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『手紙』 [読書日記]

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き切り、感動を呼んだ不朽の名作。
返却しなければいけない本なので25日(金)が祭日であるのを利用して読み始めた。420頁ぐらいのボリュームがあるが、所要5時間弱でのイッキ読みだ。それぐらい引き込まれる作品だった。

考えさせられる作品でもあった。 弟の大学進学だけを願って日夜働き詰めた兄・剛志は、腰を痛めて肉体労働がかなわなくなり、勤務先を解雇されてしまう。働き口の見込みもなく年の瀬を迎えた兄は、3年も前に引越業務で訪れた邸宅が老婆1人暮らしであることをふと思い出し、盗みに入り、誤ってその老婆を殺害してしまう。そこから弟・直貴の苦悩が始まる。兄が受刑者というだけで、差別される。高校生として残された直貴は、先ずは高校から厄介者扱いされ、兄の件を十分伝えずに働き始めたバイト先でも、発覚するや気を遣われる存在になる。

それでも高校を卒業し、担任教師の紹介で派遣会社で働き始める。やがて通信制大学に通い始め、夜間スクーリングで知り合ったクラスメートからバンドのボーカルに誘われるが、バンドがプロデビューのチャンスをつかむと一転して兄の服役がマイナス要因ということでバンドからの脱退を余儀なくされる。通信制から通学制に転科した直貴は、クラスメートから誘われた合コンで1人の女性と知り合うが、両家の令嬢で身分が違い過ぎることから恋人の家族の反対に遭い、離別を選択する。次は就職。兄は米国に渡って連絡がつかないと面接では偽って電器量販店での就職を果たすが、勤務する店舗で起きた盗難事件をきっかけに兄の所在が会社に発覚してしまう。解雇はされなかったものの、周囲の視線は強盗殺人犯の弟とどのように接したらいいのか戸惑うもので、直貴は物流部門に配置換えされてしまう。そこで社長・平野の言葉に力付けられ、これまで長く陰日向に直貴を支えてきた由実子と結婚し、やがて娘も生まれるが、移り住んだ社宅で、他の社員家族の戸惑いの視線を、今度は妻子が味わされることになる。

同じ東野作品でも、『流星の絆』や『さまよう刃』は被害者の遺族による復習の話で、特に『さまよう刃』は未成年の犯罪者を裁く術はあるのかという重いテーマを扱っていたが、『手紙』も重いテーマだと思う。身内に犯罪者が出てしまった時、犯罪者が償う罪の一部は残された家族も背負っていかなければならない、家族が差別に遭わない世の中などあり得ないという社長・平野の言葉は、聞くと納得いかないものがあるが、かといって完全否定することも難しい。

『手紙』というタイトルが示す通り、獄中の兄・剛志と弟・直貴の手紙の交換から話はスタートするが、社会の中で押し潰されそうになる直貴は兄の存在を疎く思うようになり、やがて自分からは手紙を出さなくなる。その感に兄への手紙を弟の振りをして書き続けたのが由実子であり、また終盤になって兄が被害者家族に宛てても毎月手紙を出していたことを知る。だから、作品中を通じての「手紙」の位置付けはいろいろある。

作品中、身内に殺人犯が出ることとか自殺(自分を殺すこと)とかが身内の築き上げてきた人間関係――「社会性」までもを全て断ち切る行為だと平野社長が直貴に語っているシーンが登場する。そして、平野は直貴にこう伝える。
「その方法は1つしかない。こつこつと少しずつ社会性を取り戻していくんだ。他の人間との繋がりの糸を、1本ずつ増やしていくしかない。君を中心にした蜘蛛の巣のような繋がりが出来れば、誰も君を無視できなくなる。その第一歩を刻む場所がここだ。」(pp.321-322)
この後、平野は白石由実子の存在も以て、少なくとも今でも繋がりの糸は1本はあるじゃないかと諭す。作品全体を通じて由実子の存在は非常に重要だが、この平野も、そして最後に再登場する、通信制大学時代のクラスメート寺尾祐輔も、そうした繋がりの糸の1本1本なのだなと思う。

もう1つ、読み進める過程でやたらと気になったのが、師走の街の風景とその中で感じる主人公・直貴の思いが出て来ることだった。兄・剛志が金に困って空き巣を思い付き、それが強盗殺人事件に発展してしまったのもクリスマスの頃のことだ。

「師走」或いは「クリスマス」、「手紙」、そして「他の人間との繋がりの糸」―――3つを繋ぎ合せると、ふと思うのは「年賀状」のことだ。何しろ僕は不精な性格で、今年も年賀状は書こうという行為自体をしていない。何だか自分自身の社会性を断ち切る行為を自分でやっているような気がしてしまい、今回はちゃんと書いた方がいいかなと思い始めている。今からじゃとうて元日には間に合わないが…。この年末年始はずっとデリーにいる予定。

作品を読んで終盤感動で涙が出てきた。これまでに読んだ東野作品の中では最も感動した作品だ。

こうした作品を読むと、映画化された理由もよくわかる。映画の方もかなり泣かせる作品だったようであり、そのうちに是非見てみたいと思う。

手紙 スタンダード版 [DVD]

手紙 スタンダード版 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 日活
  • メディア: DVD


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コメント 1

toshi

ご訪問ありがとうございました。
by toshi (2009-12-27 09:17) 

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