの上に落下した。恐るべき威力だ。
とにかくこんな調子。

こんなに頻繁に的に襲われる特命武装検事も大変な仕事である。普通、名うてのヒットマンが返り討ちにでもあったら敵も作戦の練り直し、体制立て直しを考えるためにいったん退却すると思うのだが、行く先々で何度も何度も黒木を襲う敵もバカかと呆れてしまう。

アマゾン奥地のジャングルの中に、スペースシャトルやICBMの発射基地を誰にも知られずに造ることなど、普通考えたらあり得ない。英国には確かに007に会わせるためだけに行かせる設定を作ったとしか思えないし、米国ワシントンDCでの米大統領との面談も、そんなものを入れたばっかりに黒木と沙霧を我が子のように可愛がっていたという倉橋首相の役割がストーリー終盤になって殆ど薄れてしまったように思えて残念だ。

まあ、日本にまだ勢いがあった1980年代なら、米ソ両国が日本に一目置き、日本の首相や「世界最強の男」黒豹にわざわざミッションを依頼するなんて状況はひょっとしたらあったのかもしれない。地球外生物も黒豹を地球人類の代表として特定するなんてことも、バブルの時代だったらあり得た設定かもしれないが、今だったらもう無理ですね。

確かに「トンデモ本」である。中巻は今さら読もうという気も起きない。

初出は1988年の光文社文庫、その後愛蔵版「黒豹全集」所収作品として祥伝社ノン・ノベルから1997年、そして現在は2003年発刊で徳間文庫から発売されている。異なる3社から発売されたという実績はすごい。きっと売れたのだろう。とにかく、バブル全盛期の何でもありの楽観的な空気を強く帯びた凄すぎるスーパーバイオレンス小説だ。
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白豹

その時代に読んでいた読者です。
あの時は、こんなにガンガン読めて読後爽快な本はないサイコー
でしたよ。
by 白豹 (2011-03-14 21:22) 

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