『誇りと抵抗』 [読書日記]
誇りと抵抗―権力政治(パワー・ポリティクス)を葬る道のり (集英社新書)
- 作者: アルンダティ ロイ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/06
- メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)この年末年始の連休中、1日1冊のハイペースで進めてきた読書も、1月2日の本書読了を以てひと段落である。家族が到着した翌3日はさすがに読む時間も作れず、4日からは仕事に復帰した。家族が当地を発つ9日(土)までは、読書はちょっと難しいかもしれない。
1997年度英ブッカー賞受賞のインド人女性作家、アルンダティ・ロイは、人権の抑圧に抵抗する政治活動でも注目されている。急速なグローバリゼーションや米国の圧力、強圧的なインド政府によって生きていくことが脅かされてきた人びとの力になるために、自らの良心に従って積極的に発言しつづける。権力政治が人びとを脅かす現代インドの過酷な状況や、国際社会の矛盾を鋭く批判するエッセイ六篇を集めた、心に響く論文集。
そんな中で半ばアリバイ作りのために読んだ本書。以前アマルティア・センの著書として集英社新書から出ていた本を読んだ時にも書いた記憶があるが、集英社新書から出ているこの種の作品は、著者の書き下ろしではなく、いろいろなところ――例えば、雑誌や新聞への寄稿とかどこかで著者が行なった講演とか、そういったものを寄せ集めてきている。従って、これを自分の執筆している論文等で引用しようとすると、この本ではなく、初出がいつなのか、発表媒体が何だったのか、といったことが疑問として湧いてくる。また、論文の寄せ集めなのだから、せめてどのような考え方に基づいて収録作品の選定を行なったのか、編集サイドの考え方がはっきりと示される必要がある。
集英社新書で当惑するのは、この所収論文の初出がどこかが全く示されていないことと、どのような基準で所収論文が選ばれたのか、序文もあとがきも訳者解説もないから、本書に収録されているからといって自分の書いているような論文執筆の際の引用がしづらいことだ。その点は集英社新書は非常にもったいないことをしていると思う。
本書を読んでも、何故編者はこれらの論文を選んだのか。一貫しているようでなんとなく一貫性を欠いているようにも感じたため、編者の考え方が余計に知りたいと思った。アルンダティ・ロイの本は2冊目なので、どのような考え方をしている人なのかはだいたい想像がつく。が、それにしても本書の中で米国ブッシュ大統領と米国主導で進むグローバリゼーションに対して明らかに批判的な態度を明確にする、即ち他国の話をインドの作家が批判している論文については、載せるならそれに特化した別の単行本として纏めて欲しいと思ったぐらいだ。
そういうやや蛇足の部分はあるとしても、本書に価値があるとすれば、ロイの発表論文としてはかなり有名――だと本人が自画自賛している「パワーポリティクス-ルンペルシュティルツキンの再来」が収録されていることだろうと思う。但し、初出年がわからないなど、はっきり言って、この論文が日本語で収録されているというだけでも本書は相当な意味がある。ナルマダ河流域開発計画は僕がインドに関心を持つよりもずっと以前から、行政側と市民側との間で対立関係があったものだが、この「パワーポリティクス」にはその経緯についてかなり詳細に描かれている。市民サイドに立ってナルマダ河流域開発計画のどのような点が批判されているのか、論点を知りたい時には間違いなく本書所収の「パワーポリティクス」を読まれることを薦めたいと思う。
2010-01-05 06:00
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