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『中村屋のボース』 [読書日記]

中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義

中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義

  • 作者: 中島 岳志
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
R.B.ボース。1915年、日本に亡命したインド独立の闘士。新宿・中村屋にその身を隠し、アジア主義のオピニオン・リーダーとして、極東の地からインドの独立を画策・指導する。アジア解放への熱い希求と日本帝国主義への止むなき依拠との狭間で引き裂かれた、懊悩の生涯。「大東亜」戦争とは何だったのか?ナショナリズムの功罪とは何か?を描く、渾身の力作。
今週22日(火)は不整脈が久し振りに出て、立ってても座っててもつらかったので、会社を早退させてもらった。このところ週末も何かしらのイベントを入れたりしていたので、ちょっと疲れがたまっていたのかもしれない。当然自宅に直帰したのだが、この日は運悪く週末から故障していた自宅の主寝室の温水器(ギーザー)の修理で電気工と水道工が立ち入っており、主寝室のベッドですぐに横になるわけにもいかなかった。仕方なく、かなりの厚着をして居間のソファに座り、本でも読むことにした。そこで選んだのが本書である。300頁超のボリュームで、読了したのはクリスマス祭日だった25日だが、うち半分以上はこの早退した22日の午後に読み進めた。

中島岳志さんの著書はこれまでにも2冊読んでいるが、中島さんを有名にしたのは本書である。前評判は相当に聞いていたので、実際に読んでみて確かに期待に違わぬ力作だと思った。中島さんの文体が読みやすいというだけではなく、インド国内を縦横に駆け巡った独立闘争といい、日本に渡ってからのダイナミックな活動といい、ボース氏の生涯自体が波乱に富んでいて非常に面白かったということもある。最大の驚きは、20世紀初頭の日本がこれほどアジアを視野に入れ、インド独立運動まで支援しようとしていた人がいたということだ。ボース氏の支援者の中には、緒方竹虎とか杉山満丸とか、なんだか今のインドとわずかながらでも接点がありそうな政財界のフィクサーの名前も登場する。

新宿・中村屋の定番「インドカリー」誕生の秘密は、追っ手の追及を避けて中村屋に身を寄せていたR.B.ボースが、食べるものに困って自分で故郷のカレーを作り始めたのがきっかけだったというのは面白い。日本で一般的なカレーライスは、実はインドから直輸入ではなく、英国経由で明治時代に入って来たものである。英国植民地からのインド独立を目指していたボースにとって、イギリス人によって作り変えられた「カレー」が、インド人が実際にインドで食べている「カリー」に代わって日本で普及しているのが許せなかったのだろう。

膨大な資料をうまく整理されており、臨場感溢れる伝記に仕上がっていると思う。その一方で、ふと感じたこともある。中島さん、本書を書き上げるための資料収集にどれくらいの時間を投入したのだろうかという疑問である。中島さんの博士論文が何がテーマだったのか具体的にはわからないが、仮にそれがボース伝記とは全く無関係だったとしても、これだけの情報収集をやり、集めた情報を整理して活字にしていくのは大変な作業であったに違いない。日本国内やインド国内各地の図書館を廻り、ボース関連の資料を集められたという。それくらいのことをやらないと説得力のある論文は書けないということなのだろうが、お陰で僕はかなり憂鬱になってしまった。

僕はこれでも博士課程に籍を置く研究者のはしくれだが、正直言うとここのところ全く研究の方が進んでおらず、冗談抜きで進退を迫られている。働きながら研究活動をやって3年で博士号を取ろうなんて虫の良い話で、実際には仕事の方で余裕がないから思ったようには進まないのだ。今年夏以降それをただでも痛感させられているが、今から言うが年明けから3月末までの自分の職場での業務日程の方が今までのそれよりもも遥かに重い。具体的に事例を挙げて言い訳をこの場でできないのが口惜しい。来年のことを考えると気が重くなるが、そんな時に余計に気持ちを暗くさせる良書を読んでしまったものだ。
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